コラム

2021年1月1日更新 text by 寺田辰朗

第9回旭化成は4区に鎧坂、アンカーの7区に市田孝の新パターン
区間毎の見どころも多数。21年元旦はアンカー決戦か?

内容

駅伝の選手起用は成功パターンを踏襲するケースと、新しいパターンを試すケースがある。両者を上手く組み合わせることがほとんどだが、どちらかが色濃くなることが多い。
4連勝中の旭化成は3区間に前回と同じ選手を起用した。1区(12.3km)の茂木圭次郎(25)は2年連続3回目の1区で、前回は区間2位。5区(15.8km)の村山謙太(27)は5年連続となり、過去4回は区間賞3回と区間2位が1回で、この区間に絶対の自信を持つ。6区の小野知大(21)も2年連続で、前回は区間賞で先行するトヨタ自動車を逆転した。
しかし今回は、新パターンの印象も強い。3区(13.6km)が多かった鎧坂哲哉(30)が初めて4区を走るからだ。そして4連勝のうち4区(22.4km)を3回走ってきた市田孝(28)が初めて7区(15.5km)に回った。
旭化成の区間配置を軸に、区間毎の見どころを紹介する。

●1区(12.3km):前回区間2位の茂木と5000m日本選手権2位の松枝の動きに注目

旭化成は茂木圭次郎が2年連続でスターターを務める。前回は区間2位。区間賞も目標にするが、フォアザチームの走りに徹するのが茂木の1区の走り方だ。
「ライバルとなるチームにプレッシャーをかける走りをします。全員を意識して対応するのは難しいですけど、狙った相手との差を広げたり、最小限にとどめたりします」
ライバルチームのトヨタ自動車・田中秀幸(30)、富士通・松枝博輝(27)、Hondaの小山直城(24)、GMOインターネットグループの倉田翔平(28)、三菱重工の定方俊樹(28)らとの差を意識しながら走ることになる。

今季のトラックの実績では日本選手権5000m2位の松枝が一番で、ラスト勝負にも強い。5000mのタイムで松枝を上回る田中や、3000m障害の日本選手権優勝者の山口浩勢(29・愛三工業)もラストのスピードがある。
最初から1人で押し切ろうとする選手が現れれば別だが、おそらく集団でレースは進み、茂木がどこかでペースアップする。それに誰がつくことができるのか、という展開になりそうだ。
また今回は、新人が多く起用されている。
阿部弘輝(23・住友電工)を筆頭に、舟津彰馬(23・九電工)、關颯人(23・SGホールディングス)、中村友哉(23・大阪ガス)らだ。阿部は10000mが27分台でルーキートップ候補筆頭。1500m3分38秒台の舟津はラストが強い。

●2区(8.3km):旭化成の弱点区間。トヨタ自動車がカロキでトップ進出か

インターナショナル区間の2区は旭化成唯一の弱点区間。西村功監督も「先行される」と覚悟している。3強の中ではトヨタ自動車が強い。今季加入したビダン・カロキ(30)が、DeNA在籍時に3回(15、17、18年)区間賞を獲得している。
カロキは五輪&世界陸上10000mで5回も入賞した世界的なランナーだが、富士通のベナード・キメリ(25)も世界ハーフマラソン9位の実績を持つ。カロキと日立物流のリチャード・キムニャン(22)、前回区間賞の九電工ベナード・コエチ(21)の3人が今季、1万メートルで27分ヒト桁台をマークしている。三菱重工もクレオファス・カンディエ(20)が好調で、トップに立つのはトヨタ自動車とは限らない。

