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インタビュー

VOL.5 武田鉄矢さん(緒方洪庵 役)


ご出演の依頼があったときのお気持ちを聞かせてください。

緒方洪庵というのは、とても思い入れのある人物でね。私の尊敬している人が“日本史の中で3人の尊敬する人物”を挙げているのですが、それが勝海舟・坂本龍馬・緒方洪庵なんですよ。そんなこともあって、この洪庵も以前からとても興味のあった人なんだけれど、坂本龍馬は青春時代に命を懸けて演じた思い出があるし、勝海舟も来年大河ドラマで演じることが決まった矢先、ひょこっと「洪庵の役をやらないか」というお話をいただいてね。「ああ、これもなにかの縁だな」と運命を感じて引き受けました。自分としては、それなりに演じきったつもりです。

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緒方洪庵に対してどんなイメージをお持ちでしたか?

戦後の大作家・司馬遼太郎さんがため息混じりに書かれた「洪庵の松明」という短編小説があるんですが、これがなかなか良い文章でしてね。それを読むと、洪庵ってのはとってもいい人だったみたいですねぇ。日本の医学界の先駆けとなった大阪の町医者なんですが、「医こそ仁である」の考えを生涯貫いた方で、日本で初の試みとしてジェンナーの種痘法を広めようとしたときにも、種痘を施す患者さんにお金を払ったと言いますからね。現代にもいろいろなお医者さんがいますけれど、お金を払ってまで治療をしてくれる医者なんてまずいないでしょう(笑)?非常に善意に溢れた立派な人だったんじゃないかなと思います。
洪庵と私に共通しているところなんてぜんぜんないのですが、誠実に演じて、それが伝わればいいなと思いながらお芝居に臨んでいました。

幕末期、多くの青年たちが西洋医学に魅せられたのはなぜなんでしょうか?

もちろん龍馬のように「倒幕」と「経済」の方向へ日本を引っ張っていくんだという開明的な若者もいたんですけれど、頭の良い青年たちはみな医学に吸い寄せられているんですよね。彼らが漢方ではなく西洋医学に強く惹かれたのには理由があって、西洋医学というのは王様も貴族も普通の人も…身分に関係なく、診療所にみな等しく並ぶという考え方が浸透していたから。王様・女王様を診るがごとく、医者は“パン屋のジョン”のことも等しく心配する。「病のもとに身分は関係ない」という事実が、彼らにとっては大変衝撃的でまぶしく見えたんでしょうね。

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武田さんの演じる洪庵といえば、大阪なまりが特徴的でしたよね。

洪庵は、岡山に生まれて大阪で青春時代を過ごし、『適塾(適々斎塾)』という私塾を開いて日本の近代化を図る若者たちを育てていたのですが、その評判を聞きつけた幕府から江戸に出てくるよう熱烈なオファーを受けましてね。でも、この人には江戸の町が合わなかったのか、江戸に出てきてからまもなく亡くなっているんです。最期まで「慣れ親しんだ大阪に帰りたい」と願っていた洪庵だからこそ、大阪なまりを取り入れることによって“大阪への恋しさ”みたいなものを表現できたのならよかったなと思っています。

適塾の門下生には、あの福澤諭吉もいるんですよね。

そうそう。これもなにかの本で読んだのですが、福澤諭吉が病気で倒れたとき、洪庵が面倒を見たことがあったそうなんですよ。もしも、あのとき洪庵が福澤の命を救っていなかったら…福澤の末裔であるTBSのディレクターはこの世に存在していなかったんだなぁなんて考えると、本当にワクワクしますよね(笑)。まさしく『タイムスリップ』で、歴史は続いているんだなぁと感じました。ちなみに、緒方洪庵の教え子には手塚治虫の曾祖父もいるんですよ。

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もし、武田さんが江戸時代に『タイムスリップ』してしまったら!?

割と溶け込むのは早いんじゃないかな。アムロちゃんなんて小顔で宇宙人みたいなスタイルだけど、それに比べて俺は縄文系だもん(笑)。江戸の町にだってすぐ馴染めると思いますよ。ただ、このドラマの主人公とは違って、農民にでもなって時代の中に埋もれて消えていくんでしょうね。

撮影の最終日には、雨に打たれるという過酷なシーンもありましたね。

時代劇で雨ってのは、意外と天敵みたいな関係なんですよ。着物が傷んでしまうというのもそうだけど、雨に打たれるとどうしてもカツラがバレてしまいますからね(笑)。それでもこの作品の世界観を最大限引き出すために、あのシーンも監督は雨を降らせたかったんじゃないでしょうか。
そもそもこの作品は劇画からスタートしているけれど、こうやって実写化したことによって、漫画のコマよりもはるかに厚みが出ましたよね。龍馬であろうが海舟であろうが、各俳優がそれぞれ“歴史の活字に残っていない気分”みたいなものを探り当てながら演じていることも、エンターテイメントとして多くの人に受け入れられている要因なんじゃないかと思うんだよね。

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このドラマに関わるスタッフの方たちはいかがでしたか?

まぁ、よう頑張るチームですわ。もちろん演出をはじめとする各セクションが全力で作品と向き合っているんだけれども、特に美術スタッフの連中が頑張っているよねぇ。
彼らの力量にどこで気がついたかというと、仁に持たせている注射器や点滴の瓶。あれも全部手作りなんですが、「幕末にあった技術の範囲内でどれだけのものがつくれるか」ということを本当によく研究して、工夫して1点1点を用意してくるんですよ。美術スタッフってのは、いつも腰にトンカチをぶら下げてガムテープ持って歩いているような兄ちゃんたちだったりするんだけど(笑)、彼らのおかげでこの作品のクオリティがぐんと上がっているような気がする。主役の大沢くんも、彼らの仕事ぶりにはものすごく感動していたし、そんな大沢くんを見て私も感動を覚えたよね。
時代劇とは些細なことでうまく成立し、微々たる小道具で崩れ去っていくものだということを、ものすごく理解しているスタッフたちなんじゃないかなぁと思います。

最後に、大沢たかおさんと初共演された感想を教えてください。

なかなかやる人ですよ。本当にすごい俳優さんだなと思いました。
仁と洪庵の別れの場面では、監督からいろいろと注文がついて3回同じシーンを撮影したんですけれど、大沢くんは3回とも泣いていましたからね。こちらはさすがに泣けなかったけれど、「大した集中力の人だなぁ」と思いましたよ。
私の家族はよくドラマを見ていて、その感想を聞かせてくれるんですが、『JIN−仁−』に関しては「主役が誠実だ」としきりに言いますね。うちの女房はこの作品がきっかけですっかり大沢くんの大ファンになったようですが(笑)、「誠実な主役は近頃珍しいわよねぇ」なんていいながら夢中になっていますよ。
彼は、まるで“韓流スター”のような誠実さをたたえた新しいタイプの主役さん。魅力いっぱいの人なので、また五分に組んでやってみたいです。

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