TBS 日曜劇場「JIN -仁-」｜インタビュー

インタビュー

VOL.4 中谷美紀さん（野風・友永未来二役）

原作をお読みになった感想をお聞かせください。

漫画は、絵やせりふの要素などが多くて読み慣れないのですが、ぐいぐいと引き込まれました。医療の現場って、喜びも、悲しみも、苦しみも常に一緒にあって、ある意味“人の感情”が凝縮された場所だと思うんです。私たちの想像しえない江戸時代の医療現場というものを感じることができて面白かったですし、歴史を変えてしまうことに戸惑いながらも懸命に人の命を救っていく仁先生の姿にも共感を覚えました。

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「友永未来」と「野風」という２役を演じていらっしゃいますが、演じてみて感じたことや、役に共感できるところなどがありましたらお聞かせください。

仁先生の現代での恋人・未来は、“医者の不養生”といいますか“紺屋の白袴”といいますか、自分自身が脳腫瘍にかかってしまい、手術を受ける立場になってはじめて患者の気持ちがわかるという女医の役です。未来という人物を演じることによって、日々医療に携わる方たちが、自分の寝食をないがしろにしながらも人命を救うことに懸命に取り組んでいらっしゃるという事実に触れ、その姿勢に心から敬意を払いたいと感じました。
また、野風を演じていると、「お客様をおもてなしする」という意味においては、俳優業も“彼女たちの感覚と少し近い部分があるのではないかな”という風に思います。花魁である野風には「お客さまのためには涙を流しても、本当の涙は見せない」といったプライドがあるのですが、私自身も“演じる”というお仕事にすべてをかけたいなと思いつつ、どこかでプライベートとは切り離して考えているようなところがあります(笑)。

この２役を演じる上で、難しいなと感じた点はありますか？

未来という女性はこのドラマオリジナルのキャラクターなので、“どんな女性なのか把握しにくいだろうな”という想像はついていたのですが、野風という役に関しては、原作の漫画に登場するのでわりとイメージがしやすかったんです。ところが、実際に野風を演じてみると、“表に見える感情”と“彼女自身が心に抱いている本当の感情”というものに温度差があり、“表面だけを繕って自分の感情を見せないようにしているような部分”と“見せないようにしているにもかかわらず露見してしまう部分”などといった微妙な心情を表現するのが難しくて…。その微妙な“さじ加減”に、いつも悩みながら演じています。
まったく異なる役柄なので、一方から他方の役へと気持ちを切り替えながら演じるというのは難しくもありますが、どちらもこの作品とっては非常に重要な存在なので、野風を演じる時は野風を、未来を演じる時は未来の気持ちをていねいに表現できるよう心がけています。

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野風をはじめとする花魁とは、どんな人たちだったのでしょうか？

現代においてその姿を目にすることは叶いませんが、彼女たちの大半は、自分の身内に売られてしまったという悲しい生い立ちを持っている、どこへも帰る場所のない人間です。野風もそんなひとりなのですが、彼女たちは孤独を内に秘め、廓の中で誇りを持って気高く生きていたのだと思います。大勢の遊女たちの頂点に立つ花魁は、和歌やお茶をたしなんだり書にも精通するなど、非常に高い教養を身につけていたといわれているのですが、そのような人間がお客様をおもてなしをするという文化があったなんて、とても贅沢な時代だったんだなと感じました。

花魁の衣装はいかがでしょうか？準備に大変時間がかかると伺いました。

衣装もかつらもすごく重たいですし、すべてを身に着けるのには２時間ほどかかります。ナチュラルメイクでしたらこんなにも時間を要しませんし、かんざしだって何本も挿したりしなければ楽なのに･･･とも思うのですが、花魁たちは重みに耐えて豪華なかんざしを挿すことで、きっと見栄を張っていたのでしょうね。支度に掛かる時間や、カツラ、お着物の重みも含めて、これが花魁という役を演じる責任なのかなというふうに理解しています。孤独な心情を抱えながらも、廓の中だけでは光り輝いていた彼女たちの悲しみというものを、この重い衣装を身に着けることによって少しでも理解できたらと思いながら演じています。

お支度が大変とのことですが、衣装や鬘、メイクのスタッフさんなどのお話もお伺いできますでしょうか？

「匠の技」といいますか、本当にそれぞれのスタッフの方がその道のプロなんですよね。衣装さんにしても、帯や帯締めなどを無理やりぎゅうぎゅう締めたりせず「軽くそっと」結んでくださるんですけれども、なぜか不思議なことに着崩れしないんです。きっと“知られざるテクニック”をお持ちなのでしょうけれど、着せ方が本当にお上手ですね。着物は洋服とは違って、異なる体型の人が同じ形のものを着こなすものなので、着る人に合わせた身体の補正作業が大切になってくるのですが、私の体型にピタリと合ったように着付けてくださるおかげで、野風の凛とした感じを表現できているのではないかと思います。
また、鬘（かつら）も、本来ならばもっともっと重たいものなんでしょうけれど、毛量を極限まで減らして極限まで軽いものを作ってくださったのでありがたいですね。とにかく髪の毛一本一本を丁寧に扱う鬘屋さんなので、安心してすべてを委ねています。メイクをご担当くださっている方も、ご自分のお顔に何段階もの白塗りメイクを施して、それをお写真に撮って「参考に」と持ってきてくださって、テレビのリアルな映像に相応しいメイクをご提案いただきました。本当に素晴らしいスタッフさんばかりです。

