コラム

2022年1月1日更新 text by 寺田辰朗

第7回3強の勝負がもつれそうな後半戦(5〜7区)区間毎展望
優勝チームの6区区間賞獲得が10年連続に伸びるのか?

内容

富士通の2連覇か、旭化成の2年ぶりV奪回か、Honda悲願の初優勝か。
2022年最初のスポーツ日本一が決まるニューイヤー駅伝。7区間100kmのコースに37チームが参加して行われる駅伝の区間毎の見どころを、3強のレース展開予想を中心に紹介していく。5区以降は向かい風になるため、順位変動が起きにくい。そのため前半に力のある選手が集中するが、その傾向に変化が生じている。それを象徴するのが、6区に塩尻和也(富士通)と鎧坂哲哉(旭化成)が出場することだ。ともに日本代表経験があり、5000mで13分10秒台の歴代上位記録を持つ。チーム内6〜7番目の選手が起用されることが多かった区間に、勝負を決めるためにエース級が投入されるようになった。
3強の争いは最後まで目が離せない展開になりそうだ。

●5区(15.8km)
トラックの走力で勝る青木が抜け出すか。区間賞争いは服部も有力

□東京五輪代表□トヨタ自動車:服部勇馬(マラソン)□Honda:青木涼真(3000m障害)
3強は富士通がマラソン日本記録保持者の鈴木健吾(26)、旭化成が2年前の6区区間賞の小野知大(22)、Hondaが東京五輪3000m障害代表の青木涼真(24)。
3人の中では5000mでも全日本実業団陸上2位と、多くの外国選手を破った青木のスピードが頭1つ抜けている。富士通が塩尻和也(25)、旭化成が鎧坂哲哉(31)と、代表経験もある大物選手を6区に配置している。富士通チームからは(鎧坂を除けば)30秒差なら塩尻で追いつける、という声も出ている。3〜5区に3本柱を投入しているHondaとしては、5区でで30秒以上のリードをしておきたい。
小野はトラックの記録では青木と差があるが、西村監督は「1人で自分のリズムで走るなら小野は負けていない」という。旭化成が4区終了時にトップなら、小野が差を広げる展開もある。
面白いのは鈴木と小野は前回も6区で対決していること。鈴木が区間賞を取ったが2人のタイム差は4秒だった。ニューイヤー駅伝後に鈴木はマラソンで日本記録を出したが、小野も故障を克服してトラックで自己新を連発した。2人のこの1年間の成長(変化)が走りに現れる。

3強以外では前回区間賞のトヨタ自動車の服部勇馬(28)が強い。東京五輪のダメージからの回復に時間がかかったが、合わせるところにはしっかり合わせてくる。「前回も福岡国際マラソンを欠場するケガがあって、バタバタした中で駅伝に合わせました。今回もバタバタしましたが駅伝は外さない選手ですね。今の力は出してくれそうです」(佐藤監督)
青木が区間賞最有力候補であることは変わらないが、3年連続5区を走ってきて区間賞2回の服部が、「コースを熟知している」という面でも自信を見せる。区間賞争いは予断を許さない。

●6区(12.1km)
鎧坂vs.塩尻、5000m13分10秒台選手同士の戦いが実現。逃げるHondaを2人で追う展開か?

3強の争いが佳境に入る。富士通は塩尻和也、旭化成は鎧坂哲哉、Hondaは中山顕(24)が配置された。6区を5000m13分10秒台の選手が走ったことなど、いまだかつてなかった。それが2人もそろうことなど、普通に考えてあり得なかった。
塩尻は11月に10000mで27分45秒18の自己新、12月には5000mで13分16秒53の日本歴代7位で走っている。鎧坂の自己記録は13分12秒63の日本歴代2位と27分29秒74の日本歴代6位。現在はマラソン出場に向けて練習のスピードは以前より落としているが、それでも11月に10000mを27分41秒78で走った。向かい風でスピードが抑えられる6区には、マラソン練習をしている今の方が適した状態かもしれない。

旭化成と富士通がどんな位置関係でタスキを受け取るか、で2人の走り方が変わってくるが、どんな状況で走り始めても、この区間で前に出るか、最悪小差で7区に託すしかない。塩尻は「20〜30秒後ろでもらっても、見えているなら追いやすい」と強気で前を追う。
中山はルーキーだった2年前に3区区間2位の実績がある。前回は故障明けから急ピッチで仕上げた影響で、3区区間17位と失敗した。今回も故障明けだが、前回は11月からだったのに対し今回は8月から練習が継続できている。「2年前と比べて勢いはわかりませんが、状態は同じくらいまできている」という。6区出場はチーム状況から予測していて、向かい風対策も行ってきた。塩尻と鎧坂という格上の2人が相手だが、中山も一矢報いるくらいの力はある。

3強以外ではトヨタ自動車ルーキーの西山和弥(23)の調子が上がっている。東洋大2年時までは箱根駅伝1区区間賞や日本選手権10000m入賞など順調だったが、大学後半から低迷し始めた。「股関節の痛み」(西山和)が原因だったが、接地を変えることで良くなっている。「重心の下で接地をして、蹴るというより乗せる感覚に変えました」
大学前半の勢いが戻れば区間賞争いに加わるかもしれない。

●10年連続6区区間賞獲得チームが優勝するのか?

