日伊国交樹立150周年特別展 アカデミア美術館所蔵 ヴェネツィア・ルネサンスの巨匠たち

2016年7月13日(水)〜 10月10日(月・祝)

休館日:火曜日 ※ただし8月16日(火)は開館

国立新美術館

作品紹介

[第1章]ルネサンスの黎明─15世紀の画家たち

ヴェネツィアのルネサンス美術は、フィレンツェよりも少し遅れて1440年頃に始まりました。
その中心となったのが、ベッリーニ一族とヴィヴァリーニ一族の二大工房です。フィレンツェの先進的な美術の刺激を受けて、現実的な空間と人間的感情の表現を身につけた画家たちは、そうした表現力をヴェネツィア独自の豊かな色彩による装飾的趣味と融合させていきます。また、シチリア出身の画家アントネッロ・ダ・メッシーナによって、深味のある彩色を可能にする油彩の技法がもたらされたことも、大きな出来事でした。こうしたヴェネツィアの初期ルネサンス絵画を代表する最大の画家が、詩的な聖母子像を数多く描いたジョヴァンニ・ベッリーニです。また、宗教的主題のなかに当時のヴェネツィアの風俗を見事に描き出したヴィットーレ・カルパッチョ、七宝のような艶やかな色彩で独創的な宗教画を数多く描いたカルロ・クリヴェッリなど、個性豊かな画家たちを紹介します。

写真:《聖母子(赤い智天使の聖母)》

ジョヴァンニ・ベッリーニ
《聖母子(赤い智天使の聖母)》
油彩/板 77 × 60 cm

15世紀後半、ヴェネツィア初期ルネサンスを代表する画家ジョヴァンニ・ベッリーニは、祭壇画や肖像画を得意としたほか、詩情豊かな聖母子像を数多く描きました。本作はその代表的な作例の一つです。

写真:《聖母マリアのエリサベト訪問》

ヴィットーレ・カルパッチョ
《聖母マリアのエリサベト訪問》
油彩/カンヴァス 128 × 137 cm ジョルジョ・フランケッティ美術館(カ・ドーロ)

[第2章]黄金時代の幕開け─ティツィアーノとその周辺

16世紀の初頭、二人の若い画家によってヴェネツィア絵画に革命がもたらされます。ジョルジョーネとティツィアーノです。先輩画家ジョヴァンニ・ベッリーニの豊かな色彩表現を受け継ぎながら、彼らはフィレンツェ派のレオナルド・ダ・ヴィンチやミケランジェロからも刺激を受けつつ、真にヴェネツィア独自といえる絵画の伝統を創始しました。その本質は、光と影の効果や色彩の調和に対する素晴らしい感覚にあります。彼らはこうした表現力を駆使することで、柔らかい光に包まれた風景や官能的な女性像を若々しい詩的な感性で描き出し、ヴェネツィア絵画の黄金時代を現出させました。この章では、ティツィアーノのいくつかの作品のほか、ジョルジョーネの影響を色濃く示すアンドレア・プレヴィターリの《キリストの降誕》やサヴォルドの《受胎告知》、「横たわる裸婦」の系譜に連なるパリス・ボルドーネの作品などが出品されます。
また、ティツィアーノ晩年の大作《受胎告知》(サン・サルヴァドール聖堂から特別出品)は、本展の最大の見どころとなるでしょう。

写真:《受胎告知》

特別出品

ティツィアーノ・ヴェチェッリオ
《受胎告知》
油彩/カンヴァス 410 × 240 cm サン・サルヴァドール聖堂

16世紀・盛期ルネサンスのヴェネツィア画壇の第一人者として君臨したティツィアーノ。この巨匠の晩年を代表する作品の一つが、サン・サルヴァドール聖堂の右側廊の祭壇を飾る大作《受胎告知》です。当時、貴族や裕福な市民は、聖堂内の祭壇の保有権を寄進によって獲得し、一族の墓所とすることがありました。本作も、こうした手段で祭壇を入手した裕福な商人の注文によるもので、ティツィアーノは、「キリストの受肉」、すなわち、神の子キリストが肉体をまとい、人の子イエスとしてマリアに宿る「受胎告知」の瞬間を描くように依頼されました。大天使ガブリエルがマリアのもとを訪れ、受胎を告げる場面は、ルネサンス絵画になじみの主題ですが、ヴェネツィアではさらに特別な意味がありました。伝承によれば、ヴェネツィアの建国は421年、受胎告知の祭日である3月25日にさかのぼるからです。ティツィアーノは、この決定的な奇跡の瞬間を、晩年特有の力強く大胆な筆さばきと、金褐色を基調とする眩惑的な色彩によって、ドラマティックに描出しました。天が開け、まばゆい光とともに、聖霊を表す鳩が降臨するなかで、大天使の出現に驚いたマリアは、身を引きつつも耳元のヴェールをたくしあげ、お告げに耳を傾けています。その足元にあるガラスの花瓶は、マリアの処女性を象徴しています。
ティツィアーノが筆と油絵具を自在に操り、色彩の表現力を最大限に引き出すさまは、当時の批評家から「色彩の錬金術」と評されました。聖なる神の子が人間マリアのうちで生身の肉体を授かる神秘が、この世ならぬ輝きを放つ色彩そのものによってみごとに表出された本作は、まさにその錬金術の極みともいえるでしょう。

