会場:ポーラ美術館[箱根・仙石原]/期間:2013年7月13日(土)〜11月24日(日)
モネは1890年代から、同一主題をさまざまな天候や時間によって描き分け、複数の作品を一度に展示する連作を発表し始めます。
「積みわら」は1891年に初めて発表された連作です。
《ジヴェルニーの積みわら》はその以前の1884年に制作された作品であり、《積みわら》は、1890年代の連作の積みわらをもとにした作品です。
前者は陽光に照らされた積みわらを明るい色彩で描き、後者では積みわらを「包み込むもの」、すなわち光や大気など不可視なものを表現しようとしていることが、積みわらを囲む切れ切れの線からうかがわれます。
印象派の画家たちが盛んに活動した1880年前後から1900年ごろにかけて、伝統的なスタイルで抒情的な世界を描き、フランスで強い影響力を持っていたピュヴィ・ド・シャヴァンヌ。
バルセロナで青春時代を送ったピカソもまた彼に惹かれていたことをうかがうことができる2点です。水辺にたたずむ内省的な人物の表現、舟の形と水面への反映など、多くの共通点が見られます。
《舟遊び》と《バラ色のボート》は、モネの2番目の妻アリスの娘、シュザンヌとブランシュがモデルとなっています。1880年代後半、モネは「人物を風景のように描きたい」と語っているように、両作品で周囲の風景と人物を一体として表現しています。
そして、日本の浮世絵の影響による、中心を外した構図と大胆なモティーフの切り取りによって水面を画面に大きく取り込み、《舟遊び》では、そこに映る人物の影や空や雲の反映をとらえ、《バラ色のボート》では、水面の動きとともに奥に揺らめく水草までもを、うねるような力強い筆致で描いています。
モネは1899年から3年続けてロンドンを訪れ、産業の発達に伴って発生したスモッグに覆われた都市を幻想的な〈テムズ河風景〉連作に残しています。モネはロンドンの魅力について、この「霧のマント」に包まれた神秘性にあるという言葉を残しました。
《国家議事堂、バラ色のハーモニー》は、霧が太陽の光を浴びてバラ色に輝く中、青いシルエットで浮かぶ建物群が水面の反映像と一体化して抽象的な形へと変容し、人馬の通る橋を描いた《ウォータ ルー橋、ロンドン》では、橋の影と水面の反映像が一体になって並び、霧の奥へと続いてゆきます。
セーヌ河に浮かぶ行楽地を描いたモネの《グランド・ジャット島》と、パリ北西の古都を描いたセザンヌの《ポントワーズの橋と堰》。
ともに、画面の端に木々を配し、遠方へと蛇行する道で奥行感を演出する伝統的な構図を利用しつつ、遠景に近代化を象徴する工場や鉄道橋などを配した水辺の眺めですが、2人の芸術の相違も際立ちます。
自然の息吹を伝えつつ、構築的で安定した空間が顕著なセザンヌ作品に対して、モネは、明朗な色彩と素早い筆致、そして斜角を強調した空間構成によって、画中を一陣の川風が吹き抜けていくような動きのある風景を描き出しています。