2019年02月26日放送
#2553「映画が描く現代史」
ゲスト :映画評論家 町山智浩さん
解説 :「報道特集」金平茂紀キャスター
キャスター:上野愛奈
【テーマ】
『LBJ ケネディの意志を継いだ男』、『バグダッド・スキャンダル』、『タクシー運転手 約束は海を越えて』、『1987、ある闘いの真実』など、それぞれの国の生々しい現代史をめぐる映画が次々制作され、去年から日本で立て続けに公開されています。描き方によっては物議を醸す可能性もある現代史をなぜ映画にするのでしょうか。一方、日本ではなぜ現代史や社会を風刺する作品が少ないのでしょうか。映画が現代史を描く意味について、また現代史をめぐるメディアの在り方について映画評論家の町山智浩さんと「報道特集」の金平茂紀キャスターに聞きます。
【放送後記】
アメリカ政治の現場を描いた『バイス』、『記者たち〜衝撃と畏怖の真実〜』、『フロントランナー』という3本の映画を題材に、日本にも、少なからず影響を与えてきたアメリカ政治史、そして、それを伝えるメディアの在り方について語っていただきました。町山さんはカリフォルニア州バークレイ在住、金平キャスターはJNNワシントン支局長、JNNアメリカ総局長(ニューヨーク)として、アメリカ取材をされていたこともあって、映画の見どころはもちろんですが、2人の経験談も興味深いものでした。
『バイス』は、ネオコンの中心的人物の1人で、2001年からスタートしたブッシュ政権下では、実権を持つ副大統領とされたディック・チェイニーの伝記的映画です。ブッシュ政権時に、ワシントン支局長としてホワイトハウス取材をしていた金平キャスターは、チェイニー副大統領の印象を「異様な怖さ」があったとおっしゃっていましたが、『バイス』の中でも、イラク戦争開戦を陰で導いたチェイニーは、怖いものなしの実力者として描かれています。ただ、そんなチェイニーが若いころから頭が上がらず、チェイニーを裏で操っていたとされるのが妻リンだった?というオチもあるなど、『バイス』の魅力の1つは、非常に風刺のきいた作品であることだと思いました。アダム・マッケイ監督は、コメディ劇団の出身で、1990年代には、スパイスの効いた政治風刺が日本にもたびたび紹介される人気番組「サタデーナイト・ライブ」にレギュラー脚本家として参加していた人物です。チェイニーの強力な政治手腕もあって、ブッシュ政権は「イラクには大量破壊兵器がある」という世論形成に成功し、アメリカはイラクと戦争します。この大量破壊兵器の存在に疑いを持ち、真実を明らかにすべく取材を続けるナイト・リッダーの記者たちを描いたのが『記者たち』です。この2つの作品について町山さんは、政府や権力、言論の自由に挑戦していこうとするアメリカ映画の可能性を評価されていました。
番組で取り上げたもう1つの作品『フロントランナー』は、1988年の大統領選挙で有力候補とされたゲイリー・ハートが女性スキャンダルで失速、脱落していく過程を描いています。大統領選とジャーナリズムとの関係を描いた作品です。この作品について金平さんは、スキャンダリズムへの批判と、アメリカ・トランプ大統領への皮肉と評していました。現代史を見ると歴史が分かると語る、『記者たち』のロブ・ライナー監督の言葉にも通じる点があると感じました。(上野愛奈)