写真:《聖母子(アルベルティーニの聖母)》

ティツィアーノ・ヴェチェッリオ
《聖母子(アルベルティーニの聖母)》
油彩/カンヴァス 124 × 96 cm

[第3章]三人の巨匠たち─ティントレット、ヴェロネーゼ、バッサーノ

ティツィアーノに続く世代としてヴェネツィアで活躍したのは、16世紀半ばに画壇に華々しくデビューしたヤコポ・ティントレットと、少し遅れてヴェローナから移住してきたパオロ・ヴェロネーゼでした。劇的な明暗表現で宗教画の大作を次々と描いたティントレットと、華麗な色彩と古典的な様式で貴族たちから高く評価されたヴェロネーゼ。対照的な個性をもった二人の画家は、熾烈なライバル関係をくり広げながら、老齢のティツィアーノに代わって世紀後半のヴェネツィア絵画をけん引する存在となりました。
一方、ヴェネツィアの内陸領土の町バッサーノ・デル・グラッパでは、ヤコポ・バッサーノが独自の制作活動を展開していました。ジョルジョーネの流れを汲む情緒豊かな田園風景に託して聖書の主題を描き出したバッサーノの宗教画は、首都ヴェネツィアや外国の宮廷でも高く評価されています。
この章では、これら三人の巨匠たちの大作を中心に紹介します。

写真:《聖母被昇天》

ヤコポ・ティントレット(本名ヤコポ・ロブスティ)
《聖母被昇天》
油彩/カンヴァス 240 × 136 cm

写真:《レパントの海戦の寓意》

パオロ・ヴェロネーゼ(本名パオロ・カリアーリ)
《レパントの海戦の寓意》
油彩/カンヴァス 169 × 137 cm

写真:《ノアの箱舟に入っていく動物たち》

ヤコポ・バッサーノ(本名ヤコポ・ダル・ポンテ)と工房
《ノアの箱舟に入っていく動物たち》
油彩/カンヴァス 133 × 119 cm

[第4章]ルネサンスの終焉─巨匠たちの後継者

1580年代の終わりから90年代の前半にかけて、前章の三人の巨匠が次々に他界していきました。ヴェネツィア絵画は、これら三巨匠のスタイルを受け継ぐ後継者たちの時代となります。ティントレットの息子のドメニコ・ティントレットや、晩年のティツィアーノとティントレットから大きな影響を受けたパルマ・イル・ジョーヴァネが、ヴェネツィアのルネサンス絵画の最後を飾る画家たちとなりました。さらに世代の降る画家として、とりわけティツィアーノの画風を模倣したパドヴァニーノがいます。彼の作風は、バロック絵画の始祖とされるカラッチ一族の様式に近い性質ももっており、ルネサンスからバロックへの過渡期を代表しています。本章では、パルマ・イル・ジョーヴァネの流麗な大型祭壇画や、パドヴァニーノの官能的な神話画など、ルネサンス様式の終焉とバロック様式への移行を示すいくつかの作品を展示します。

写真:《聖母子と聖ドミニクス、聖ヒュアキントゥス、聖フランチェスコ》

パルマ・イル・ジョーヴァネ(本名ヤコポ・ネグレッティ)
《聖母子と聖ドミニクス、聖ヒュアキントゥス、聖フランチェスコ》
油彩/カンヴァス 309 × 180 cm

写真:《オルフェウスとエウリュディケ》

パドヴァニーノ(本名アレッサンドロ・ヴァロターリ)
《オルフェウスとエウリュディケ》
油彩/カンヴァス 164 × 119 cm

[第5章]ヴェネツィアの肖像画

実在の人物の姿を生き生きと記録する肖像画は、ヴェネツィア画派が非常に得意とする分野でした。ヴェネツィアの肖像画は、宮廷風の堅苦しさから自由な、ときにカジュアルで、ときに内面性への深い洞察を含んだ様式を発展させ、その後の西洋美術の肖像画制作のモデルとなっていきます。この章では、ベッリーニの肖像画様式を反映した15世紀のマルコ・バザイーティの作品から、ジョルジョーネとティツィアーノによる肖像画の刷新に連なるジョヴァンニ・カリアーニの素晴らしい《男の肖像》、ベルナルディーノ・リチーニオの女性像の小品、ティントレットが闊達な筆致で名門貴族の老人を描いた傑作《サン・マルコ財務官ヤコポ・ソランツォの肖像》など、ルネサンス時代全般にわたる質の高い典型的なヴェネツィア肖像画をご覧にいれます。

写真:《バルツォ帽をかぶった女性の肖像》》

ベルナルディーノ・リチーニオ
《バルツォ帽をかぶった女性の肖像》
油彩/カンヴァス 48 × 46 cm

写真:《聖母マリアのエリサベト訪問》

ヤコポ・ティントレット(本名ヤコポ・ロブスティ)
《サン・マルコ財務官ヤコポ・ソランツォの肖像》
油彩/カンヴァス 106 × 90 cm

ティントレットは大画面の祭壇画や装飾画を精力的に手がけるかたわらで、肖像画にも優れた手腕を発揮しました。本作は、ヴェネツィア統領に次ぐ高位の役職「サン・マルコ財務官」を1522年より務めたヤコポ・ソランツォの最晩年の肖像画で、サン・マルコ広場に面する財務官の庁舎に飾られていました。当初はカンヴァスの上辺が半円形をなし、モデルの右側に人物がもう一人描かれていましたが、16世紀末に現在の形になったようです。豪奢な質感が巧みに描出された財務官の緋色の衣服を纏い、射るような眼差しを放つソランツォは、堂々たる威厳にあふれ、精神の老練さをも感じさせます。ティントレットは、名門ソランツォ家をはじめ、多くのヴェネツィア貴族から肖像画の制作を依頼されました。

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