花魁といえば、独特の言葉づかいや所作もポイントですよね。

そうですね。スタッフの方とお話するときにも、ときどき花魁言葉を取り入れて会話を楽しんでいます。とはいっても、「ありんす」とか「ござんせん」など語尾だけを少し変えて、言葉遊び的な感じですけれども（笑）。仕草に関しては、日本舞踊の先生などにご指導をいただいたのですが、つねに美しく見えるような所作を心がけています。
もちろん、この独特な衣装に助けられていることも多いのですけれども、形だけにならないように、着物を着せられているように見えてしまわないように･･･身体の中からお着物がなじむようにしていきたいなと思うのですが、日々お勉強中ですね。私自身、普段から友人知人に「色気がない」と言われるのですが、この作品で野風を演じているときだけは、身体のほんのちょっとした仕草だけでも色気を表現できるようになりたいです。

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江戸時代ならではの恋愛模様も描かれているこの作品ですが、どんな印象を受けましたか？

電話もない、メールもないという時代ですから、恋人達がそう簡単にやりとりをできるような状況ではないですよね。でも、手紙に想いを込めるというのは素敵なことだなと思うんです。今後も野風が文をしたためるシーンが登場するのですが、自分の筆に秘めた想いを託すというのは、とってもロマンチックだなって。便利な世の中になり、皆さんだんだんと忘れがちになっていることだと思うのですが、そんな中で改めて手紙というもののよさに触れたような気がします。

今後、仁と野風の関係はどのようになっていくのでしょうか？

これが江戸時代でなくとも、自分や自分の大切な人の命に関わるような病気を治してくださるお医者様に心を惹かれてしまうということは、ありうる話なのではないでしょうか。ですから、野風が頼れる仁先生にどんどんと惚れ込んでいってしまう気持ちはよく理解できます。ただ、彼女は“涙というのは商売道具であって、男の人を惑わすためにあるもの”と考えているような人間ですから、この先“本当の涙”を流すのか、それともこらえてしまうのか･･･。次第に彼女は、内から湧き上がる感情を自分でも抑えきれなくなっていくんだと思うんですね。本当に切ない片思いなのですが、そのあたりの心の変遷というのは丁寧に演じていきたいなと思っています。

多くの反響をいただいているこの作品ですが、どんなところが支持されているのだと思いますか？

今ですと、お医者さんに診ていただこうと思っても、散々待たされたあげく診察していただくのはたったの３０秒だったり、長くても３分くらいで終わってしまうようなことってよくありますよね。そんな時代の中で、江戸にタイムスリップした仁先生が文明の進歩に頼らず、患者さんの心と一対一で向き合って医療を施していくというストーリーが、やはりご覧になった方の心を動かしているのではないでしょうか。
それから、それぞれのキャラクターが脚本の中でとても魅力的に描かれているところも理由のひとつではないかと思います。演じている私たちですら、最終話の結論もわからないまま手探りで演じているんですけれども、大沢さんをはじめとするキャストのみなさんがその瞬間瞬間を本当に大事に生きて演じていらっしゃるので、その空気感がお客さんにも少し届いたのかなぁなんて思うと嬉しいですね。

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現場の雰囲気などを教えてください。

気づけばもう、撮影もあとわずか１ヶ月を残す程度なんですよね。少々気が早いですが、所作指導の先生方とも「打ち上げでみんなでお着物を着たいですね」なんてお話をさせていただいたりしています。お着物自体はご自分でお召しになれるという綾瀬はるかさんにも、「ドラマの撮影が終わるまでに帯の締め方まで完全に覚えて、打ち上げにご自分でお召しになったお着物で参加されたらいかが？」と、勝手におすすめしているんですけれど…（笑）。綾瀬さんは和装がとってもお似合いになる方なので、彼女が普段からお着物を着るようになったら、その姿に憧れた若い年齢層の方たちがもっとお着物を身近に感じてくださるようになるんじゃないかなぁと思うんですよね。石丸プロデューサーにも、打ち上げには「紋付袴でいらっしゃってください」とお伝えしているのですが…さて、当日はどうでしょう（笑）。

では、もし中谷さんが仁のように江戸時代へタイムスリップしてしまったとしたら、どうお過ごしになられると思いますか？

「現代に戻れるか否か」というのも重要なポイントだと思うのですが、個人的にはひとりで旅に出ることが嫌いではないので、旅に出たような感じで開放感を感じるかもしれません（笑）。時代は違えど同じ日本の中なので、見るものすべて…新しくはないでしょうけれど、珍しくて毎日日記を書くんじゃないでしょうか。あるいは現代では老舗となった、江戸時代から続くお店の“開店当初の風情”を見てみたいなぁ、なんて（笑）。たとえばお蕎麦屋さんとか、お菓子屋さんに入ってみたいですね。

最後に、行ってみたい時代や会ってみたい偉人を教えてください。

桃山時代にいって、千利休さんにお茶のお稽古をつけていただきたいです。
人でも物でも何でもそうなのですが、なにかゴテゴテと飾ったようなものよりも、ごまかしようのない「シンプルなもの」に惹かれるんですね。千利休さんという方は、究極のミニマリズムを体現した方だと思うので、ぜひご指導していただきたいです。千利休さんの追及した“ミニマリズム”といいますか“侘び寂び”といいますか、そういったものを間近で感じることができたのなら、とても幸せなことだと思います。

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TBS 日曜劇場「JIN -仁-」

2009年10月11日スタート 日曜よる9時

インタビュー

VOL.4 中谷美紀さん（野風・友永未来 二役）

2009年10月11日スタート日曜よる9時

VOL.4 中谷美紀さん（野風・友永未来二役）