安達としまむら

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撮影監督
インタビュー

撮影監督インタビュー

撮影監督 志村豪さん(T2Studio)

—— 撮影監督は、どのような仕事をしているのでしょうか?

志村:「撮影」という名前の通り、以前は実際にカメラを使ってセルを撮っていたのですが、 今はカメラではなく、PCで作業しています。

主にはコンポジットという、他の部署から上がってくる原画や美術といった素材を合成する係ということになりますね。

その中で撮影監督というのは、撮影スタッフを統括する管理職になります。 いろいろなスタッフが撮影をしていますので、雰囲気を統一するなど、作品のクオリティ管理を行ったり、この作品はこういう画を作っていきますと指針を示したり、監督や演出家の方と打ち合わせをし、そのオーダーを汲んで、他のスタッフに伝える役割があります。

—— 撮影というと、コンポジットをすることと、光などの効果により、作品全体の温度感やフィルムの雰囲気などを決定づけるセクションという印象もあります。

志村:雰囲気のベースは美術さんなどにあると思うので、素材を重ねたところに撮影で空気感や雰囲気を付け加えていくというイメージですね。それも自分の趣味で決めるというよりは、上がってきた素材を見て、そこからインスピレーションをもらって、撮影処理に落とし込んでいくという形になります。

—— 撮影の仕事で、楽しいと思うのはどういったところですか?

志村:先の話と重なりますが、すごく気合いの入った作画や背景美術が届くと、これはすごく逆光がハマりそうだな!など、インスピレーションをもらえるんです。
自分のスキルによって、いただいた素材をさらに良く見せられたときは、楽しいなと思います。

—— 『安達としまむら』という作品の印象を教えてください。

志村:最初、まったく中身を知らずにビジュアルだけを見たときは、女の子が仲良くキャッキャウフフしている感じで、自分もそういう作品は好きなので、楽しみにしていたんです。
そこから監督の桑原さんと、どんな雰囲気にしていくのかという打ち合わせをしたときに、作品の説明を受けたのですが、そこで印象的だったのが“ニュートラル感”という言葉でした。
しまむらが、特にニュートラル感があるキャラクターだと思うんですけど、どこに対しても尖っていないんですよね。

その感じで、映像としてつまらなくならないように、でも、どこも尖っていないような画作りをする感じなのかなと受け取りました。

—— 難しそうなお題ですね。

志村:説明を受けたときも、「この作品は特に何かが起こるわけではありません。
安達がしまむらを誘うだけで1話分使ったりします」と。そこをしっかり見せていく作品だと思ったので、それを空気感などで見せられたらいいのなと思いました。

それと、これは視聴者の間でも言われていると思いますが、ふたりが生っぽいというか、実際の高校生っぽい感じがあるんですよね。
思春期独特のもやもや感があるというか。だから、画もあまりキラキラさせたり、ふわふわさせたりするのではなく、セルの明るさを少し落として、後ろが透過光で光っているシーンなどが結構あるんです。
そこで思春期独特の悩みや自分の中で湧き上がる感情に戸惑いを覚えたりするところを表現できたらいいなと思っていました。

—— となると、最初の作品の印象からだいぶ変わったのではないですか?

志村:全然違いましたね(笑)。

—— 特徴のひとつだと思いますが、いきなり心情風景というか、違う空間に行くことが頻繁にありますよね。

志村:それは撮影というよりは演出的な特徴になりますけど、おっしゃる通り、イメージシーンは多いです。
背景が実景ではなくなり、ずっと光っているとか、どこから降ってくるんだこの花びらは!みたいなシーンとか、氷の粒が出てきたりするんです。
現実にないものが急に出てくる違和感みたいなものは、作品の特徴かもしれません。

だから撮影も、その都度処理を考えながら作っていきました。でも実景ではないぶん正解がないんですよね(笑)。
ここで真っ暗で顔が見えなくなっているのは、こういう理由だからかなと想像しながら画に落とし込んでいく感じでしたね。

—— 監督もインタビューで「キャラクターの内面を掘り下げて映像化していくのがもともと好き」だとおっしゃっていましたが、会話が多い作品でも、視覚的に楽しめますよね。

志村:確かに。ああいうシーンがないとほぼ動きがないですからね(笑)。
現実描写との落差が面白い演出になっているなと思いました。

—— 作品の空気を決定づけるのは1話だと思うのですが、ここの画作りについてはどうでしたか?

