===森本毅郎・スタンバイ！===

＋	ハワイにおいでよ！
＋	映画情報
＋	ものだめし
＋	ブックナビ
＋	世論調査
	ご意見はこちら
----------------
＋	デジタル教室

番組への御意見・
ご感想お待ちしております。

　メールアドレス
stand-by@tbs.co.jp

番組放送中（6：30～8：30）は電話・FAXでも受け付けております。
電話　03-3584-0954
FAX　 03-5562-9540

2006年04月17日

　注目の街シリーズその１～立川

リポートは泉貴子が担当しました。

スペシャルウィーク2週目の今週は、スタンバイ！が注目する5つの街を紹介します。初日の今日は、郊外にありながら公示地価も高い上昇率を示し、いま首都圏でもっとも勢いのある街のひとつ、東京都の多摩地区にある立川に注目してみました。

しばらく見ないうちにきれいになって．．．

立川は新宿からJR中央線で西に向かうことおよそ40分、多摩地域の中核都市のひとつです皆さんは立川というとどんなイメージをお持ちでしょうか？
年輩の方なら砂川闘争の舞台にもなったかつての「基地の街」という印象があるかも知れませんし、競輪場と場外馬券場があるため、「ギャンブルの街」という雰囲気もあります。最近ではゲッツ板谷さんが『ワルボロ』などで描く「ヤンキーの街」なんてイメージもあるかもしれませんね(笑)。
ちなみにリポーターの泉は6～7年前に立川よりさらに先の青梅線の小作に住んでいたことがありますが、当時の立川もいまいちパッとせず、都心に出て行くために通るだけの存在だったようです（2年間小作に住んでいて、立川に降りたのは2回くらいだけだったとのこと）。

ところがここ数年、立川は見違えるような変化を遂げています。
2000年に多摩地区を南北に結ぶモノレールが開通し、新しい人の流れが生まれるとともに（何しろ東京、特に山手線の外側は南北の交通が弱いですからね）、駅前の再開発が進み、百貨店やオフィスビルが整備されて、特に北口は見違えるほどきれいに。
駅からデパートや映画館などを2階の高さで結ぶ歩行者用デッキ、宙を飛ぶように走るモノレールが未来的な雰囲気を醸しています。
久しぶりに訪れた泉は、あまりの変貌振りにしばし呆然としていました。駅の乗降客も急増し、すでに吉祥寺を抜いて新宿以西では最大となっていて、実際、立川駅に来てみると人の多さにびっくりです。

なぜ立川に人が集まっているのか？
立川商工会議所専務理事の小松さんと泉

今回の取材でまず伺ったのは、立川商工会議所。専務理事の小松清廣さんに立川の歴史とポテンシャルをレクチャーしていただきました。
小松さんのお話によると、地元だけでなく、遠く山梨県の甲府あたりからも、また立川より都心寄りの国分寺や三鷹からもお客さんが来ているそうです。なぜこれほどお客さんが集まるようになったのか、実際に街に出て立川の街についてご意見を聞いてみると次のような答えが返ってきました。

「以前に比べるとずいぶんおしゃれになったと思いますよ。洋服買うにしても伊勢丹、高島屋、グランディオ、ルミネ．．．と見ていけば結構揃いますしね、まあ立川でいいかなって」
「都心に比べると人が少なくて買い物がしやすいですね。ゴミゴミした新宿などよりも空気がきれいで気持ちが良いですよ」
「新しい建物が多く、バリアフリー化が進んでいるのでお年寄りも動きやすいですね」
「田舎の都会って感じ。都心に比べればダサイけど普段着で気楽に来れるのがいいんじゃないすか」
「映画館が良いですね。音もいいし気に入ってます」
「今日は新宿にしようか、吉祥寺にしようかと迷ったんですが、結局一番近い立川にしました。まあ立川で十分なんですよね。デパートが全部の駅のすぐ近くに集約されているから見て回るのが楽なのもいいし。もうわざわざ新宿とかまで行く価値があんまりないというか、昔は都心に行くこと自体にステータスを感じてましたけど、今はそうでもないですし」

と、こんな感じでけっこう立川で満足している方が多いようです。
買い物するにしても、さすがに都心に同等の品揃えというわけにはいきませんが、普段着買うなら立川で十分という感じでしょうか。
確かに、例えばメンズでもビームス、ユナイテッドアローズ、シップス、トゥモローランドといった定番セレクトショップが揃っていますから、それなりにお洒落が出来そうです。また都心で売り切れてしまった洋服が立川で入手できた、なんて話も。