●3区(13.6km):旭化成・大六野の調子がどこまで上がっているか。田村兄弟対決が実現

旭化成は3区を2度経験している大六野秀畝(28)が出場する。18年の日本選手権10000m優勝者だが、今季の日本選手権は28分01秒29。チーム内でも6番目だったが、日本選手権後に調子が上がってきたと判断された。「日本選手権のときより明らかに上がっています。2区で後れることも想定していますが、先頭と詰めるのが自分の役割です」
トップは富士通・坂東悠汰(24)が進出するか。日本選手権5000m優勝だけでなく、東日本実業団駅伝4区区間賞など単独走にも強い。西山雄介(26)が2年連続区間賞ならトヨタ自動車がトップを走る。西山の日本選手権途中棄権の原因となった故障は軽傷で、すぐに練習を再開できたという。
前回区間2位の中山顕(23・Honda)、1500m日本選手権2位の的野遼大(28・三菱重工)は、2人のこの区間での頑張り次第で、次の4区でのトップ進出を演出できる。
2月の全日本実業団ハーフマラソン優勝の古賀淳紫(24・安川電機)、ベテランの岡本直己(36・中国電力)も注目選手。
日本選手権10000m3位の田村和希(25・住友電工)が区間賞候補の筆頭という見方も出ている。弟の田村友佑(22・黒崎播磨)と並走するシーンが見られるかもしれない。

●4区(22.4km):旭化成は鎧坂が初の最長区間登場。窪田、中村の駒大OBコンビが逃げ切れるか

旭化成は鎧坂哲哉が初めて最長区間を任された。鎧坂は高林交差点を左折した後の残り3kmの走りを重視したいという。
「向かい風に苦しんできた選手たちを見ています。最初からガンガン攻める走りではなく、淡々と走って行って、最後の3kmしっかり頑張れれば」
鎧坂は5000mで日本歴代2位を持つスピードランナー。本人が話す「淡々と」が、それなりのスピードが出ている可能性もある。近くを走るライバルチームの走りでも、少しは関わってくる。

富士通は東京五輪マラソン代表の中村匠吾(28)、トヨタ自動車は15、16年の2連勝時に4区を連続(区間3位、2位)で走った窪田忍(29)が起用された。旭化成より先にタスキを受け取る可能性が高く、駒大の先輩後輩がトップを並走する可能性がある。2人は鎧坂、Hondaの伊藤達彦(22)、三菱重工の井上大仁(27)が追いついてくる展開も想定しているだろう。3区までの位置によってはSGホールディングスの佐藤悠基(34)、ヤクルトの小椋裕介(27)、コニカミノルタの菊地賢人(30)、GMOインターネットグループの一色恭志(26)、日立物流・設楽啓太(29)らもその可能性がある。
中村や窪田は終盤でスパートして突き放す展開を考えているはずだ。それとも伊藤や井上が一気にリードを広げられるのか。向かい風になる最後の3kmで30秒近い差がつけば、勝敗を大きく左右する区間になる。

●5区(15.8km):旭化成が5年連続の村山で首位奪取へ。服部と3年連続対決。塩尻、青木の3000m障害コンビも注目

旭化成・村山謙太は4連勝の全てでこの区間を走り、区間1位・1位・2位・1位。最初の2年はトップで6区に中継し、ここ2年は2位でのタスキ渡しだが、トップチームとの差を詰めて6区での逆転を演出した。
「前の選手との距離によりますが、早めに追いついて、何km地点かわかりませんが、どこかで仕掛けると思います」
トヨタ自動車の服部勇馬は村山と同じ宮城県の高校出身。2年前は区間賞で村山を1秒差まで追い上げたが、前回は5秒差まで追い上げられ、チームは6区で旭化成に逆転された。「今回は村山さんに勝って区間賞を取ります。“倍返し”します」と意気込む。村山は「タスキをもらう位置次第では“倍返し”されちゃうかもしれませんが(笑)、お互い走りの特徴はわかっているので、それはありませんね」と自信を見せる。

旭化成は今回も、村山の走りである程度の目処をつけたいところだが、ライバルチームにとってはそれを阻止するための重要区間になる。富士通は塩尻和也(24)、Hondaは青木涼真(23)と3000m障害で8分20秒台を持つ2人を起用してきた。塩尻は箱根駅伝2区で区間日本人最高(当時)、青木は同駅伝5区区間賞と、駅伝でも強さを見せてきた。三菱重工は駒大の2区を3年連続で任された山下一貴(23)で、上りや向かい風に強い。
村山はこの区間の風のよけ方、上り下りの利用の仕方の経験で一日の長があるが、上り自体が得意というわけではない。ライバルチームは5区で村山を抑えると、間違いなく勝機が大きくなる。

●6区(12.1km)旭化成は前回逆転Vの立役者となった小野。9年連続優勝チームから区間賞選手が誕生するか?

