インタビュー
堤幸彦監督
『神の舌を持つ男』構想に20年費やしたとのことですが……。
本当は30年位……25.6年はウダウダと考えていました。
(植田P:『ケイゾク』(1999年)のときには聞いていましたからね)
具体例を言うと、『男はつらいよ』の寅さんのように放浪し、変わった才能がある男のキャラクターが作れないかなと。そこから舌の舌感が尋常ならざるというか、人の何百倍も究極に強い能力の男がいたら面白いなと考えました。
主人公の蘭丸は、舌の能力が敏感で、普通の女性とキスをすると雑菌だらけで耐えられない。実際、人間は雑菌と共に生きていますからね。でもただ一人、ミヤビという名の女性とキスしたときだけは何も感じなかった。自分にとって運命の女性であると思い込み、温泉芸者のミヤビを追って温泉地をめぐるうちに仲間と出会い、様々な事件に遭遇するという話になりました。
四季折々、頼まれてもいないのに植田さんに「こんな企画はどうですかね?」と口頭で話をし、5回目くらいに「企画書が欲しいんですけど…」と履きすてるように言われて(笑)。
(植田P:あははは。覚えてます。履きすてるようには言ってませんよ!)
そこから更に十数年。植田さんのデスクの引き出しのかなり下のほうに企画書が眠っていて。まあ、こういう企画っていうのは、ピッタリくる時期というのが必ずやってきますから、私は待っていたわけです。すると突如、植田さんの中に「もしかして、今ハマるんじゃないだろうか」というご判断があったんじゃないですかね。私的には棚から牡丹餅といいますか、「本当にやるんですか!」と。でも、私だけだと不安なので、脚本には櫻井さんという完璧な保険がつきました。植田さんと櫻井さんのお導きで、推理物とし非常に楽しい作品なったと思います。
この企画を思いついたきっかけは覚えていますか?
きっかけは…簡単で、長く続けられる作品を作りたいなと。長く続けるということは、物語の舞台が変化に富んでいること……日本で考えると温泉しかないなと。そうして、温泉地を転々とする話をというところから逆算して考えていきました。温泉って何だろうって調べ始めると、途轍もなく深いんです。温泉の色が違うのは何故?深さが違う?地層の問題?と、地球物理学と向き合うみたいなところから始まり……この企画を1年のうち1週間ぐらい考えるということが10年間位続きまして(笑)、いよいよ地の底から、まるでお湯が噴出するように(笑)、
(植田P:うまいこといいますね、笑)
そこからまた色々と考え始めてこの企画がカタチとなりました。脚本の櫻井さんの調べる力が素晴らしく、温泉ってそうだったのか!と気づかされることも多々ありました。そこに向井くん、木村さん、佐藤さんが出演してくださることになり、作品として具体化して、本当に面白い企画になったなあと感じています。
蘭丸に向井さんを選んだきっかけや口説き落とした言葉は?
私が口説き落としてはいないんです。
向井くんとは2009年にリーディングドラマ(「もしもキミが。」)をやったのが最初で。リーディングドラマですが、途中で本を捨てて芝居になっていく。その瞬間のスリリングな変わり身を見て、“この人、すごいな”と。その後、2010年に『BECK』という映画でご一緒したとき、上半身裸で演奏する役柄だったので、向井さんは裸になれる男、というイメージが私の中にありまして(笑)。その次に、2012年の舞台『悼む人』では自分を追い詰める辛い役どころだったのですが、一緒に全国を行脚して……裸、向井、ふんどし、温泉、向井だな〜っていう(笑)
(植田P:もっと立派な起用理由ありますよね。記事を読んだ向井さんが何と言うか……笑)
もちろん。という前提がありながら(笑)、何と言ってもカッコイイこと。天然で外見に無頓着な蘭丸をカッコイイ向井くんが演じる。8.5頭身くらいあるでしょ、彼は。蘭丸は世の中の流れとは全く違うところに身をおいている男で、京大の教授である父親が学術研究場としている山に篭って、植物や薬剤の研究だけをしてきた。社会のことは何にも知らない、女の人とキスをすることや愛情の意味を全く知らない中で、今回初めて旅にでる。ターザンや狼少女のようというか……森の中で暮らしていたのに、突如都会に出てきた感じなんです。それを演じるのは、相当な演技力がないと出来ない。裸になることは半分冗談として、向井くんならあらゆる要請に応えてくれるだろうと。あとは、誰しもが彼の存在を知っている。誰もが知っている彼のイメージを大きく崩したいという、私の欲みたいなものもありました。ギャグもある、ふんどし姿で走り回る、木村さんと佐藤さんとトリオでハチャメチャな芝居もある、そんな中に居ても向井くんなら、蘭丸の純粋さやミヤビを思う心がブレないでいられるだろうと。そこを実に、彼は見事に演じました。どのように見事かというと、僕の予想に反してキュートなんです。むちゃくちゃカワイイ。これは、彼がこの作品に持ってきた“最大の向井くんのお土産”ですね。彼ひとりを見ているだけでも楽しめるドラマになっていると思います。
(植田P:『BECK』のときに堤監督から『神の舌を持つ男』の主役がやっと見つかった!と連絡がありまして。企画も通っていないのに、笑。それが向井さんでした)
可愛さが向井くんのお土産とおっしゃいましたが、具体例をあげると?
