法案の現状
  自民党の参院グループが中心となり、議員立法による成立をめざしている法案。自民党「青少年を取り巻く有害な環境対策の推進に関する小委員会」(田中直紀委員長)は、青少年にとって何が有害かを総理大臣が判断し、マスメディアを含む事業者に対して指導・勧告などを行う内容の「青少年社会環境対策基本法案」を作成し、2001年の通常国会への提出をめざしたが、マスメディア界や有識者の強い反対などもあり、党内合意が得られず提出に至らなかった。
  自民党同小委員会は2001年11月以降、旧法案を一部修正し、「青少年有害社会環境対策基本法案」として2002年通常国会への提出をめざし、党内調整を進めている。現段階でも成案には至っていないが、予断を許さない状況である。

法案の概要
  「青少年有害社会環境対策基本法案」は18歳未満の青少年の保護、健全育成を目的とし、事業者が提供する商品・サービスすべてを規制対象としている。放送番組、ビデオ、映画、新聞・雑誌・書籍、ゲームソフト、インターネット、広告など、あらゆるメディア、表現活動が対象に含まれる。
  法案では、事業者・事業者団体は、提供する商品・サービスが青少年の健全育成を阻害するおそれがある場合、青少年の心身の発達の程度に応じた供給方法などを定めた協定を締結・設定するよう努め、それを主務大臣などに届け出るものと規定している。
  また、事業者は、「青少年有害社会環境対策協会」を業界ごとに設立し、同協会が、事業者に対する苦情処理・助言・指導・勧告を行う。その一方で、協会は、その活動に対して主務大臣・都道府県知事から助言・指導・勧告を受け、協会が勧告に従わない場合、主務大臣などがその旨公表できる。さらに、主務大臣などによる勧告の実施などについて内閣総理大臣が報告の徴収・調整を行うこととしている。
  これらに加え、内閣総理大臣が全国で1つの公益法人を「青少年有害社会環境対策センター」に指定し、同センターは「青少年有害社会環境対策協会」との連携活動などを行う。

法案の問題点
  法案は、青少年の健全育成という名目のもと、憲法で保障されている「表現の自由」を行政の監視下に置き、国民一人ひとりの文化的な価値観に国家が踏み込むものであり、具体的には次の問題点が挙げられる。  
     
  • 「青少年有害社会環境」の定義に「性・暴力に関する価値観の形成に悪影響を及ぼす」「性的・暴力的逸脱行動、残虐な行為を誘発・助長する」などの表現を使用しているが、定義があまりに幅広くかつ曖昧であり、法律が恣意的に運用される危険性がある。さらに「価値観の形成」という思想領域まで規制しようとしている。  
  • 事業者・事業者団体に、「青少年有害社会環境の適正化のための協定または規約」を締結・設定し主務大臣などに届け出ることを求めているが、言論・表現にかかわる領域に行政が直接介入することは、自由主義社会の根本理念と対立するものである。  
  • 「青少年有害社会環境対策協会」の規定は、各業界の自主性を尊重する形を一見とっているかのようにみえるが、最終的には行政が「有害」かどうかを判断し、対策協会に助言・指導・勧告・公表を行う以上、行政による事業者への介入にほかならない。とりわけ言論・表現に関わる分野において求められる公権力から独立した自主的なチェック・システムにはなっていない。  
  • とりわけ放送分野では、(憲法に加えて)放送法によって、自主自律を保障され、この原則のもとで、番組審議会をはじめとする自主規制の仕組みが設けられている。法案は、こうした自主規制の仕組みを壊してしまう。

民放連の対応
  民放連は現・修正案についても「マスメディアに対する行政の介入となる点は、旧法案と本質的に同じ問題を持つ」として、法案の国会提出反対活動を展開。2001年12月、自民党に対し公開質問状を提出したほか、2002年2月に「表現の自由を行政の監視下に置き、国民一人ひとりの文化的な価値観に国家が踏み込むものであり、断じて認めることのできない内容である」とする意見を発表し、法案の国会提出撤回を求めた。このほか民放連、NHK、日本新聞協会などメディア9団体共催による公開シンポジウムを2月22日に開催し、法案の問題点を訴えた。