警察のあれこれ“基礎”辞典

「警視庁と警察庁の違いって?」「警部と警視正ってどんな階級?」などなど、刑事ドラマをより楽しむための“警察のあれこれ”を紹介するコーナーです。

 Q.1 警視庁ってどんな組織?
「ハンチョウ・シリーズ5」では、神南署の安積が「警視庁」へと転属しますが、この「警視庁」とは、いったいどんな組織かというと、一言でいうと“東京都の警察を統括”するところなんです。東京には神南署(神南署は架空の存在ですが)と同じ警察署が102署あり、それを取りまとめる上部の組織が「警視庁」なのです。また、その上部組織として「警察庁」があります。
その構成は「警視総監」をトップに、「総務部」や「公安部」「交通部」など11の部署から成り立っていて、殺人や強盗などの強行犯を担当する「捜査一課(捜査第一課)」は、「刑事部」に所属しています。
ちなみに、所轄と呼ばれる警察署には「刑事部」ではなく「刑事課」があり、その中に安積が所属していた「強行犯係」が設置されています。
 Q.2 警察機構の概要
安積が所属していた「神南署」や、このたび移動した「警視庁」など、“警察”と一言でいってもさまざまな機関・部署があり、組織を構成しています。
この警察機構をざっくり説明すると、まず「内閣総理大臣」の下に国務大臣を委員長として以下計6名の委員で構成される「国家公安委員会」があります。この「国家公安委員会」とは、警察制度のさまざまな案件、警察行政を調整する機関です。
そして、この「国家安全委員会」の管理監督下に「警察庁」があり、これを警察機構のトップとして、日本の警察機構はピラミッド型に組織化されています。 「警察庁」の下に7つの「管区警察局」と2つの「警察情報通信部」が置かれ、各都道府県には、「東京都公安委員会」や「○○県公安委員会」といった「公安委員会」があり、その管理下に各都道府県の「警察本部」が設置されています。なお、この「警察本部」が、東京都の場合「警視庁」に当たります。
そして、各「警察本部」の下部組織として「警察署」、さらに「交番」や「駐在所」などが設置されています。
ちなみに、「交番」は元々「派出所」が正式名称でしたが、俗称であった「交番」の方が地域に親しみやすいだろうということで、1994年(平成6年)の「警察法改正」の時に正式名称となりました。
 Q.3 警視庁捜査一課とは?
刑事部の中にある「捜査第一課(=捜査一課)」とは、殺人や強盗、傷害、放火などの凶悪犯罪の中で、暴力団が関係しない事件を取り扱う捜査部署です。 主に殺人や傷害事件を扱う「第一〜第七強行犯捜査」と、誘拐のほか航空・鉄道事件や企業の業務上過失事件などを扱う「第一特殊犯捜査」、重要特異事件を扱う「第二特殊犯捜査」、未解決事件の継続捜査や強行犯に関わる特命捜査を扱う「特命捜査対策室」というように、大まかに10のセクションに分かれています。
また、この10の各セクションが、さらにそれぞれ係や班に分かれて、捜査員(刑事)達がさまざまな事件を捜査しています。捜査員の数は300人以上いるそうです。
ちなみに、第2話の最後のあたりで、真山課長が安積に「赤いバッジ」を渡すシーンがありましたが、この赤バッジは、日本の警察の中でも、警視庁の捜査一課に所属している刑事のみが付けることを許されている(警視庁以外の捜査一課ではこの赤バッジは存在しない)バッジなんです。「S1S」と刻印されていますが、これは「Search 1 Select」の略で、意味は「選ばれし捜査第一課員」。日本の警察機構の中でも、選りすぐりのエキスパート達が集まって事件に立ち向かっているという、「捜査一課」の誇りを表しているんです。
 Q.4 警察官の階級その1
