手作りフリップ（2021年6月27日放送）
「ベネチアを“危機遺産”に」
「世界遺産」という言葉はなじみがあると思いますが、この「危機遺産」とはどういうものなのでしょうか。武力紛争、自然災害、観光開発、などにより、「顕著な普遍的価値を損なうような重大な危機にさらされている世界遺産」のことです。
今回1987年に世界文化遺産に登録されたイタリアの「ベネチアとその潟」が、危機遺産への登録を勧告されました。
世界文化遺産の登録基準は6つあり、これは分かりやすくしたものですが、「人間の傑作」「時代性を示す建築物など」「特徴的な居住・土地利用」などの基準のうち、一つでも認められれば登録されます。
ベネチアはこの6つ全て満たす極めて珍しい一級の世界遺産です。
危機遺産への登録が勧告された理由に観光の過熱化があります。
警笛を鳴らしながら、迫り来るクルーズ船。そのまま観光船に衝突します。ベネチアでは、近年、大型クルーズ船の往来が増え、船による事故や環境への悪影響が指摘されていました。
調査を行ってきたユネスコの諮問機関は「観光客向けに住宅を宿泊施設に改築することや、レジャー施設などの開発計画」についても問題視しています。
現在、危機遺産に登録されているものは、「エルサレム旧市街とその城壁群」、シリアの「パルミラの遺跡」インドネシアの「スマトラの熱帯雨林遺産」など53あります。
世界遺産に登録されると、その人類共有の財産を未来へ継承する義務が生まれます。「危機遺産」への登録はその義務をちゃんと果たしなさいと当該国に対応を迫ったり、自然災害や環境変化など外的な要因による場合は、国際的な協力を呼びかけたりするものです。
危機遺産に登録され、明暗が分かれた場所がドイツにあります。こちら「ケルン大聖堂」は都市開発により景観が損なわれ、危機遺産に登録されたものの、その後再開発計画が縮小されたことを受け、解除されました。
一方で同じドイツのドレスデンにある「エルベ渓谷」は、川に架ける橋の建設計画が問題視されましたが、建設を続けたため、世界遺産から抹消されてしまいました。
ベネチアが責任を果たし危機遺産からの脱却となるか、それとも世界遺産から抹消されるのか、今後の取り組みによって明暗が分かれる岐路に立っています。