星合の空 -ほしあいのそら- 赤根和樹監督 パンフレットインタビュー 星合の空 -ほしあいのそら- 赤根和樹監督 パンフレットインタビュー

――  今回、オリジナル作品を手掛けることになった経緯を教えてください

赤根 10年くらい前からいろいろ考えてはいたのですが、スタッフの中から、もうSFとか異世界とか、そういうのはナシでオリジナルを作ってみてはどうですかと言われていたんですよ。それで、5年くらい前から、何か新しいジャンルに挑戦してみたいという気持ちが出てきました。自分がこの業界に入ったのはだいたい1985年くらい。ちょうどガンダムブームのころなのですが、ガンダムが新しいムーブメントを起こし、その流れでずっと今まで来ていると思うんですよ。アニメーションはエンタテインメントですが、特に最近はその傾向が強くなっていて、もはやアミューズメントムービーに近いものになっている気がします。でも、そういうのは若いクリエイターがやればいい。自分たちはそろそろ、この業界に30 年もいるんですから、アニメーションの新しい分岐、可能性に進まなければいけないのではないか、そろそろ何か新しいことをやってもよい年代になってきたのではないか。そういうことを考えているときに、ちょうど今回のお話をいただきました。

―― 最初から今回のテーマが頭にあったのでしょうか?

赤根 最初に発注をいただいたときは、もう少し今のアニメーション、いわゆるエンタテインメントを軸にした作品を期待されていたんだと思います。でも、それだけではない、アニメーションの可能性みたいなところをやってみてもいいんじゃないかなって。自分としては、アニメーションで時代を写したい。ただ単に、今の時代の面白おかしい事柄だけではない、特に若い子たちが抱える苦しみや悩み、そういったものをちゃんと表現するアニメーションを作ってみたいという気持ちが強かった。もちろんテレビで放送するわけですから、エンタテインメントであることは大前提になりますが、そこにプラスアルファ、今の時代の若い子たちの感情や想いなど上手くドラマにトレースできればいいなと思っています。

パンフレットインタビュー

―― “ ソフトテニス”を題材に選んだ理由は?

赤根 自分が経験者ということもありますが、“ソフトテニス”は、思春期、少年期の特徴みたいなスポーツだと思うんですよ。中学生の競技人口はものすごく多いのに、高校生になると半減して、大学生、そして大人になるとほとんど誰もやっていない。この流れは、何か思春期の感情と同じではないかなって思いました。少年期には至極当たり前のことも、大人になると忘れてしまう。これが感情面ともうまくリンクするのではないかなと。あと、“ソフトテニス”にはプロがない。これはある意味、打算のないスポーツと言えるかもしれません。お金を儲けるためでもなければ、有名になるためでもない。少年期の子供には、打算のない動きが時々見られます。でも、高校生くらいになると、だんだん先を見据えたり、将来を考えたりしていく。つまり打算が生まれてくる。そういう意味では、少年期と同じようなピュアなスポーツなんじゃないかと思いました。

―― メインになる2人はどういったキャラクターになっていますか?

赤根 さまざまな傷を抱えた子供たちの物語になるのですが、決して傷を舐め合うのではなく、傷を埋め合う、補い合う仲間たちの話にしたいと思っています。詳しいことは言えませんが、家庭環境に何らかの問題を抱えている2人で、逃げ出したいんだけど中学生だから逃げられない。大人だったら出て行けば済みますが、中学生だとそうはいかず、心に傷を負ってしまう。その傷は、大人になると忘れてしまう傷なんだけど、そこをちゃんと表現して、それをどうやって乗り越えて大人になっていくのかを描いてみたいと思っています。そういう意味では、大人たちにも思い出してほしいんですよ。自分たちが負った傷を。そして、今度は自分たちが子供たちを傷つけていることを。そういったリアルタイムで起こっていることを感じられるドラマにしたいと思っています。

パンフレットインタビュー

―― 家庭のほか、学校や部活動についてはどのように描かれていきますか?

赤根 この作品に出てくる“男子ソフトテニス部” は、学校の中でもちょっと浮いた存在で、どちらかというと下に見られています。ここ4年間ほど勝ったことがなくて廃部寸前。こんなクラブに存在意義はあるのかと言われ、自分たちも最初は諦めています。どうせ俺たちは何もできないしって。そこにメインキャラクターの一人である桂木眞己が入部してくることで化学反応が起きる。極端な言い方をすると、負け組の物語からスタートします。中学生で負け組って、そんなひどい話はないのですが、現実の世界はそういうことを言いたがる社会なんです。でも、子供たちには、諦めるな、そんな枠組は越えてしまえと言ってあげたい。所詮アニメーションにおけるフィクションかもしれませんが、そういうドラマを作りたいんです。崩壊する世界で生き残ろうとするSFのドラマももちろん面白いですが、現実的な世界で、自分のプライドとアイデンティティを保ちながら生きている少年たちのドラマを作りたい。それが今回のメインテーマだと言えるかもしれません。

―― 見どころ満載の作品になりそうですが、監督が一番注目してほしいポイントは?

赤根 これまでのアニメーションではあまり表現していない、今の社会状況に初めてアプローチしてみようと思っています。新聞でもネットでも、今までは話題にもならなかったことがたくさん話題になっている。そういった今の世の中が抱えている問題にも切り込んでいきたい。それは、アニメーションとしてはかなりのチャレンジですが、アニメーションもそういったことが表現できるメディアになりつつあるのではないかと思っています。もちろん、面白おかしいだけでもいいのですが、それだけではない、観ている方により強く共感してもらえるドラマ作りをしたい。どこまで踏み込めるか、どこまで結果を出せるかはわかりませんが、ぜひそのあたりを注目して、キャラクターたちと一緒に考えてもらえたら嬉しいです。

―― キャラクター原案にいつかさんを選んだ理由を教えてください

赤根 かなりシリアスな物語になるので、自分の中では、もう少しリアルなキャラを想定していました。なので、プロデューサーからいつかさんを紹介されたとき、最初はちょっとどうかなという思いがあったのですが、こういった絵柄でシリアスなものをやる、そのアンバランスさが日本のアニメっぽいのではないか、リアルな話だからリアルなキャラというのはちょっと違うんじゃないかと考え直しました。いつかさんの描く絵は、とても繊細なのですが、今回のドラマもすごく繊細に作っているので、そういう意味ではピッタリなんですよ。よく勘違いされるのですが、ソフトテニスがテーマだからといって、「赤根さん、今度はスポ根ものですか?」って(笑)。そういった先入観みたいなものを跳ね返していきたいというのもあって、いつかさんの描く繊細なキャラクターを使ったアニメーションの演出にチャレンジしてみようと思いました。実際にテストで動画を作っているのですが、とても馴染みはいいです。

パンフレットインタビュー

―― それでは最後に、放送を楽しみにしているファンの方へのメッセージをお願いします

赤根 ドラマ的にも、絵的にも、新しいチャレンジをして、新しい世界観を構築しようと思っていますので、ドラマと絵のシンクロにも期待していただけると嬉しいです。一風変わったアニメになると思いますが、逆にそのあたりの違いを感じていただけるような作品にしたいと思っていますので、ぜひ楽しみに放送をお待ちください。

戻る