法案の現状
2001年3月27日に閣議決定し、国会に提出。通常国会、同年秋の臨時国会でいずれも継続審議扱い。実質審議入りはしていない。

法案の概要
  同法案は、情報化社会の進展を踏まえて個人情報を保護するために、個人情報を取り扱う際の基本原則および、個人情報取り扱い事業者の義務、同事業者に対する行政の指導・監督権限を定めている。
  まず、個人情報を扱うすべての者は次の5つの基本原則を守るよう努めなければならないとされている。
  1. 利用目的による制限――利用目的が明確にされ、当該目的の達成に必要な範囲内。
  2. 適正な取得――適法かつ適正な方法で取得。
  3. 正確性の確保――利用の目的の範囲内で正確かつ最新の内容を保持。
  4. 安全性の確保――漏洩、滅失、毀損防止など安全管理の適切な措置。
  5. 透明性の確保――本人が適切に関与し得るよう配慮。
  さらに、個人情報取り扱い事業者に課される義務規定により、データベース事業者などは本人の求めに応じて開示、訂正、利用停止を行わなければならないとされている。義務違反には助言、勧告、中止命令などが課される。主務大臣は、事業者が設ける苦情処理機関を認定し、改善命令を出すことができ、違反した場合は罰則がある。これらの義務規定については、報道、学術研究、宗教活動、政治活動について、適用が除外されている。

法案の問題点(報道との関連)
  個人情報を取り扱うすべての者に課されている基本原則は、報道機関にも適用される。同基本原則には罰則などの規定はなく、単なる努力義務とされている。しかし、「適法かつ適正な取得」「本人の適切な関与」などの条項を理由に、被取材者から取材を拒否されたり、取材内容の開示を求められたりするおそれがあり、特に公人の疑惑追及などの取材活動に制約が加えられる危険がある。また、被取材者が報道機関を訴える裁判に影響を与えると予想されている。
  報道機関が報道目的で個人情報を取り扱う場合は、義務規定の適用を除外されることになっているが、報道機関か報道目的かの判断は行政に委ねられる。放送で言えば、バラエティ、ドラマなどの扱いがあいまいであり、行政介入のおそれがある。また、フリーのジャーナリスト・作家などについても明確な位置付けがない。

民放連の対応
  2000年8月、大綱案に対し新聞協会、NHKとともに共同声明を出したあと、2001年3月9日に、「『表現の自由』に関わるすべての活動(報道取材・番組制作分野)については、個人情報保護法から全面適用除外(法の対象外)されるよう強く求めたい」との見解をまとめ、森総理大臣に提出した。

個人情報の保護に関する法律案(抜粋)

(目的)
第一条
この法律は、高度情報通信社会の進展に伴い個人情報の利用が著しく拡大していることにかんがみ、個人情報の適正な取扱いに関し、基本原則及び政府による基本方針の作成その他の個人情報の保護に関する施策の基本となる事項を定め、国及び地方公共団体の責務等を明らかにするとともに、個人情報を取り扱う事業者の遵守すべき義務等を定めることにより、個人情報の有用性に配慮しつつ、個人の権利利益を保護することを目的とする。

第三条
個人情報が個人の人格尊重の理念の下に慎重に取り扱われるべきものであることにかんがみ、個人情報を取り扱う者は、次条から第八条までに規定する基本原則にのっとり、個人情報の適正な取扱いに努めなければならない。

(利用目的による制限)
第四条
個人情報は、その利用の目的が明確にされるとともに、当該目的の達成に必要な範囲内で取り扱われなければならない。

(適正な取得)
第五条
個人情報は、適法かつ適正な方法で取得されなければならない。

(正確性の確保)
第六条
個人情報は、その利用の目的の達成に必要な範囲内で正確かつ最新の内容に保たれなければならない。
(安全性の確保)
第七条
個人情報の取扱いに当たっては、漏えい、滅失又はき損の防止その他の安全管理のために必要かつ適切な措置が講じられるよう配慮されなければならない。

(透明性の確保)
第八条
個人情報の取扱いに当たっては、本人が適切に関与し得るよう配慮されなければならない。

(適用除外)
第五十五条
個人情報取扱事業者のうち次の各号に掲げる者については、前章の規定は適用しない。ただし、次の各号に掲げる者が、専ら当該各号に掲げる目的以外の目的で個人情報を取り扱う場合は、この限りでない。
一 放送機関、新聞社、通信社その他の報道機関 報道の用に供する目的
二 大学その他の学術研究を目的とする機関若しくは団体又はそれらに属する者 学術研究の用に供する目的
三 宗教団体 宗教活動(これに付随する活動を含む。)の用に供する目的
四 政治団体 政治活動(これに付随する活動を含む。)の用に供する目的

2 前項各号に掲げる個人情報取扱事業者は、個人データの安全管理のために必要かつ適切な措置、個人情報の取扱いに関する苦情の処理その他の個人情報の適正な取扱いを確保するために必要な措置を自ら講じ、かつ、当該措置の内容を公表するよう努めなければならない。