旭化成は前回、トヨタ自動車を逆転した小野知大が2年連続で走る。今季前半は故障でレースに出られなかったが、その間に新しい体幹トレーニングにも取り組み、フォームの改善につなげてきた。「10月からは順調に練習ができ、10月より11月、11月より12月と調子が上がっています。前回以上の走りをしたい」と、手応えと意欲を持って群馬入りした。
しかしトヨタ自動車は青木祐人(23)、富士通は鈴木健吾(25)と10000m27分台ランナーを、GMOインターネットグループも5000mチームトップの近藤秀一(25)を起用してきた。
小野は10000mの自己記録で青木、鈴木に1分以上差をつけられているが、練習の10kmでは28分台前半を出している。ロードなら横一線と考えていいのではないか。

13〜14年のコニカミノルタ、15〜16年のトヨタ自動車。そして17〜20年の旭化成と、この8年間は優勝チームから6区の区間賞選手が出ている。チーム7番目や新人選手が起用される区間で、選手層の厚さが現れる区間だからだが、トヨタ自動車の佐藤敏信監督は、「だからこそしっかり強化して、勝負に行く」と話す。
今回も区間賞を取ったチームが優勝する可能性は、かなり高そうだ。

●7区(15.5km):旭化成は市田孝が初アンカー。10年ぶりの最終区逆転が起こるのか?

旭化成は市田孝が初めてアンカーを任された。「アンカーは旭化成に入って初めて。どんな展開になっても、最後まで絶対にあきらめません。みんなが運んできた大事なタスキをかけて、トップでゴールテープを切りたいです」
西村監督は市田の起用理由を「向かい風が吹いても1人でも押して行く走りができます。最後もある程度のキレがある」と説明する。ゴール前の叩き合いではなく、中間走で決着をつけようとしている。
その市田は「浦野(雄平・23・富士通)君たち新人の勢いを感じますが、牽制して引かないようにしたい」と若手との勝負になっても積極的に走るつもりだ。
トヨタ自動車はチーム最年長の大石港与(32)で、10000m27分台ランナーの市田と大石を最終区に残せる旭化成とトヨタ自動車は、選手層の厚さで他チームを上回る。
市田が言うように新人が多い区間になった。富士通の浦野、Hondaの土方英和(23)、GMOインターネットグループの吉田祐也(23)、SGホールディングスの鈴木塁人(23)が起用された。

面白いのは國學院大出身選手が多いこと。浦野と土方は、1年前の箱根駅伝チーム最高順位の3位を支えたダブルエースだった。その2人の1学年先輩にあたるのが、三菱重工アンカーの江島崚太(24)だ。練習ではチームの主力の井上、定方、的野と遜色ない練習ができるようになっている。三菱重工の黒木純監督によると「絶対に勝ちます」と話していたという。
さらに前回4位とチーム最高成績を残したJR東日本も、國學院大出身の寺田夏生(29)が2年連続でアンカーを務める。前回が区間11位でも順位を1つ上げたように、アンカーの役割をしっかり果たす選手だ。
新人たちも含め、実績のある選手たちが多く7区に起用されている。どのチームも選手層が厚くなったからそれができるのだが、アンカー決戦を見越しての起用というケースも多くなっている。
2年前にも旭化成とMHPS(現三菱重工)のアンカー同士が大接戦を繰り広げたが、7区での逆転劇は11年大会のトヨタ自動車が最後。つまり過去9大会は6区でトップに立ったチームが優勝している。今回は10年ぶりの最終区逆転劇が見られるかもしれない。

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寺田辰朗(てらだ たつお)プロフィール

陸上競技専門のフリーライター。
陸上競技マガジン編集部に12年4カ月勤務後に独立。
専門誌出身の特徴を生かし、陸上競技の詳しい情報を紹介することをライフワークとする。一見、数字の羅列に見えるデータから、その中に潜む人間ドラマを見つけだすことは当代随一。
地道な資料整理など、泥臭い仕事が自身のバックボーンだと言う。選手、指導者たちからの信頼も厚い。
AJPS (日本スポーツプレス協会) 会員。

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