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主人公のその後

2013年5月15日更新
人体の臓器や細胞を3DのCGで超リアルに再現! 現役研修医が医学界に革命を起こす!科学も医学も可視化する最先端技術
ドリームメーカー:
東京大学医学部附属病院 研修医・サイエンスCGクリエーター
瀬尾拡史 さん
※ドリームメーカーの瀬尾拡史さんご本人が文章を送って下さいました。

この度は、素晴らしい番組を作って下さいまして本当にありがとうございました。私は何か特別優れた専門的な技術を持っているわけでも、並外れたデザイン力があるわけでもなく、医療の世界とCGの世界とのそれぞれを、ちょっとだけ知っている、と言うただそれだけの人です。自分だけで何かを産み出すことなど全く出来ません。それでも私をドリームメーカーとして取り上げて下さり、そして約9ヶ月間に渡って何度も私のところへ足を運んで下さった渡辺プロデューサー、澤地ディレクターを始め、ご協力して下さった全ての皆さまに心より感謝申し上げます。
番組放送中から多くのメッセージを頂き、放送直後は電話がいつまでも鳴り響いておりました。自らがご病気の方、手術を受けられた方、或いはご家族がご病気と闘っていらっしゃる方からもたくさんのお言葉を頂きました。番組放送から3ヶ月以上経った今でも、街中で「夢の扉に出ていた瀬尾さんですか?」と声をかけられます。インターネット上でも信じられないほど多くの方が言及して下さっており、全くご返信出来ておりませんが、一つ一つ読ませて頂いております。「勇気づけられた。」「明日からもっと努力しようと思った。」「再放送を録画して複数回見た」と言ったお言葉もたくさん頂きました。
私はこの3月で、東大病院での2年間の初期研修を修了しました。そして4月からは「”科学する”CGで医療を変える」ことに人生を賭けて取り組むため、病院のお医者さんとしての生活は辞め、自分の会社、サイアメントに全力を注ぐことにしました。と、言いつつも実は4月から大学院の1年生にもなりまして、その意味では新しい二足のわらじです。
さて、ドリームメーカーとして出演したからには、きっと順風満帆な活躍をしているのだろう、と皆さん思っていらっしゃるかもしれません。番組があまりにも素晴らしかったこともあり、尚更そう思われているかもしれません。しかし、目の前の現実は全く逆です。「夢の扉」を開けたくて、自ら会社を興し、今も毎日とても多くの方々に助けられておりますが、どんなに「素晴らしい取り組みですね。頑張って下さい!」と言われても「必ず社会貢献、医療の発展に結びつきますね!」と言われても、案件として成立しなければ売り上げは0、つまり、利益は0、と言うか実際にはマイナスになります。病院との二足のわらじのときとの決定的な違いはここにあります。そして、悲しいことにこの問題を解決しない限り前進することは出来ない、と言うのが現実なのです。
ここで一つ大きな葛藤に直面します。「医療を変える」「患者さんを安心させる」「病気の子どもたちに勇気を与える」サイエンスCGを制作するには、一流のデザイナー、一流のプログラマー、一流の作曲家、全て一流でなければ意味がありません。番組で取り上げて頂いた気管支CGも、一流ばかりが集まって下さったことで初めて、今の状態まで作ることが出来ました。世界で最も正確且つ美しい気管支CGであると自負しております。ただ、当然ですが一流を集めるためには思った以上にお金もかかりますし、妥協しないで作るためには時間もかかります。多くの方々に感動を与えることとは裏腹に、実際に制作に携わる方々が大赤字で涙を飲むようでは、それは自己犠牲に支えられた社会貢献であり、本当の意味での社会貢献ではありません。しかしながら、一流の方々を集められるような資金がどこからか降ってくるようなことは滅多にあることではなく、いずれ必ず機会は訪れるだろうとは信じつつも、その「いずれ」が来るまで持ちこたえられるかどうかが死活問題です。では、苦しい時期を乗り越えるために、夢を終わらせないために、二流のものを作ってその場をしのいだり、或いはサイエンスと全く関係ない領域のCGを安さで勝負して乗り切るかと言うと、それも違うかなぁと思うのです。単にプライドが高いだけの、生意気な意見なのかもしれません。そんなことを毎日悩みながら何とかギリギリの生活しています。
国は、子どもたちの理科離れを少しでも防ぐために、各学校が理科系の教材を購入出来る予算を付けたり、或いはiPS細胞に代表されるような日本が世界に誇る研究内容に研究費を付けるなど、とても素晴らしい試みをされていますが、サイエンスCGクリエーターの立場からすると、その予算のうちの1%でも、「正しく、楽しい」サイエンスコンテンツの制作に当てて頂ければ、ノーベル賞を受賞された研究の内容や、誰もが知っておくべき病気の正しい理解に貢献出来る「一流の」コンテンツを制作することが出来、しかもそれらを日本から世界に向けて発信出来るのではないか、と常々考えています。
番組放送後、複数の学校の先生方から「瀬尾さんの志、想いをぜひ生徒に向けて直接語りかけて欲しい。」というご連絡を頂いております。最近の私はいつも「一見華やかに見えるかもしれませんが、実際には苦難の連続であり、辛い毎日が待っています。もし私がお話しするとなると、純粋な子どもたちの夢を壊すことになるかもしれませんが、辛い現実の部分もきちんと伝える責任があると思うのです。
とお返事しているのですが、不思議なことに先生方からは今まで以上に歓迎されます。夢を追いかけることは、響きはとても格好良いですが、実際には想像以上の困難が待ち構えている、それでも夢を追いかける覚悟はありますか、と、子どもたちにもぜひ知っておいて欲しいのです。
私はたった2年間とは言え、東大病院でたくさんの患者さんや、患者さんのご家族に接してきました。ベテランのお医者さんから見れば私なんてまだまだお医者さんの基礎も知らない状態で病院から退いた身分ですが、でもやっぱりこれでも一応はお医者さんです。ただサイエンスCG映像やポスターなどを作るのではなく、患者さんご本人やご家族に安心感を与えられるようなコンテンツ、そして、実は番組放送以来開発が止まってしまっているのですが、気管支鏡訓練システムのような、医療の質そのものを向上させるもの、或いはCGの技術を使って診断や治療方針そのものを根本的に変えてしまうようなものまで作れればと願っています。その一方で、上述のように、現実のこの1ヶ月、2ヶ月をどう生きるか、と言うことも考えなければいけません。おそらく150%程度の努力では到底解決出来ず、1500%で突っ走ってようやく何とかなるか、それくらい困難な道のりだと思います。それでも私は突っ走ってみようと思います。何が自分をそうさせるのか、もはや自分でもわかりませんが、とにかく「”科学する”CG」を突き詰めてみたいのです。
そびえ立つ沢山の苦難をどう乗り越えるか、乗り越えてきたか、或いは気持ちの持ち方、考え方でも構いません。もし何か、皆さまの中でアドバイスを頂けるようなことがございましたら、ぜひ教えて頂ければ幸いです。
5年後、10年後に「昔はこんなんことで悩んでいたのか!」と笑って振り返る、そんな未来が待っていると良いですね。
このような文章を書く機会を与えて下さった黒岩チーフプロデューサーに、そしてこんなにも長い文章を最後までお読み下さった皆さまに心より感謝申し上げます。本当にありがとうございました!
記:瀬尾 拡史

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