日本の警察機構は「階級制度」を採用しています。まずは、高校や大学などを卒業して「警察官採用試験」に合格して警察官となった場合、「巡査」という階級からスタートします。しかし、国家公務員?種試験に合格した場合、2階級飛びして「警部補」からのスタートとなりますが、ここでは地方公務員となる「巡査」から順を追って階級を紹介していきます。なお、「巡査」からスタートする一般警察官は、階級を上げるためには、昇任試験を受けなければなりませんが、国家公務員として採用された警察官は、昇任試験を受けなくても自動的に階級が上がっていきます。
「巡査」の上の階級が「巡査部長」。一般の職業でいうと“主任”というポジションです。ちなみに、「巡査」と「巡査部長」との間に「巡査長」という階級が設けられていますが、これは正式な階級ではなく、優秀な勤務態度や実務経験の長い「巡査」に与えられるもので、階級自体は「巡査」と同じです。
「巡査部長」の上が安積ハンチョウと尾崎の階級「警部補」。県警本部や所轄では“係長”クラスに相当しますが、警視庁では“主任”クラスとなります。
「警部補」の次の階級が「警部」。ドラマの設定では、鑑識課の“丸さん”こと丸岡がこの階級です。
(その2に続く)
 Q.5 警察官の階級その2
「警部」の次が、捜査一課の城戸の階級となる「警視」です。「警視」は所轄の署長や副署長に任命される階級ですが、警視庁では課長、もしくは管理官という役職に留まります。また、この「警視」以上の階級には昇進試験はなく、その能力が認められた者が人事により昇進することになります。
「警視」の次の階級が、城戸の上司でもある真山課長の階級となる「警視正」。警視庁では課長クラス、もしくは参事官クラスの役職です。この「警視正」は、地方公務員として採用された者の場合、自動的に国家公務員となります。
「警視正」の次の階級が「警視長」です。「巡査」からスタートするいわゆるノンキャリア組は、この「警視長」までしか階級を上げることができません。つまり、ノンキャリア組で最高の出世階級となりますが、ノンキャリア組から「警視長」に昇進するのは、ごく希なことだそうです。
「警視長」の上の階級が、警察官の階級においてナンバー2となるのが「警視監」です。その定員は全国で38名となっています。
そして警察官の最高位となるのが「警視総監」です。定員は1名で、警視庁のトップも務めます。
なお、警察官の最高位はこの「警視総監」ですが、警察機構の命令指揮系統の“長”となるのは、警察行政を司る警察庁のトップ「警察庁長官」となります。ただし、「警察庁長官」は階級制度の適用を受けません。
よって、警察官の最高位というと「警視総監」ということになります。
 Q.6 「犯罪人引渡し条約」とは?
「犯罪人引渡し条約」とは、その字の通り、条約を結んだ当事国間において、犯罪人が国外に逃亡した際の、その引渡しに関する交際条約です。つまり、A国とB国の間で条約が結ばれている場合、例えば、B国国籍の人物がA国で犯罪を犯しB国へ逃げ帰った場合、A国はB国へ、その犯罪人の引渡しを請求できるというものです。
国際主要国をみると、アメリカは69カ国、イギリスは115カ国、フランスは96カ国、中国は29カ国と条約を締結していますが、日本はアメリカ(1980年3月26日発効)と韓国(2002年6月21日発効)の、2カ国のみとなっています。しかし、現在、中国やブラジルと締結へ向けての話し合いが進んでいるとのことです。
このほか、犯人が国外逃亡をした際に、捜査権限のない外国に対して、捜査や裁判を要請することのできる『代理処罰(国外犯処罰)』という制度もあり、日本から諸外国へ要請された事例が数十件あります。 また、日本には「我が国は、犯罪人引渡条約を締結していない国との間でも、相手国の法制が許す限り、相互に逃亡犯罪人を引き渡すことが可能である」という『逃亡犯罪人引渡法』という法律も制定されています。
 Q.7 「逮捕状」とは?
