TBSテレビ 金曜ドラマ「LADY〜最後の犯罪プロファイル〜」
2011年1月7日スタート 金曜よる10時放送
約2年間にわたり、特定の曜日だけ手紙が届くというストーカー事件がありました。手紙の内容は、犯人自作のポルノ小説です。捜査を継続している警察署の依頼を受け、当時、プロファイリングチームを組んでいたS警部補と一緒に分析に入りました。手紙からの指紋検出無し、印刷したプリンターの特定は困難、投函した箇所に一貫性無し、送りつけられた被害者女性の交友関係からも有力な情報が皆無の事件でした。そこで、手紙文の内容分析や、投函されたエリアを基にした地理的プロファイリングなどを始めたのです。
実は、日本におけるプロファイリングとストーカー分析との間には、深い縁があります。1995年に開催された第33回日本犯罪心理学会において、科学警察研究所と科学捜査研究所の心理担当の有志で、日本初のプロファイリング研究会を立ち上げました(この経緯については、今度詳しくお伝えします)。
早速、仲間と共にFBIの性的殺人(sexual homicide)に関する連載文献や、イギリスのカンター教授らの統計的プロファイリングの報告書の翻訳に取りかかりました。同時に、何か実際の事件分析を行ってみてはどうか、ということになり、ここで白羽の矢が立ったのがストーカーだったのです。ストーカーの特徴は、繰り返し行為ですので統計的な分析にはピッタリでした。また、当時、犯罪捜査の観点からの心理学的研究がなかったことも理由となりました。1997年以降、関連する学会発表や警察公論という月刊誌での論文発表などし、仲間と精力的に研究を続けました。この時の有志メンバーが、現在の日本のプロファイラー第一世代となります。私たちのプロファイリングのスキルは、ストーカー分析で基礎固めが行われたことになります。
1990年、アメリカ・カリフォルニア州で「ストーキング防止法(Antistalking Law)」が世界で初めて制定がなされ、それ以後、ほぼ全米で同様の法律が制定されます。続くイギリスでは1997年に「嫌がらせ行為保護法(The Protection from Harassment Act)」が成立し、日本では、2000年11月24日から「ストーカー行為等の規制等に関する法律(ストーカー規制法)」が施行されました。
この法律では、「特定の者に対する恋愛感情その他の好意感情又はそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的」で、その特定の者又はその家族などに対して行う8つの行為([1] つきまとい・待ち伏せ・押しかけ、[2] 監視していると告げる行為、[3] 面会・交際の要求、[4] 乱暴な言動、[5] 無言電話、連続した電話、ファクシミリ、[6] 汚物などの送付、[7] 名誉を傷つける、[8] 性的しゅう恥心の侵害)を「つきまとい等」と規定し、規制しています。
お気づきのように、この法律では「恋愛」がメインになっています(余談ですが、この規制法が出来る前後に法律系の雑誌で、法律で恋愛をいかに考えるか、を真剣に論じる文章が掲載されおり、お堅い分野と愛とのミスマッチにビックリした記憶があります)。ただ、仲間と調査したストーカー事例では、恋愛感情を伴わない「つきまとい」、たとえば職場内や隣近所などでの人間関係の軋轢による事例も少なからずみられました。また、現在はインターネットなどを介するサイバーストーカーの問題も指摘されています。これらは、ストーカーを検討する際、今後の重要な課題となるところです。
さて、冒頭のストーカー事件の話にもどります。
分析を依頼した警察署では、プロファイリング報告書を参照し、犯人が現れる可能性の高い場所に、数少ない監視カメラを設置しました。数ヶ月後、手紙が投函された日の監視カメラの一つに写った人物に、被害者女性の心当たりはありませんでした。しかし、一緒に見ていた被害者の夫が、2年前に辞めた会社の元同僚に似ていることに気づいたのです。捜査は急展開し、さっそく元同僚に事情聴取したところ、彼は犯行を認めました。辞める前に参加した会社のパーティーで、夫と一緒に来ていた被害者を好きになり恋愛妄想が高じて手紙を書き続けた、というのが理由でした。無職になり小説を書く時間があったこと、決まった曜日に外出する予定があり、その時に無規則な場所から手紙を投函していたこと、などもわかりました。
事件解決後、被害者の女性からプロファイリングチームにもお礼の手紙が届きました。長く捜査を続けていた警察署へと共に途中参加の我々にも、と恐縮するばかりでしたが、その時に感じたうれしさは今でも忘れられません。
Episode2の徳山刑事(塚地さん)のように、ストーカー被害に対して寝る間も惜しみ、熱心に捜査を行う警察官がたくさんいます。非番の日でも電話などで安否を尋ねる、別件で近くに寄ったら被害者宅の周囲をパトロールする、などといった日頃のちょっとした気遣いは被害防止とともに、心強い安心感を被害者にもたらす要因にもなっています。そんな努力を裏から支えられるよう、プロファイリングの研究もストーカー防止の一助として、少しずつ研究を進めていかなければと考えています。
(なお、紹介した事例の一部を変更しています。ご了承下さい。)
関西国際大学 教授/人間心理学科長/防犯防災研究所長
文教大学人間科学部。山形県警科学捜査研究所主任研究官として、ポリグラフ検査や次にどこで事件が発生するかを予測する犯罪者プロファイリングの業務などに携わる。退官後は、関西国際大学教授として、「地域防犯対策」「犯罪不安」など犯罪を構成する諸々の要因を総合的に検討して、実践的な犯罪心理学の研究を行なっている。さらに、自治体や警察主催の会議をはじめ全国の講演会や、PTA・地域に対する防犯対策面での提言を行うなど防犯分野においても幅広く活躍している。