地域を豊かにするはずの公共事業が地域にもたらしたのは住民同士の対立だった。国営諫早湾干拓事業。潮受け堤防の排水門開門の是非を巡る漁業者と農業者の裁判は10年以上続き、開門と非開門の相反する判決が出されるなど司法判断も分かれている。
農家の松尾公春さんはかつて開門差し止め裁判に参加していた。しかし開門禁止の判決を機に、行政は農家に対する態度を一変させたという。「農家は開門阻止のための盾にされた」と憤りを隠さない。
一方の漁業者も失望を深めている。島原市の漁師、中田猶喜さんは8年前に開門の確定判決を勝ち取ったものの、国は今も開門の義務を果たさない上、裁判所も開門判決を否定するような考えを示しており、もはや裁判での解決はできないと考えている。
行政と司法に翻弄されてきた漁師と農家。かつて対立の構図にあった両者が今、少しずつ歩み寄りを始めた。諫早湾干拓はいま、新たな展開を迎えている。
ディレクター:内野大輔(NBC長崎放送)