2008/12/16
なぞのオニフスベ
古い菌類の標本の中には、残念ながらデータが逸失してしまったものがあります。そんな標本の中に、標本室の奥深くにしまわれていた直径50センチを有に超えるであろう日本最大級のボール型きのこ、「オニフスベ」があります。
ところが、ひょんなことからこの標本の素性は知られるところとなりました。文学者志賀直哉の研究者から、志賀直哉と交流のあった小熊太郎吉というナチュラリストの足跡をたどって、問い合わせがあったのです。
小熊太郎吉氏が昔採集された、大きなオニフスベが科博にあるはずだと。その大きさといえば、発見した町の若者たちが気味悪がり、連絡を受けた小熊氏が到着する前には傘でつっついたりしていたほどだったとのこと。
そんな大きなオニフスベといえば、くだんの標本に違いありません。
さっそく標本室から問題の標本を取り出してみますと、所々に棒で刺したような見事な穴。きっと傘でついた跡に違いありません。かくして60年の時を経て、なぞのオニフスベの素性は明らかになったのでした。
小熊さんのお孫さんを含む関係者がお見えになり、その標本とご対面。文学と標本。一見全く関係がなさそうなのに、思わぬところでつながっているものですねえ。
この標本は、第六章「森を育む菌類」の中で展示してあります。
(この文章は、科博メルマガの再録です)