本当にこんなことが起きるのか、というくらい不思議なニューイヤー駅伝の現象がある。過去9大会連続で優勝チームの6区選手が区間賞を獲得しているのだ。
駅伝の傾向として選手層が厚いチームが優勝するので、チーム内6〜7番目の選手が走る区間は弱いチームほど選手の力が落ちる。
下の表の優勝チームの6区選手と、2位チームの6区選手とのタイム差を見るとそのあたりが理解できる。2位チーム6区選手は前回2位のトヨタ自動車・青木祐人を除けば、優勝チームの6区選手とタイム差が大きいし、区間順位も悪い。つまり2位チームでさえ力のある選手を残しておくことができない。ニューイヤー駅伝の6区はチーム力の差がはっきりと現れて、インターナショナル区間を除けば距離は一番短いのにタイム差がつきやすい区間なのである。

優勝チーム・区間賞選手 記録 2位チーム6区選手とのタイム差
13年:コニカミノルタ・新田良太郎 37分31秒 1分44秒(区間24位)
14年:コニカミノルタ・新田良太郎 38分05秒 27秒(区間2位)
15年:トヨタ自動車・田中秀幸 36分59秒 1分21秒(区間7位)
16年:トヨタ自動車・田中秀幸 37分54秒 31秒(区間10位)
17年:旭化成・市田宏 36分32秒 24秒(区間2位)
18年:旭化成・市田宏 35分49秒 49秒(区間4位)
19年:旭化成・市田宏 36分14秒 36秒(区間9位)
20年:旭化成・小野知大 35分13秒 51秒(区間4位)
21年:富士通・鈴木健吾 35分33秒 3秒(区間2位)

優勝していたチームに以前、6区へ強い選手を意図的に起用しているのかを取材をしたことがあった。現場サイドからは区間賞を取りに行っているわけではなく、適材適所の区間起用や、チーム戦略によって区間配置をした結果、6区の選手が区間賞を取っている、という回答だった。ただ、トヨタ自動車の田中秀幸が区間賞を取っていた頃には、優勝するためには6区の区間賞が取れるチームでないといけない、という認識が出始め、多少はそこを意識した選手起用になっていた。

だがあくまでも、“優勝したチームの6区選手が区間賞を取っている”だった。
それが今大会の富士通と旭化成の選手起用は、6区が勝負区間になっているから強い選手を配置する、という理由に変わってきている。
塩尻は自身が6区を走る理由を次のように話している。
「前回以上に混戦になること、終盤までもつれる展開になることが予想されます。最近は6区で勝負が決まっていることが多いので、6区である程度リードしたい、という狙いだと思います。直近で5000mを良いタイムで走れているので、距離的にも今の状態を生かせます」
つまり“6区区間賞を取ればチームが勝つ”という形に変わっていくと各チームが考え始めた。旭化成の鎧坂は「9年連続6区区間賞を取っているチームが優勝しています。それをやりに行くだけです」と話している。
ただ、代表選手クラスを6区に起用できるのは、選手層が分厚いチームに限られる。どのチームも後半に強い選手を残したいのはやまやまだが、それができないのが現状である。

●7区(15.5km)
早めの仕掛けが予想される土方。浦野と大六野にはアンカーで優勝した経験

3強のアンカーは富士通が浦野雄平(24)、旭化成が大六野秀畝(29)、Hondaが土方英和(24)で、全員がアンカーの経験がある。
浦野はルーキーだった前回も7区で区間賞。6区の鈴木から2位と40秒差のトップで受け取ったタスキを、1分03秒に差を広げてフィニッシュ地点の群馬県庁まで運んだ。
大六野は19年大会の7区で、MHPS(現三菱重工)の岩田勇治とデッドヒートを繰り広げ、最後は4秒差で競り勝った。
土方も前回7区を走って区間3位。チームの順位は6位から5位に上昇させたが、最後で高校の先輩である日立物流・服部翔大(30)に競り負けている。
最後のスピードに一番自信を持っているのは、おそらく大六野だろう。日本選手権10000mに優勝したスピードを持ち、3年前に見せたように切り換え能力もある。浦野は前回独走だったが、最後のスピードにも自信があるという。土方はマラソンで2時間6分台を出す活躍を見せているが、最後のスピードの切り換えは苦手としている。

浦野と土方は國學院大で4年間、同じ釜の飯を食べた間柄だ。仮に富士通とHondaが並走すれば「お互いに手の内を知っている中での戦いになる」と言う。
「勝負パターンはそんなにあるわけではありません。僕は残り200〜300mでも十分に勝負ができます。土方は残り1kmとか3kmとかで行くと思いますが、僕は土方に合わせるだけです」
土方の立場からすると、早く振り切れれば勝ちで、振り切れなければ負けとなる。
浦野と大六野の勝負は直接対戦がないだけに、出たとこ勝負になる。自分のラストを信じて最後まで勝負を待つか、行けると感じたところでスパートするか。
実際にアンカー決戦になるかどうかはわからない。富士通は当初は、6区の塩尻でリードを奪うつもりでいた。しかし旭化成の鎧坂6区起用で、思い通りに進まない可能性が大きくなった。HondaはHondaで、5区の青木でリードし、6区以降も影を踏ませないレースをしたいと考えている。
3強の区間配置を見ると、最後まで勝負がもつれる可能性が大いにある。22年最初の日本一決定戦は、最後の最後までテレビから目が離せない展開になりそうだ。

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寺田辰朗(てらだ たつお)プロフィール

陸上競技専門のフリーライター。
陸上競技マガジン編集部に12年4カ月勤務後に独立。
専門誌出身の特徴を生かし、陸上競技の詳しい情報を紹介することをライフワークとする。一見、数字の羅列に見えるデータから、その中に潜む人間ドラマを見つけだすことは当代随一。
地道な資料整理など、泥臭い仕事が自身のバックボーンだと言う。選手、指導者たちからの信頼も厚い。
AJPS (日本スポーツプレス協会) 会員。

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