第6話の最後、犯人の逃亡を幇助した容疑で、尾崎に逮捕状が請求されてしまいました。
まず、この「逮捕」という行為ですが、簡単に説明すると、被疑者が逃亡したり証拠を隠滅する行為を防止する目的で、強制的に容疑者の身柄を拘束することです。逮捕されると、原則として48時間の勾留が認められ、その間に容疑者の取調べが行われ、起訴の必要性があれば、書類を作成して司法機関に容疑者を送致します。
なお48時間の勾留ですが、検察にも24時間の勾留が認められているほか、必要であれば、勾留請求をすることで最大20日間に延長することも可能ですが、容疑者が「逃げも隠れもしない」と、逃亡や証拠隠滅の恐れのない場合は、逮捕〜勾留する必要はありませんので、容疑者は任意取調べという扱いになります。
この「逮捕」には“通常逮捕”“緊急逮捕”“現行犯逮捕”の3つの種類がありますが、容疑者を逮捕する際に、裁判官へ事前に「逮捕状」を請求するのが“通常逮捕”です。被疑者が被疑者たる相当の理由があるほか、逃亡もしくは証拠隠滅の恐れ、住所不定の場合、「逮捕状」が請求されます。
ちなみに“緊急逮捕”とは、「逮捕状」を請求する前に、容疑者の身柄を拘束する必要がある場合に行われますが、容疑者を逮捕してすぐに「逮捕状」を請求しなければなりません。
一方“現行犯逮捕”は、犯罪行為の最中やその直後など、明らかに罪を犯したと認められる人物に対して、逮捕状を請求しなくても行える逮捕です。この“現行犯逮捕”は、警察官や検察官のほか私人(一般人)にも認められている行為ですが、私人が逮捕行為をした場合、直ちに警察官か検察官に犯人を引き渡す義務があります。
 Q.8 「任意同行」とは?
事件の重要参考人として、捜査一課から任意同行を求められた向井歩美でしたが、結城が間に入って静止したことで、連れて行かれずに済みました。これは、強制力のない「任意」での同行を求められたからで、同行を求められたとき、本人に同意の意思がない場合、従わなくてもよいと「刑事訴訟法」で定められているからです。
その「刑事訴訟法」第198条1.には、「検察官、検察事務官又は司法警察職員は、犯罪の捜査をするについて必要があるときは、被疑者の出頭を求め、これを取り調べることができる。但し、被疑者は、逮捕又は勾留されている場合を除いては、出頭を拒み、又は出頭後、何時でも退去することができる」とあり、出頭を拒むことも、出頭後に自身の都合により退去することが認められています。
 Q.9 「公安」とは?
「木曜日の子供」の話題が出ると、その中に「公安」という言葉も登場しますが、この「公安」とはなにかというと、広義にいえば「国家や社会の秩序、公共の安寧が保たれている」という意味ですが、この「公共の安寧」を維持する機関のことを略して「公安」と呼んでいます。この「公安」と付く機関は警察機構のほか法務省の外局である「公安調査庁」という機関もありますが、ここでは警察機構における「公安」について、簡単に説明します。
まず、警察機構で「公安」を担務している機関を「公安警察」と呼んでいますが、部として編成されているのは、国内では警視庁内の「公安部」だけで、「公安第一課〜四課」のほか、計9つの課で編成されています。それ以外の警察機構では「公安課」が設置されていますが、この「公安課」は、警視庁「公安部」直轄の課となっています。
これら「公安警察」が担務とするところは、政治犯やカルト団体、国内外テロリストの捜査、監視、防諜など。日常の仕事としては、対象団体や対象者の行動を把握するための監視などで、ときには情報収集のために、対象団体内部の関係者の取り込みもしているといいます。そのほか、警察機構の乱れを監視するために、内部調査も行っているそうです。
 Q.10 「ライフルマーク」とは?
拳銃など、ほとんどの銃砲の銃身の内側には、らせん状の溝が施されています。これは、発射された弾に、進行方向に対してヨコの回転を発生させるためのもので、弾が回転しながら飛ぶことにより直進性が高まり、弾の飛距離や命中精度がアップします。このらせん状の溝を「ライフリング」といいますが、発射された弾はこの溝に擦れながら飛び出すので、この際、弾に傷が付きます。このことを「ライフルマーク」と呼びます。
ではなぜ、この「ライフルマーク」によって、発射された銃砲を特定できるかというと、銃身に刻む作業に理由があります。「ライフリング」は特殊な旋盤(金属などを削って加工する機械)を使って行われるのが一般的ですが、この際に、加工した溝に微妙な仕上がりに差が生じます。この差により、発射された銃砲ごとに弾に刻み込まれる傷(ライフルマーク)に差が発生するので、この「ライフルマーク」を調べることで、発射された銃砲が特定できるのです。