蘭丸が、「それは言えません」「僕にはその発言は言えません」というときに、口の前で両手の人差し指をクロスさせてバツをつくるんです。セリフじゃなくて、仕草で表現する。それは私も思いつかなかったので、“やられた!”と思いました。ものすごく可愛かったです。
あとは、謎を解いたあとに“にこ”っと笑うんです。その表情が、“謎を解いたぞ”ということではなく、学者が難題を解いたときのような、中学生の男の子が高校生の問題を解いたときのような、純粋な楽しみの顔なんです。これが上手いな〜と。向井くん自身が理系出身なので、それが出ているのかもしれません。付き合いは長いけれど、初めて見た表情ですね。純粋な気持ちを忘れていないんだなと、かわいい蘭丸になったなと思いました。
向井さん、木村さん、佐藤さんという3人のバランスも素晴らしいですね。
木村さんは『イニシエーション・ラブ』(2015年)でご一緒しまして、突き抜けてくる方だなと。甕棺墓 光(かめかんぼ ひかる)は、毎話違う扮装をするという、着せ替え人形的なキャラクターなんだけど、光という素っ頓狂な人物を延々と貫いてくれて。これはご覧いただければ一目瞭然。あとは、櫻井さんが、彼女に付与したキャラクターが“2時間サスペンスマニア”。これが本当に面白い。台本を読んだときに大笑いしました。それを、可愛く美しい表情で彼女が演じると、妙な立体感が生まれて、新しいキャラクターが完成したという期待が大きいですね。さらに、彼女はアクションもいい。一生懸命やるところが面白くて、木村さん以外には出来ないキャラだと思います。
佐藤二朗さんは、彼がバイトをしながら俳優をやっていた頃からよく知っているのですが、最初に衝撃を受けたのが、劇団「自転車キンクリート」の舞台で、ひとり6役をやり遂げたとき。“何だ、この人は”とビックリしましたね。それから自分の劇団にゲスト出演してもらったり、植田さんと一緒にやった『ブラックジャック』(2000年TBS)で、医者を演じてもらったり……それ以来、私の作品には出ていただいていたのですが、今回は満を持してメインキャストの宮沢寛治として出演していただきました。そもそも蘭丸の行動というのは、世の中の常識に外れた動きが多く、輪をかけて光も、突如自分なりの推理を始めたり、刑事をさしおいて暴走したりする。それに対して視聴者目線の冷静なツッコミが必要で、それを全て佐藤二朗さんに託しました。本来は、佐藤二朗という男はボケ担当なんですね。ボケでなんぼなんですけど、それを封印して、「それは違うだろ」「さっきそれは言っただろ」とツッコミを入れて、物事を整理する役回りとなっています。蘭丸、光、寛治という3人でひとつのキャラクター、三位一体を作り出すためには必要不可欠な存在でした。
今回、光の衣装が毎回違いますね。
本来、僕のドラマの特質はワンポーズ(衣装が一種類)であることが多いのですが、今回は、かわいいキャラクターが欲しいなと思いまして。木村さんは第1話で着用しているアーミーの上下で全話通そうかなと思っていたのですが、今回の作品はオリジナルの車が1台あり、それで常に移動しているんです。それは光の車で、中には商売道具である骨董品が無数にあり、屋根の上に巨大な箱を積んでいる。それならば、箱の中には光の着替えが無数に入っていることにして、光の衣装を毎回変える事にしようと。1話はアーミー、2話はゴスロリ、最終回にはどんな服装になっているのか、楽しみにしていてください。
撮影は、オールロケですね……
そうですね。オールロケは好きなスタイルなので、出来るだけロケにさせてくださいとお願いしていて。今回は物語の温泉地が毎回変わるので、いわゆる決まりの場所を設定せず、結果としてオールロケになりました。今回は、日本人の心象風景となるようなところを目指しました。第1話は蛍がたくさん出てくるのですが、湯西川という日光の奥の温泉地でやらせていただきました。温泉をより温泉らしく、温泉旅館を温泉旅館らしく見えるよう、ロケ地にはこだわりました。
構想20年ということで、思い入れの深い作品になりそうですか?
自分の企画ですからね、比べるものがない位、思いいれは深いです。
1話2話に関しては何度編集したか分かりません。音を入れたあとも、ちょっと直したくなって直す……の繰り返しで。初回の放送まで時間があるということもありますが、私にとってかわいい作品になりましたね。この作品は見る人を選ばない。私がやった他の作品は人を選ぶのかっていうとそうではないのですが(笑)……この作品は非常に間口が広いので、老若男女、全国津々浦々、たのしんでいただける直球の作品です。今後も長く続けられる、愛される作品になればと思っています。ぜひご覧ください。