TBSテレビ 金曜ドラマ「LADY〜最後の犯罪プロファイル〜」

2011年1月7日スタート 金曜よる10時放送

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桐生先生のコラム

すべての謎は数字に[関西国際大学教授 博士(学術) 桐生正幸]

Episode6の冒頭で、翔子の研究論文が犯罪心理学会で特別講演に選ばれていました。
論文のタイトルは、「FBI方式プロファイリングにおける心理分析の推論結果と行動数量化との関連」。FBI方式の翔子のプロファイリングは、事例分析から得られた幾つかのパターンを基に、プロファイラーの個人的技量によって分析を試みます。一方、新堀のプロファイリングは大量の犯罪データと合理的な仮説を基に、統計ソフトや地図情報システムによって分析を試みます。異なるアプローチの2つのプロファイリングを、1つにまとめようと意図したのが翔子の論文でした。
2つの博士号を持つ新堀は、学会から優秀と認められた翔子の研究にジェラシーを感じます。そして、当初、自信を持って算出した行動予測が失敗し、その原因が分からぬまま、ふと手にしてめくった翔子の論文から、あることに気づきます。
「すべての謎は数字に隠されている。でも、そこから事実を見出すのは人間だけである」ということを。

今回のEpisode6では、新堀による地理的プロファイリング(地理プロ)や多変量解析といった数字による犯罪者プロファイリングの方法が紹介されています。地理的プロファイリングでは「円仮説」などのシンプルな方法と、「ライジェル」といった専用ソフトを使用した方法が、また多変量解析では「林の数量化理論」や「最小空間分析;SSA-I」などが、実際の現場で使用されています。
もし、このような数学や統計学を応用した犯罪者プロファイリングを知りたい時には、アメリカのTVドラマ「NUMB3RS(ナンバーズ)」が良いテキストになります。この(私が大好きな)ドラマの第1回では、実際に「ライジェル」を構築したテキサス大学キム・ロスモ教授が関わった事件実話が、ほぼ忠実に描かれています(Q&Aのepisode2-Q2を参照下さい)。

少し補足的に説明しますと、犯罪者プロファイリングに有用な統計手法は、「教師つき学習」と「教師なし学習」の2手法に分けられます。「教師」とは、統計の大学教員のことではなく、出力や反応のことであり、以前の統計学では「目的変数」「従属変数」と呼ばれていたものです。ありていに申せば、いろんな分析のための多くの変数を使って「予測」する(つまり、使用凶器や犯行時間などといった変数から犯人像を出力する)のが「教師つき学習」であり、教師がないので(とりあえず、使用凶器や犯行時間などの)多くの変数で、例えば殺人事件の「分類」を行うが「教師なし学習」となります。
CPSの新堀は、事件発生の初期には「教師なし学習」の統計手法で得られている「分類」を用い、現在の事件がどの分類に類似するのか、類似する分類から、どんなことが言えるのかを考えます。そして、捜査が進み捜査情報が増えてくると、「教師つき学習」の統計手法へそれらデータを入力し、より具体的な犯人像を確率的に描いていることになります。

さて、統計的なプロファイリングには、犯罪情報のデータベースが不可欠です。どんなに優れた統計手法を考案しても、どんなに優れた統計ソフトが出現しても、肝心の犯罪事象に関するデータベースがお粗末では、得られる結果はあまり期待できません。
では、現在の日本のプロファイリングは、どのようになっているのでしょうか。

平成20年(2008年)の警察白書に、次のような記述があります。「プロファイリングとは、犯行現場の状況、犯行の手段、被害者等に関する情報や資料を、統計データや心理学的手法等を用いて分析・評価することにより、犯行の連続性の推定や次回の犯行の予測、犯人の年齢層、生活様式、職業、前歴、居住地等の推定を行うものである。」「警察庁では、現在、犯罪手口、犯罪統計等の捜査管理に関する情報の統合を行っている警察総合捜査情報システムを高度化し、情報分析支援システム(CIS-CATS)(仮称)を構築することとしている。」 そして、翌年の新聞記事には、整備されたばかりの犯罪者プロファイリング用データベース兼分析システム「CIS-CATS(シス・キャッツ)」による事件解決が紹介されています。このCIS-CATSは、広域窃盗団や連続放火事件などの全国データが集積され、また犯行状況などを入力すると一定の行動パターンを持つ犯人像が浮び上がるシステムとなっており、ある窃盗事件の犯人像と行動範囲を推定し検挙に結びついたことが記載されています。

 

「CIS-CATS」を扱う人は、警察庁の法科学研修所というところ入所し、施設内の寮に缶詰状態で2ヶ月近くプロファイラーとしての研修を受けています。この研修所では、統計手法、技術、システムの運用の仕方などの講義も行われます。同時に、数字の持つ意味、計算で得られた結果の解釈が、担当教官から繰り返し教授されます。曰く、「プロファイラーにとって大切なのは、得られた結果すなわち数字の中に隠されている意味を、捜査に役立つよう解釈して呈示することである」と。
ここに、統計を大切にするプロファイリングと、事例を通し人間を深く観察するFBI方式プロファイリングの協働の意義が示されます。

チーフである結城は、新堀に「火事の中、自分の命を犠牲にしてでも子どもを救う人もいる。幸せになれないと分かっていても好きになる恋もある。人間はエラーする生き物だと、私は思う」と伝えました。(LADYの名セリフ、またもや出現!)
終盤、そのことに気づいた新堀は、より豊かなプロファイラーとなり、そして人として成長したのではないでしょうか。

桐生正幸 博士(学術)

関西国際大学 教授/人間心理学科長/防犯防災研究所長

文教大学人間科学部。山形県警科学捜査研究所主任研究官として、ポリグラフ検査や次にどこで事件が発生するかを予測する犯罪者プロファイリングの業務などに携わる。退官後は、関西国際大学教授として、「地域防犯対策」「犯罪不安」など犯罪を構成する諸々の要因を総合的に検討して、実践的な犯罪心理学の研究を行なっている。さらに、自治体や警察主催の会議をはじめ全国の講演会や、PTA・地域に対する防犯対策面での提言を行うなど防犯分野においても幅広く活躍している。