志村:2人が授業をサボっている卓球場のシーンは、作品通しても肝になる大事な場面だと思ったので、そこだけ画作りを変えているんです。
あそこは体育館の2階部分なんですけど、1階の描写と全然違っていて、2階は窓光源で、光をすごく入れているんですけど、1階でみんなが体育をしているところは体育館のライトを光源にして、それほど強くない光を当てているんです。

卓球場は、コントラストを上げるという意味で、光源とは逆方向のものの影を落としてみたり、逆光のときのキャラクターの縁のところを強めに光らせたりすることで、画作りに表情を付けていくことを心がけていました。

—— 体育館2階のシーンに限らずですが、教室のシーンなど、逆光がすごく効果的できれいですよね。

志村:ありがとうございます。逆光は撮影でも花形なので、そこが決まっていると言われるとうれしいです。

—— 光の表現に関しては、実際の景色を見て勉強されるのですか?

志村:やろうと思って勉強したというより、現場で困って調べていくうちに、日常生活でも目が行くようになったという感じでしょうか。
たとえば雨の日って、暗いところでは雨粒は見えないけど、車のヘッドライトに照らされているところだけ、雨粒がすごく見えたりしますよね。
それがどう見えるのかを確認するために車の近くに、体を乗り出して見に行くようなことをしていました(笑)。
あとは逆光のときの人の縁の光がどうなっているのかとかは、職業柄見てしまいます。

—— 他に、こだわったシーンなどはありますか?

志村:1話の後半で川をバックに橋を歩いて渡っているシーンで、安達の自転車のスポーク(車輪部分)がキラキラと光っているんですけど、あそこは時間をかけて撮っていきました。
この作品は自転車のシーンがたくさん出てくるんですけど、アニメで自転車って鬼門でして……。
この作品の自転車はCGなんですけど、キャラクターは作画なんです。
そうすると手の位置が合わないとか、座れていないなどの問題が、リテイク前の映像だとあったりしますね。

—— コンポジットする意味でも大変なんですね。でも自転車のシーンは素敵でしたね。畑だったところが急に雲が鏡写しになっている世界になったり。

志村:2人で自転車で登下校するってちょっとした青春じゃないですか。
ある種のロマンみたいなところだったりするので、大事なシーンは多かったと思います。

—— そして、ヤシロの処理も面白かったですね。

志村:1話で宇宙服で出てきたとき、全身が光っていて、宇宙服を脱いだときは髪の毛だけが光っているんですけど、これは桑原さんの指示でした。

1話の釣り堀でしまむらが、「場違いにもほどがある真っ白さ」と言っていたんですけど、異常な白さを出したいんだ!とオールラッシュ(全カットを繋げて、チェックをするところ)のときにおっしゃっていて、じゃあ光らせようみたいな話になったんです。
まさか光らせることになるとは思いませんでしたけど(笑)。

宇宙服を脱いだときは、髪の毛が青く光って、光の粒が飛んでいるような感じになっているんですけど、その描写自体は、入間人間先生の他作品を踏襲しているとのことでした。

—— その他の話数で、安達としまむらの距離が縮まるところは、演出的にも見せどころだったと思います。特に印象的だったのは、6話「ホワイト・アルバム」のラストの公園のシーンだと思うのですが、ここはすごくきれいな画になっていました。

志村:あそこは前半で頑張ったところでした。逆光の中で、安達がこれを言っていいのかなと不安になっているところで、手前が暗くなっているんですけど、その対比で後ろで電飾がキラキラしているんですよね。
そのあと雪が降ったり、相変わらず家の電飾が明滅していたりするのも良かったと思います。

—— では、『安達としまむら』ファンに、今後楽しみにしてほしいシーンを教えてください。

志村:撮影とは関係ないですが、樽見が個人的にもお気に入りのキャラクターなので、樽見としまむらの関係性は楽しみにしてほしいです。

基本的に安達としまむらの2人の世界で、そこに日野と永藤が対比的なところにいて物語が進んでいったんですけど、そこに一石を投じるではないですけど、スパイスになっていると思うんです。

そこで心情表現がどう変化していくのかですよね。しまむらが過去の友人と会って、どういう表情を見せるのか。
そのときにどんな処理が加わっているのか。
撮影としてはそういうところにも注目してほしいです。

—— 心情をアシストしてくれるところはすごくありますよね。そういう意味でも、撮影をするところでも、しっかり物語を理解していないといけないんだなと思いました。

志村:特にこの作品は、2人の感情の機微が大事になってくるので、そこでどういう色を出していくのか、明るさをどうするのかが大事になってくるんです。
そこでちゃんとキャラクターの気持ちとマッチした効果が出せているのか、相乗効果が得られているのかというのは大事になってくるので、そういったところは見てほしいですね。

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