インタビュー

脚本・橋田壽賀子先生、石井ふく子プロデューサー

橋田壽賀子さんと石井ふく子プロデューサーが、2019年9月16日放送の『渡る世間は鬼ばかり』に込めた思いや見どころを語りました。

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ーどのような思いで今回のスペシャルを制作されたのでしょう?

石井ふく子P(以下、石井):『渡る世間は鬼ばかり』はおかげさまで30年目を迎えさせていただきました。橋田さんとは喧嘩をしながら60年のお付き合いです。この素敵な方との出会いで『渡る世間は鬼ばかり』をはじめさまざまなドラマを皆さまにお届けすることができています。
昨今、家族のドラマが少なくなりましたが、私たちは家族のドラマをずっと作り続けてきました。世の中にはサスペンスドラマなどもありますが、私は家族の中にこそサスペンスがあると思っていて、それを橋田さんが一生懸命お書きになってくださっています。
今回の3時間スペシャルも家族の問題です。私が考えるに、今は機械など文明が発達し過ぎて、文化がどんどん後ずさりしているのではないかと。皆さんに、日本の文化をもう少しご覧に入れたいなと思いながらドラマを作り続けています。
橋田壽賀子(以下、橋田):こんなに長い間、一番良い時代にテレビのお仕事させていただき、本当に感謝しています。この年になると、なかなかお仕事の依頼もありませんが、今年も『渡る世間は鬼ばかり』のおかげで、作品を一つ書くことができました。
文句ばかり言っている私ですが、本当は幸せだと思っています。というのは、いつもその時代その時代に社会の問題があるんですね。それをどこに発表するか、私はエッセイで書くよりも、やっぱりテレビドラマにメッセージとして込めて、皆さまにお届けできることが一番幸せだと思っています。
30年前から書いて来ましたが、同じ人物が年を取り、年齢と同時に社会の問題が変わっていく。周りも変わっていく。そういうものを全部吐き出してきたのが『渡る世間は鬼ばかり』です。書かせていただけることに心から感謝しています。

ー家族の中にサスペンスがあるとは?

石井:最近は子どもたちが家に帰ってくると、機械とばかり向かい合っていて、一家団欒は皆無に近い状態ではないでしょうか。「ただいま」の後の会話が続かない。自分の部屋へ入ってしまったり、機械と向かい合ったり。人とではなく機械としゃべっているという気がすごくするんですね。これは大きな家族の変化じゃないかなと。
今、いろいろな問題が毎日起こっています。『渡る世間は鬼ばかり』の中では、心をどういうふうにつないでいくか。「人間」と書いて「ヒト」とも読みますが、それは人と人の間に心がある、愛があるからです。そういうものを、会話をしながらつなげていきたいなという気持ちがあります。
でも、実際は言いたいことを言い合って、良いことと悪いことを心に留めながら生活していくということがありませんね。それが暴力になったりしているわけです。
そういう点が、つまり家族のサスペンスということ。これはもう本当にどうしたらいいかなぁと心配になり、橋田さんと「やっぱりきちんとした家族のドラマを書いていこう」という話になるわけです。
相続の問題などもそう。家族をいろいろな角度から見ていて、視聴者の皆さんに「ああこういうこともあるんだな」と思っていただけたらうれしいです。

ー平成を通して、家族はどう変化した?

橋田:このドラマは「自立をしなさい」ということがテーマなんですね。姉妹一人一人が自立していくというテーマでずっと追いかけてきたので、平成だからというくくりは特にありません。
その中で思うことは、世の中には親の介護をして、自分の人生が壊れてしまう中年の方もいます。そうではなく、みんなが自分を大事にすれば世の中は良くなるということをいつも書いているんです。
だから、親も子も一人一人が自立して、自分で自分の幸せを考えるということ。相手の幸せも考えなきゃいけないけれど、自分を犠牲にしてまですることではないでしょ、という考えもありますし。今、家族がだんだん壊れてきていますよね。

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ー五月が料理の動画配信をする話がありますが、そういう新しい情報をどうやって脚本に取り入れた?

橋田:私はスマホのことはよくわからないんです。でも、世の中を見ていると、スマホで人がつながったり、人(人間関係)が壊れたりしていますよね? 私も誰かとつながるんだったら、歩いて会いに行くのは面倒くさいから、インターネットで自分をアピールできたら便利だなぁと思ったんです。
それで今回、動画配信のことなどをすごく勉強しました。例えば、小腹がすいた時にパッと作れる料理を知っていれば、それを誰かに教えてあげられます。五月はずっと中華料理屋さんで働いているから、それができます。そういうことを家にいながらできるってすごい手段だと思うんですね。
それに五月は子育ても終わり、まわりからは「もう店に出なくていい」と言われています。スマホの動画配信なら遊ぶお金がかからないし、交通費すらかからない。料理の作り方を動画で紹介するだけでなく、実際にお料理の会を企画することもできます。
そんなことをいろいろ考えました。スマホがあれば、自分が歩いて行かなくてもお友達ができる。悪いつながり方もありますが、良いつながり方をして楽しんでいただきたいという思いです。
私自身はスマホの使い方をお手伝いさんに教えてもらいましたが、なかなか覚えきれませんね。仕事がなくなったら、時間をかけてやってみようかなと思っています。

ー日向子に思いを寄せる男性役で小野塚勇人さんを起用した理由は?

石井:放送30年の間にさまざまな若者が登場して、子どもだった日向子ちゃんも22歳になりました。その相手役をと考えていて、橋田さんがお書きになった人物像に近い役者さんを探していたんですね。そんな時にEXILEのHIROさんにお会いして、「実はこういう役を探しているんです」とお話をしたら、「候補が何人かいますから、良ければ会ってみませんか?」って。
それでお会いした中で、小野塚さんはとても清潔感がありましたし、踊りだけでなく舞台経験もあったので決めました。先週、撮影をしましたが、一生懸命お芝居されていて、とても良い青年という印象です。

ー「幸楽」と「おかくら」の相続の仕方が対照的だが、その意図はありますか?

橋田:「おかくら」の場合は、父親が作ったお店を壊したくないということがまずあって、どうやったら相続できるかを考えました。それで、株式方式にして儲けた分を姉妹で分けることにしたんです。そういう相続があってもいいんじゃないかと私が考えた相続方法ですが、弁護士さんも「それでいいですよ」ということでしたので。そうすればお店も残るし、姉妹たちも同意してくれるかもしれないですから。
一方、「幸楽」の場合は非常にオーソドックスで、長男が継いでいます。兄弟はその代わりにいろいろなものもらっていますから。私は、今あるものを壊さないで相続できたらいいなと思ってます。
親が亡くなったあと売るとかでなく、大事に兄弟で育てて残していく、そんな相続があってもいいんじゃないかなという考えです。ですから意図的に対照的にしたのではなく、相続の仕方はさまざまある、ということですね。相続が“争族”にならないといいなと思っています。

ー次回作のイメージや書きたいことは?

橋田:書きたいことはありますし、書けと言われれば書きますが、先のことはわからないので来年の約束はしないようにしています(笑)。個人的にはスマホの研究をしたいですね。フェイクニュースなんて面白いですもんね。
石井:これから先、(登場人物の)若い人たちの間にいろいろ出てくると思います。時代が変わりつつある中で、家族のあり方も変わっていくでしょうが、それを橋田さんがどういうふうに受け止めてお書きになるか。私はまだまだたくさんお書きになれると思っています。楽しみにしていただきたいです。