担当：長田新

今日は、事故や病気で足を失った女性たちが、愛用する義足を付けてカメラの前に立った写真集についてお伝えします。
この写真集は、「切断ヴィーナス」というタイトルで、５月末に発売され、「元気が出る」「勇気付けられた」と話題になっています。
写真集は、モデルになった女性たちと、その人それぞれに合う義足を作る義肢装具士、そして、パラリンピックなど、障害者スポーツを撮り続けている写真家の方、これら３者の交流から生まれました。
写真集の著者で写真家の越智貴雄(おち・たかお)さんの話をお聞き下さい。

『確かに義足って、不便ではあるかもしれないんです。たとえば、走るための義足と日常用の義足は変えなければいけないので、不便ではあるかもしれないんですけど、世間一般の人たちが持っているようなイメージ。頑張っているとか、かわいそうなものと思われたりするものではないなというのは感じます。私が今回、１１人、撮影させてもらった被写体はそうではないんですね。本当に夢や目標を持っている、とても魅力的な女性たち。』
　　
さて今回、取材場所が、なぜか、千駄ヶ谷の東京体育館。しかも夜の陸上競技場ということで、「なぜ、夜に東京体育館で？」と思ったのですが、行ってみて謎が解けました。
義肢装具士の臼井二美男(うすい・ふみお)さんの話です。

『 義足を履いてパラリンピックを目指すばっかりじゃなくて、本当に純粋に、こう、走ってみたいって思っている人は、結構いるんですよ。まあ、そういう活動をずっとやってきているんですけど、定期的にやるというと、やっぱ都心だと、ここがすごく場所が良いんですよね。で、会社が終わった後に、有志が集まって、走る練習を。まあ、夜になっちゃうんですけどね。』

それで、取材場所が夜の陸上競技場だったというわけです。
臼井さんは、義肢装具士の第一人者です。臼井さんの義足を使っている方は数百人いらっしゃるそうで、パラリンピックに出場した方も多くいらっしゃいます。週１回の練習に加えて、月１回の練習会には、全国から１００人近い方が集まって来るそうです。
今回、この写真集のモデルの方に、お話を伺うことができました。
佐藤陽子(さとう・ようこ)さんは現在３３歳で、７年前に事故で左足を失いました。
いまはデスクワークの仕事をしています。佐藤さんの話です。

『 そうですね。事故した当初、あの、切断した当初は、もう本当に悲観的なことばかり考えてしまっていて、自分が出来ないことばかり探しているという感じだったんですけれども、義足を付けて走っている人たちを見て影響を受けまして、自分も走りたいということで、走ることを知ってからですね、なんかこう、出来ないことをひとつずつ埋めて行くような形で、自分がすごい前向きになれたんですね。
ご自分でご覧になってどうですか？
あー、もう本当に一生の宝で、生きてて良かったと思いました。はい。』


佐藤陽子さんの写真は、太ももを大胆に出していますが、義足に和柄があしらわれています。
この義足は、切断された足の部分を納める「ソケット」と呼ばれるところに、着物に布地を張って、その上からコーティングを施しているそうです。完全に「他人に見せることを意識した」義足なんです。
再び、義肢装具士の臼井二美男さんの話をお聞き下さい。

『どちらかというとほとんどの人が、「もう一生隠していかなきゃいけない体のひとつなんだ」みたいに思っている人が多いですよね。でも、やっぱり時代も変わって、「もっと自分を自然な形で出しても良いんだ」という人も少しずつ出てきているんですよね。そういう人が、同調するというかシンクロするというか、意見が合うというか、そういう人がやっぱり出てきているというか。そういう人に集まって頂いたのが今回という感じで。だから、すごく笑顔も素敵だし、堂々としていますよね。本当に、良い写真が出来たなと思っていますけどね。』


この写真集のモデルの女性は、全部で１１人。義足の写真集と聞いて、取材する前は不安もあったのですが、みなさんの笑顔に圧倒されて、自分の考えがいかに薄いものだったか、思い知らされました。
きょうご紹介した写真集「切断ヴィーナス」は、白順社から発売されています（価格は税抜２２００円です）。
写真集の皆さんの笑顔がイキイキしていて、本当に素敵です。こうした形で、義足を前向きに捉える人が増えていくといいと思います。