日曜劇場『ATARU』は、サヴァン症候群の主人公・チョコザイが、彼の持つ特殊な能力によって、事件の真相を解くミステリーの面白さを追究したエンターテイメント作品です。
「サヴァン症候群」に関して、医事監修である西脇俊二さんにお話をうかがいました。
- サヴァン症候群とは?
- サヴァン症候群と言うのは、自閉症や知的障害のある方のうち、ある特定の分野に限って、非常に優れた能力を持っている人のことを言います。突出した天才的な能力を持っているのですが、人とコミュニケーションをとることが苦手であったり、通常の学習能力に関しては先天的な障害を持っていたりすることから、『サヴァン症候群』と言われています。“サヴァン”とは、フランス語で“賢人”という意味です。
- サヴァン症候群と考えられている人物について
- 映画『レインマン』のモデルとなったキム・ピーク、モーツァルト、エジソン、レオナルド・ダ・ヴィンチ、画家の山下清などはサヴァン症候群であったのではないかと言われています。
- 彼らにはどのような能力があったのですか?
- 1分間で本を10ページ以上、正確に写真的に記憶してしまう方。
床にバラまいたマッチ棒などを、瞬間的に正確に数えてしまう、“瞬間計算”が出来る方。
複雑な計算問題の答えを瞬時に出してしまう方。
オーケストラの作曲という非常に複雑な作業を頭の中だけで構築し、完成してから譜面に書き起こすことが出来る方。
カレンダー計算と言って、例えば「2045年の5月6日は何曜日?」と聞くと、瞬時に答えが出る方。
など、能力は様々です。
また、写真的記憶に関しては、嫌な風景や出来事も鮮明に思い出してしまうことがあり、パニックを起こすことも有り得ます。
言えることは、“ある特定の分野に限って”ということであり、単純な計算は苦手であったり、普段の生活で不都合な面を持っていたりと、バランスがあまりよくない場合も多いです。 - なぜ、そのような能力を持っているのですか?
- サヴァン症候群に関しては諸説あり、まだ分かっていません。
- チョコザイの持つ能力とは?
- チョコザイは、人とコミュニケーションをとることは苦手だが、天才的な記憶力を持っている。自身が見たものに対して、細部に渡っての写真的な記憶があるという設定です。
また、チョコザイは“記憶した情報を組み合わせて事件の解決につなげていってしまうという”という能力も持っていますが、これはサヴァン症候群独特の症状ではありません。 - チョコザイは事件を理解しているのですか?
- それは分かりません。ただ、本人が意識して推理を組み立てるわけじゃなくて、必要な記憶が何らかのきっかけによって出てくるのだと思います。
- チョコザイの仕草に関して、手の動きが特徴的ですが…。
- チョコザイの仕草で、パっと目に付くのが手の動きだと思います。手の動きに関しては、“サヴァン症候群”とは直接関係しません。刺激を自分自身に与えることによって、何らかのストレスを軽減しようとする動作です。人間関係、精神的な緊張、外傷など、人間の誰しもがストレスを感じる瞬間がありますよね。チョコザイも、それを何らかの形で無意識に軽減させようとしているという動作です。
- チョコザイは決まった時間に食事を取る、シャワーを浴びるなどの行動も見られますが…。
- それは、「こだわり」ですね。
サヴァン症候群だからと言うわけではなく、自閉症などの方が持っている「こだわり」というものです。特定のものを食べ続ける、同じ服を着る、物の置き場所は常に同じ位置、作業の順番や手順を変えるとダメなど、強いこだわりを持つ “ こだわり行動 ” と言うものがあります。チョコザイの行動も、その “ こだわり ” であると言えます。 - 蛯名舞子がチョコザイの能力を捜査に利用したように、その能力を何らかの形で生かすことはありますか?
- ありえると思いますが、普通はやりませんね。
但し、これは日本ではないのですが、イギリスやアメリカなどには発達障害の方のための学校があります。そこでは、得意な分野をひたすら伸ばすという、一種の天才教育をしていました。出来る事と苦手な事の差が激しいため、得意な事をいかに生かして伸ばしていくかっていう教育です。
あとは、「療育」という教育は日本でもなされています。治療の療と、教育の育で、「療育」。単なる治療ではなく、普段の生活に適応できるような教育と合わせて行います。きちんとプログラムしたものを個人個人に当てはめて行いますので、かなりの結果が出て、生活に適応しやすくはなっています。 - 日曜劇場『ATARU』を通じて、視聴者に感じていただきたいことはありますか?
- 彼らのような方たちの行動を、世間では“問題行動”として映ることがあると思います。けれどそれは、本人たちが問題を起こそうとしてやっていることではなく、コミュニケーションの問題や社会性の問題である場合が多く、必ずしも本人たちの責任とは言い切れません。今後は、お互いが理解しあうような状況になれば、お互いスムーズな生活が出来るようになると思います。ですから、“治す、治さない”ではなく、“生かす、生かさない”であると。彼ら自身が特殊な能力を生かせるような社会性を身につけること、そしてその能力を生かせる社会を私たちが作ることが大事だと、私は思っています。視聴者のみなさんに「こう感じて欲しい」という事はありません。このドラマは、“ 障がいと向き合うことをテーマにした作品ではなく、サヴァン症候群の主人公が、彼の持つ特殊な能力によって、事件の真相を解くミステリーの面白さを追究したエンターテイメント作品である ”と、うかがいましたので、エンターテインメント作品として楽しんでいただけると嬉しく思います。
医事監修:ハタイクリニック医院長 西脇俊二(日本精神神経学会専門医・指導医)