立川が誇る最高の映画館～シネマシティ
シネマシティ入口

と、ここまでは「都心ほどじゃないけど、立川でも十分でしょ」といったやや消極的な要素が多いんですが（それでも以前の立川からすれば一大変化ではありますが）、より積極的に「立川のほうが都心よりいいじゃん」なものはないんでしょうか？
．．．．．．それがあるんですよ！
それは立川の北口にあるシネマシティ／CINEMA TWOというシネコンです。
何が素晴らしいって、まず音が良い！世界最高水準とも言われる音響は、スクリーンごとに設定が異なり、それぞれ個性的かつ臨場感があって、映画の魅力が５割ぐらいアップするような気さえします。
シネマシティのロビー

さらに、設計や内装がやたらと洒落ています。
総合プロデュースや照明設計を担当した海藤春樹さんや、ロビーの壁にペイントを施した日比野克彦さんなど、一流のクリエイター／アーティストが参加して作り上げた空間は、映画館の概念を超えています。特に2年前に新しく出来た別館の「CINEMA TWO」は素晴らしい。映画館そのものがひとつのアート作品になっている、そんな印象を受ける映画館です。
このシネマシティ＆CINEMA TWOの存在が立川のイメージアップにかなり貢献しているのは間違いないと思います（僕自身もこの映画館に来るために立川に通うようになりました）。

さて、どんな思いでこの素晴らしい映画館を作ったのか、シネマシティの川手弘太郎社長に伺いました（「写真は勘弁してよ」とのことでしたので写真はありませんが、お洒落でカッコいい社長さんです）。

シアター内のキャンドルライトのような照明

「最初は特別なものを作るつもりはなかったんだけど、ここにしかないものになったよね。世界に一つしかないものって価値があるじゃん。本当に細部までこだわって、電球一つとっても凄いもの使ってるんだよ。立川みたいな田舎だと映画館に短パンにサンダルで来ちゃったり、とにかくおしゃれしてくるような場所じゃないんだよね。でもさ、映画館って昔は町で一番大きな建物だったし、一種の社交場だったはずなんだよ。だから、映画館の復権ってわけじゃないけど、まあちょっとお洒落して行きたいような場所になればいいなって」

確かにこの空間は少しお洒落して行きたいな、という気にさせるものがあります。
ロビーに置いてあるテーブルや壁にかかっている絵、ひとつひとつがユニークで洒落ているし、カフェのメニューは本格的、スタッフのユニフォームはビームスのトップデザイナーがデザインしたもの、さらにシアター内のキャンドルライトのような照明も素敵です（教会のミサのような雰囲気で、これから何か特別なこと＝映画がはじまるぞ～という気持ちを盛り上げてくれます。
川手社長たちがめざす非日常を経験する場所としての映画館というコンセプトが照明にも表れているんでしょうね）。ネットで事前に座席を予約できるシステムなども便利だし、ここは日本一の映画館と言っても過言ではないと思います（あくまでもディレクターの主観ですが）。

シネマシティだけじゃない！～元気な地元企業
オリオン書房

シネコンというと外資系などのチェーンが多いですが、
シネマシティは川手社長の代から立川で映画館を営む地元の独立系シネコン。
上映作品も独自のラインナップで、巨大チェーンとは一線を画した個性的な活動をしています。
シネマシティの他にも、例えば本好きの間では品揃えの良さで知られる立川最大の書店『オリオン書房』（立川駅周辺に6店舗。特に北口のノルテ店は広大なフロアに豊富かつセンスの良い品揃え。

まさに立川文化の拠点と言えましょう）も立川の地元企業ですし、百貨店でも、地元資本の個性的なデパート、第一デパートやフロム中武が頑張っています（ともに一般のデパートにはありえないタイプのテナントも入ってます。昆虫や爬虫類専門のペットショップや古銭屋さんなど）。
郊外というと全国どこでも同じような店が並んでいるイメージもありますが、ここ立川は地元企業の頑張りで個性が保たれているように思えます。

