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プロダクションノート

――  どうしてソフトテニスなのか。

赤根 僕もソフトテニスを高校1年までやっていたんですけど、その後、すっかり忘れていました。それというのもソフトテニスって、世間で話題になることがすごく少ないんです。プロのある硬式の話題は多いんですけれど、ソフトテニスは「ソ」の字も出てこない。そうやって選んだソフトテニスなんですが、企画を始めたら、ブワーッと思い出が蘇ってきて、ソフトテニスってすごく思春期っぽいスポーツではないかって思うようになりました。例えばソフトテニス協会にも取材に行ったんですが、競技人口が一番多いのは中学生なんだそうです。それが高校生になると半減する。大学生や社会人になるとソフトテニスをやる人はすごく少なくなってしまう。それってすごく思春期と重なるなと思ったんです。ある時まではすごく存在感があるけれど、ふっと忘れられていく感じが。あとソフトテニスって土のコートでプレイするから、泥だらけになるんですよ。それも思春期っぽいな、と。

どうしてソフトテニスなのか

―― 桂木眞己と新城柊真について。

赤根 眞己は企画の最初からいたキャラクターです。その時から、少し大人びた少年というイメージは決まっていました。一方でペアになる柊真はなかなか決まらなくて。もっと悪役というか対立関係になるキャラクターにしようかと考えていう時期もありました。眞己もかなり性格的にヒネたところはあるので、2人とも性格が悪いコンビというのはおもしろいかもとなんて思ったんですね(笑)。そんなふうにいろいろ考えつつ、なんとか現在の形に近いところに落としどころを見つけたあたりで、オーディションをやったんです。そこで畠中(祐)君の声を聞いたんですよ。それが大きかったです。畠中君のまっすぐなお芝居を聞いて、その時に「ああ、柊真ってこういう子なんだ」って思って。そこで完全に柊真のキャラクターというのが固まりました。


桂木眞己と新城柊真について

花江(夏樹)君については、オーディションのテープをばーっと聞いていて「あ、この子しかいない」というのが花江君だったんです。彼に会えたというのが自分にとっての奇跡に近いです。眞己そのものの役者をみつけたという感じで、だから、眞己に関しては、花江くんがしゃべってくれれば、どんな台詞でも眞己になるという感じなんです。だから今回は主役の役者さん2人にすごく刺激を受けていますね。眞己に関しては、花江君を全面的に信用する感じで、柊真に関しては畠中君を見て「そうか柊真ってこういう人間か」と発見する感じです。

桂木眞己と新城柊真について

―― 中学生について

赤根 自分が経験者ということもありますが、“ソフトテニス”は、思春期、少年期の特徴みたいなスポーツだと思うんですよ。中学生の競技人口はものすごく多いのに、高校生になると半減して、大学生、そして大人になるとほとんど誰もやっていない。この流れは、何か思春期の感情と同じではないかなって思いました。少年期には至極当たり前のことも、大人になると忘れてしまう。これが感情面ともうまくリンクするのではないかなと。あと、“ソフトテニス”にはプロがない。これはある意味、打算のないスポーツと言えるかもしれません。お金を儲けるためでもなければ、有名になるためでもない。少年期の子供には、打算のない動きが時々見られます。でも、高校生くらいになると、だんだん先を見据えたり、将来を考えたりしていく。つまり打算が生まれてくる。そういう意味では、少年期と同じようなピュアなスポーツなんじゃないかと思いました。

※本作制作時には存在しなかったが、2019年より、ソフトテニス界国内初のプロ選手が誕生している。

―― 変わっていくキャラクターに込めたもの

赤根 夏南子は見ている人の代表というつもりで入れたキャラクターです。スポーツに一生懸命打ち込んでいるというのは、あの世代の子たちにとって、カッコ悪いというか、照れくさいことだろうと自分は思うんですよ。それでも野球部やサッカー部などの花形スポーツであれば、そこに所属するだけで一種の“エリート”じゃないですか(笑)。でも軟式テニスはプロもないし、甲子園のように高校ですごい大会があるわけでもない。それなのに一生懸命やるのはなんとなく、小っ恥ずかしいことなのではないかと。夏南子も最初はそういう感じで見ていました。でもだんだんと触発されていくんです。彼女は、絵を描くことが好きだけれど、真面目に描いたり、美大に将来行きたいというような形で、正面から向かい合ってはこなかった。もし自分が天才だって思えれば、そういえるだろうけれど、そこまで言えない自分だったら、おちゃらけて、そういう態度をとっていたほうが自分が傷つかなくていいだろうって。


今の子たちは優しいから、自分が傷つくのをすごく怖がるという印象があります。だから、一生懸命何かをやっていても、挫折したらものすごく傷つくと思った瞬間、一生懸命やっていることを自分で否定しようしちゃうんです。一生懸命やっていないのだから、もし失敗しても「俺は手を抜いていたんだから大丈夫だよ」といえる体をとろうとする。それぐらいの年の当人にとっては、失敗することが本当に怖くて、もし一度ポキッと折れてしまったら、一生立ち直れないような恐怖感があるのでしょう。夏南子が、男子ソフトテニス部の連中をバカにしていて、ずっとひねくれたことを言っているのは、そういうことなんですよ。でも彼らは、ちょっとずつ変わっていって、御崎学園との練習試合でも善戦する。そういうことを見ていて、夏南子は、勝ち負けじゃないことがわかって、先生に「絵の勉強がしたい」とはっきり言えるようになる。そんなふうに、この作品を見ている子の中に、怖がらずに変わっていく子がいればな、という思いが込められているんです。

変わっていくキャラクターに込めたもの

―― 12話まで放送して

赤根 男子ソフトテニス部のメンバーが、最初にやる気のないフリをしているのは、家庭環境の悩みがあるって、人生に対して斜に見ているところがあるからでもあるんです。部活を一生懸命やってダメだったら、自分には立ってる場所がなくなってしまう。お互いのそういう雰囲気をわかっているから仲間意識が強いんです。それが眞己という異物が入ってきて、ソフトテニスに真剣に向き合ったことで、例え負けても自信がついてくるんです。俺たちもやればできるんだと思えるようになる。この自信があるから、家族との問題にも立ち向かえるようになっていくであろう、……というのが今回放送された部分になります。


眞己は家庭環境が厳しくて、精神的に大人にならなくてはいけなかったんで、大人っぽい視線で、皆を言葉でたきつけていくんですよ。でも眞己もソフトテニスに打ち込んだことで、少年に戻れるというか、純粋に楽しむことができるんです。台詞でも「楽しい」というのが何回か出てくるのは、そういうことです。

12話まで放送して

BD・DVDに収録されているブックレットには、ラストシーンも含め『星合の空』のできるまでについて赤根監督に総計1万字以上のロングインタビューが掲載されています。

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