驚きましたよ。なぜこの時期にこんなねえ、亡くなって47年もたって(テープが)出てきたんだろうって。それがね、丁度今年ね、三月から四月にかけて三島由紀夫さんに薦められて演じた「卒塔婆小町」と「葵上」というお芝居を再演しようと丁度稽古に入ったばかりなんですよ。不思議でしょ。ちょうど、その時期だったんです。
このお芝居は、三島さんが生きていらっしゃるときに「近代能楽集」(三島由紀夫作)からやってくれっていわれて、これとこれって私が決めて、それを今度6年ぶりに上演するんですよね。
それが直前になって出てくるっていう、まあ、あの方は、よく広告の何たるかをご存知でいらっしゃると思って不思議でしょうがないんですけどね。
で、このテープをうかがっていますとね、なんと無防備なんだろうって感じます。珍しいですよね。本当に素で話してらっしゃる。
あの方は、公的なおしゃべりの仕方とプライベートなお話とを分けてらしたんですよ。公的なときには笑い方でもね、「ワハハハハ」と豪傑笑いで作り笑いでいらっしゃる。
で、このテープをうかがっているとまったく素のままでいらっしゃるし、こんなに無防備で手の内をさらけ出していいのかしらと思うぐらいに正直におこたえになっている。それはやはりインタビュアーの方が外国人で、日本のことがお分かりで日本語も達者でいらっしゃって安心していらっしゃったんじゃないんですかね。
これが日本人の方だったらこんなに無防備にはならないですからね。
憲法改正の話とかもね、非常に心情的なところから話されていて、決して右翼の思想で政治的な意味で改正といってらっしゃるんじゃないって言うことがこれではっきりするんじゃないでしょうか。
小説の「豊饒の海」の4部作のこともおっしゃってますね。「春の雪」のお話のように老後はどうするかっていうこともね「意地悪爺さんになっていて悪口しか言わないふうになっている」なんておっしゃってユーモアたっぷりで。
あの方はね、戦前の「日本少年」とか「少年倶楽部」とか日本の青年かくあるべしという見本のような雑誌が出ていたんですよ。
三島さんはその「日本少年」のモデルのような方で本当に人間の一番純なところを持ち続けたままなくなった方なんですよね。本当にこれを聞いていますとね、つくづく思い出されましてねとっても懐かしゅうございましたね。