「立川ドリーム」へ～門戸は広く開かれている！
逆に、外から立川にチャンスを求めて来る人に対してはどうなんでしょうか？
保守的で外から進出してくるものに対して閉鎖的な町は、新しいものを受け入れることを拒んでいるうちに地盤沈下していく．．．というパターンも少なくありませんが、その点、立川は外からくるものに対しても非常にオープンなようです。
立川エリアで51年、地元最大手の「なかやま不動産」の中山賢二専務はこんな気持ちで仕事をしているそうです。

なかやま不動産」の中山賢二専務と泉

「そりゃあ自分の街ですから、自分の住んでる街は楽しくしたいですよね。
だからうちは物件の情報を都心や横浜の方にも積極的に発信しているんですよ。
とにかくウェルカムで、僕らの街を見てください、こんなお客さんが来ていて、こんなチャンスがありますよって。外から来た人が新しいものをもたらして街を変えていくわけですから。積極的に受け入れていかないと」

実際、都心などから出店希望が殺到している状況で、最近も小さな空き物件に1週間で8社が競合、早々に募集を締め切ったなんてこともあるそうです。多くの出店希望が競合するなかで、中山さんは「立川をより面白くしてくれるか」ということも重視して、オーナーさんに説明することも多いとのこと。同じような大手チェーンの居酒屋やドラッグストアばかりになっては面白くないので、やる気があってコンセプトがしっかりしていれば、若い起業家たちのチャレンジも積極的に応援していくということでした。正直言って吉祥寺に比べるとデパートは充実していても魅力的な個店が少ないのが立川の弱点だと思います。しかし、中山さんのような不動産屋さんが個性的で面白いお店をバックアップしてくれるなら、今後、立川がより魅力的な街に進化していく可能性はかなりあると期待したくなります。

基地の「置き土産」～アメリカが育んだ立川のＤＮＡ
「スタンドバー潮」のマスター

ではなぜ、立川の地にこのようなオープンマインドな気質が育ったのでしょうか？
その点について、終戦直後に立川の進駐軍の将校クラブで働き、その後も50年以上にわたって79歳になった現在でも立川でバーテンダーを続けている「スタンドバー　潮」のマスター、通称ジミーさんこと白根宗一さん(※1）は次のように指摘しています。

「立川には終戦直後から進駐軍の基地が置かれたわけだけど、あのアメリカ人の大らかさ、さすがアメリカンドリームの国だよね。
僕だって最初はアメリカ人のところで働くなんて心理的に抵抗があったんだけど、実際に会ってるうちに心の壁が崩れていったんだよ。
彼らは日本人が害を加えないとわかると、昨日までの敵愾心なんてどこへやら。気さくに『ハーイ！』って声かけてきてさ。
それを置き土産にしたのがこの立川なんだよ。だから田舎のわりにオープンなんだね。対照的に保守的なのは八王子ですよ。
デパートは伊勢丹も大丸も西武も出て行って、とうとう丸井まで出て行っちゃったろ？そごうが残っているだけでさ。その点、立川は伊勢丹が来ようが高島屋が来ようが、ビックカメラが来ようが、来るもの拒まず『いらっしゃい、いらっしゃい』で。来れば同じ街で商売をする仲間ってすぐ受け入れてね。よそ者扱いするってことがないんですよ。だから今、立川が多摩の中心として発展してるんだと思うね」

生粋の立川育ちのジミーさん、ライバルの八王子には手厳しいですね（笑)。もちろん基地が存在したことの負の側面も面もあったわけですが、元気な時代のアメリカの良い部分に直に触れることが出来たのは立川にとって財産になっている、というのが白根さんの見方です。
そういえば、前述のシネマシティも社員全員にアメリカ研修をさせるそうですし、どこかアメリカ的な雰囲気が立川発展の原動力になっているのかもしれません。(※2）。

※1｢スタンドバー潮」立川市曙町2-13-10　カヤトビルB1
　　ジミーさんの話術は最高です。バーテンダーになったきっかけの話は傑作！

※2　立川で自営業を営むリスナーの方から、「再開発は進んでいますが、外食産業の資本の進出が進み、駅周辺からは価格競争で太刀打ちできない個人経営店が激減しています。問題の表と裏を考えて言及して欲しいのです」とのメールを頂戴しました。
7～8分間の短いコーナーですので、非常に一面的な内容になってしまったのはご指摘のとおりだと思います。立川はアメリカ的社会の影の部分もまた受け継いでいるということかもしれません。

三多摩出身ディレクター　長谷川裕
（長文にお付き合いいただきありがとうございます。）