TBSテレビ・毎日新聞社2015年・戦後70年共同プロジェクト「千の証言」



[ 千の証言・投稿 ]
東京都練馬区・石川康子さん(74)


「お母ちゃん、早く帰ってこないかな」。昭和20(1945)年夏ごろの夜8時、買い出しに行った母の帰りを豊島区椎名町(当時)の自宅で待っていた。朝早く出たのに、未だ帰らない。私は5才。

朝食は“とうもろこし”のすいとん。実がとうもろこしの粉だから固まらなくてどろどろの汁。昼は家の隅で取れた未だ青い小さな南瓜。夜になると、お腹がすいて力もなく、ただ母の帰りを待った。

「ただいま」。ようやく、リュックを背負った母が帰ってきた。疲れた体で、すぐ夕飯の用意をしてくれた。しばらくすると、卓袱(ちゃぶ)台の上に湯気の出た“さといも”と“塩”があった。誰も何も言わなかった。私はその一つをとった。塩をつけて、食べようとしたら、フイに涙があふれてきた。私は後ろを向いて、何も言わずに泣きながら“さといも”を一つ食べた。

それが、その日の夜のごはんだった。


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