安達としまむら

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監督インタビュー

監督インタビュー

—— 制作・放送を終えた、今の率直な気持ちを教えてください。

桑原:何かを作るとき、その作品を大好きにならなくてはならないというお話を以前したと思うんですが、そうすると、いろいろな人たちに、この大好きな作品を分かってもらいたいという欲求が生まれるんです。そのために、どうやったら『安達としまむら』の世界観とキャラクターを分かってもらえるのか、そして面白く思ってもらえるのかを制作中は懸命に考えているんですけど、放送したあとは視聴者の方に委ねるしかないんですよね。

その点で、みなさんがどんなリアクションをしているんだろうって気にはなるんですけど、僕はわざと反響を見ないようにしているんです。怖いので(笑)。ただ、それでも漏れ聞こえてくるみなさんの反応では、楽しんで下さっているという声が多かったんです。それはホッとしているとしか言いようがないですよね。みなさんがこの作品を受け止めてくださったんだなって思いました。

こうやって無事に放送できたことは、この作品を支えてくださった大勢の方々のおかげなので、感謝の言葉しかないというのが心境です。

—— 桑原監督は、絵コンテをたくさん描かれていますけど、監督をした上で、その作業をすることは大変なことのように思います。

桑原:僕、絵コンテを描くのが好きなんですよ(笑)。そしてこの作品はいろんな映像表現ができるチャンスでもあったし、そのためには絵コンテから関わらないと難しいので、無理を言って描かせてもらったんです。それとやっぱり、自分が好きだからこそ離したくないんですよね。僕よりも絵コンテが上手い人はいるけど、この作品は僕に任せてほしいという気持ちがすごく強かったんです。

でも絵コンテからレイアウト、原画、動画、そして撮影、編集、音響と、どこにおいてもレベルが下がることなく、どんどん積み上がって良くなっていった気がするんです。相乗効果で2倍、3倍、100倍になり、最終的に良い作品になったと自負しています。

—— チームとして、良いものを作るんだという方向に向かっていたということですね。

桑原:よく打ち合わせのときに、僕が思ったもの以上をやってもらえたら、すごく良いことだと伝えるんです。絵コンテより面白くするために、さらに良いレイアウトを作ってもらう。音響でも、鬼頭明里さんや伊藤美来さんをはじめ、キャストの方からこういう言い回しはどうですか?と言ってきた場合、僕は結構簡単に乗っちゃうほうなんです(笑)。なぜならアニメーションって生きているもので、脚本で決めたから、その通りにやるというのだと成長しないと思うから。僕がうれしいのは、僕が想像していないものを生み出してくれる力なので、それが今回のチームにはものすごくあった気がします。

—— 実際映像として完成したものを見て、自分が思っていた以上のものができていたんですね。

桑原:多くのカットがそうなっていました。ただ、まぁ人間というのは欲が深くて(笑)、そうなってくると、またさらに「こうも出来たか」「ああも出来たか」となってくるんです。だから永遠に終わらないですよね。良いものを作れるからこそ、またさらなる上を望んでしまうんです。

満足してはいけないというのは、僕の師匠でもある故・出﨑統、そして高橋良輔さんに教わったことなので、それをしっかりと感じながらやっています。出﨑統監督には、僕が演出をし始めた頃から厳しくご指導をいただいていて、高橋良輔さんには、監督になってから監督業とは何かというのを今も教わっています。そこで一番感銘を受けたのは、映像づくりに関して、どんなことがあっても諦めずに、粘って作ることが大切なのだということで、そういう意味では『安達としまむら』でも、そこを目指しましたし、またさらにそこから邁進して、停滞するのもよくないと思いながら、今も演出業をやっています。

—— 『安達としまむら』は心情描写がすごく独特だったと思うのですが、これは良かったなと思うようなシーンを挙げるとしたら、どこになりますか?

桑原:今回の作品で僕がキーアイテムとして考えていたのは、キービジュアルにもある、ふたりが自転車に乗っているところとピンポン(卓球)なんです。それが彼女たちの日常に欠かせないものだったので、第1話の鏡面になっている自転車のシーンは、第1話だけではなく、第11話と第12話にも出しているんです。そこは、彼女たちの世界観、空間を切り取ることに成功した場面になっていると僕は思っています。だから、視聴者の方も、そう感じてくれていたらいいなと思っているんですけど(笑)。

その他にも、スタッフの方々には細々とお願いをしていたんですけど、特にずっと無理を言っていたのは色彩に関してで、この作品は異常に色変えが多いんです。夕景だと赤い色、夜だと青い色にキャラクターをするんですけど、僕が特殊表現をすることで、色彩設計さんに迷惑をかけていて、ほとんど普通の色を使っていないんです。そこではものすごく苦労をかけたのではないかなと思っていますし、その分良くなっていたと思います。

あと、これは映像表現とは違いますが、女の子なので私服は自分で選んで着ていると思ったので、キャラクターデザインの金子志津枝さんだったり、サブのキャラクターデザインの森田莉奈さんだったりにイメージを渡して、そこからふたりに合う服装を作ってもらえたことは、とてもありがたいことでした。

意外なところで上手くいったのがヤシロです。髪が光ってるじゃないですか。ヤシロを異物として参入させることで、安達としまむらの間に唯一入れる存在なんだというところを表現できたのも良かったです。他の人には見えているけど、何で光ってるの?って言わない、その世界観が不思議ですよね(笑)。僕は分かってやっていたけど、視聴者の方も何で光ってるの? あのつぶつぶ飛んでいるのは何?って気を取られちゃうと問題かなと思いつつ不安もあったけど、みなさんに「ヤシロがかわいい」と受け止めてもらえたのは良かったなと(笑)。

—— 第12話の鏡面での自転車のカットは、1話と同じ絵を使っていて、ただ雨粒がなくなっているというのも、とても良い演出だと思いました。

桑原:あれは第1話を作った段階で、これは絶対に最後にも入れるよって、ずっと取っておいたんです。だからそれをやることは決定していたんです。僕は印象に残す立場なので、このシーンが印象に残っていなかったらダメだし、そこが印象に残っていると思うからこそ12話に持ってきて、それが対になってきれいに区切りをつけられるというところで、うまく収まったと思います。雨粒がないというところも、彼女たちのこれからの未来を示唆していると思ってもらっても、僕はいいと思っているんです。

—— 鏡面を思いついたきっかけはあったのでしょうか?

桑原:みなさんが感じる部分も残しておきたいので、すべては言えないですが、彼女たちの世界観は、ある意味で鏡面だと思うんです。表の顔と裏の顔があると思っていて、それを映像で表現できればいいなと、原作を読んだときに思ったんですね。それが分かりやすいのが、モノローグです。普段話している他愛もない会話も、どちらも本当の言葉だけど、光と闇のような感じがしたし、この作品では、モノローグで本当の気持ちを吐露していると思うので、そういったところも考えて、効果をつけられたらいいなと思ってやっていました。

—— 後半は、樽見の存在も光っていましたね。

桑原:アニメーションで途中から出てくるキャラクターの出し方って、ものすごく気を使うんです。見る側にとって、安達としまむらは出来上がっていて、ものすごく印象が強くなっているんです。それに勝てるキャラクターを出さなければいけないけど、それを出すタイミングを逸すると活きないし、そこで認知されなければ絶対に認知されないんです。だから初登場は、それも考えた上で第7話のCパートに登場させて、肉屋さんなんですけど、印象づけるためにファンタジックな画面にわざとしました。樽見はきれいな女の子で、おそらく安達のライバルになるのかなと予想させるために、尺も多めに取りました。金子さんのデザインもすごく良かったので、反応も良かったようです。

—— 茅野愛衣さんの演じ方も素晴らしくて。

桑原:茅野さんも大変だったと思いますよ。でも原作も読まれていて、アフレコでも一発で「樽見だね」となり、直すところもなくやってもらいました。彼女の声で良いなと思った部分は、ものすごくかわいい声なんですけど、奥底に寂しさのある声が出せるところなんですよね。それが樽見に合っていると思ったので、やっていただいてとても良かったです。

—— それと、図書少女に花澤香菜さんを起用されていて、ひと言なんですけど、すごく印象に残りました。

桑原:そうなんですよ。なぜ花澤さんにお願いしたのかというと、すごく大切なキャラクターだからなんです。もしかしたら、第11話であの図書少女がいなかったら、ずっと安達はあそこにいたかもしれないですよね。だからどこにでもいるような学生がそこにやってきてもダメなんです。ものすごく強烈なキャラクターで、だからこそ、そのひと言が大切になる。

花澤さんだったからこそ、あのひと言で全部を制圧できたんじゃないかな。あと、また金子さんに「あまり出てこないキャラクターなんですけど……」と言って僕のイメージを渡し、ものすごく美人に描いてくださいとお願いしました(笑)。

—— では最後に、『安達としまむら』のファンの方にメッセージをお願いします。

桑原:『安達としまむら』を見てくださってありがとうございます。僕の手から離れたときから、作品は視聴者の皆様のものなんです。視聴者の方がずっとその作品を大切に思ってくれたり、ずっと見てくだされば、作品は一生消えることなく光っていると思います。本当にいつも思うのは、視聴者の方々あってのアニメーションなので、今後とも『安達としまむら』を応援していただければありがたいと思っています。

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