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撮影レポート 早乙女太一 篇

2017.12.08

劇団☆新感線の『髑髏城の七人』には2011年版と、この夏上演していたIHIステージアラウンド東京版の『髑髏城の七人』Season鳥に、どちらも<無界屋蘭兵衛>役で出演していた早乙女太一さん。その早乙女さんが、この秋に開幕するシリーズ第4弾“Season月”にも再び降臨します! “上弦の月”チームで、今度はなんと初役の<天魔王>としての登場、となれば“史上最強”の殺陣がきっとまた目撃できるはず! 期待は高まるばかりです。

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今回の天魔王が身につける“天魔の鎧”はゴールドを基調とした洋風の甲冑に、肩の部分には不思議な素材感の飾りがついています。ちょっと触ってみるとこれが思いのほか、ソフトな感触。まるで飴細工のような、でも虫の翅(はね)のような……と思って見ていると「なんだか舐めてみたくなる色だね」と早乙女さん。右腕には結構な長さのある骨も垂れ下がっていて、なんだか不気味、かつゴージャス。ヘアスタイルはドレッド風の黒髪、マントは重厚感のある透ける素材でできていて、髑髏が刺繍されている豪華なもの。またここでヴィジュアル的に、天魔王のイメージが更新されそうです。

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衣裳の生澤美子さんに聞いてみると今回の天魔王の衣裳は「骨を美しいと思ってる人だとイメージしながら、それぞれの部位をとにかく綺麗に見えるようデザインしました」とのこと。実際に織田信長は洋風の鎧を持っていたという説もあるそうで、それで日本風の兜と中世ヨーロッパの鎧とをミックスさせてみたんだそう。そしてこの甲冑、見た目の通りで装着するには時間も人手もかなりかかります。スタッフが7〜8人がかりで、パーツを早乙女さんの身体に装着。そのたびに動かしてみては、身体にストレスがかかっていないかどうかを確かめ、少しずつ着込んでいきます。さすがに甲冑の衣裳は暑いので、スタジオ内の室温をぐんぐん下げるのですがそれでも間に合わず、撮影中はずっと、早乙女さんの周囲ではうちわが大活躍。

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ちなみにメイクの内田百合香さんによると、今回は早乙女さん自ら「怖いメイクに仕上げてほしい」とリクエストしてきたのだとか。それであえて唇には色をつけず、血が通っていない雰囲気にしてみたのだそう。アイメイクには赤を使って和テイストを意識し、ハイライトにはゴールド、額には黒のワンポイント。肉眼で見た時より、照明が当たった時に、より怖さがアップするメイクになっている模様です。

するとここでアートディレクターの河野真一さんが早乙女さんに、控室でメイク中に流していた曲を流せるようにスマホをスタジオの音響システムにつなげることを提案。早速、早乙女さんが自らのスマホを衣裳のグローブのまま試しに操作してみると、意外にもスムーズに反応。「えっ、この装備ってスマホ対応だったんだ!」と実際にこの甲冑を製作したスタッフ自身も驚く様子に、スタジオは一瞬で笑いに包まれリラックスモードに。

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BGMがポップス系から、ダークなイメージのハードロックに変わると一気に雰囲気が変わり、再び緊張感も高まってきました。準備が整ったところで、カメラマンの野波浩さんが「OK、いきます!」と声をかけると、いよいよ撮影開始です。照明は鎧に美しく光が反射するようにその都度ミリ単位で調整し、ブロワーで微風を入れて髪を揺らしたりしながらの撮影となり、絶妙のタイミングで奇跡の瞬間が切り取られていきます。早乙女さんも、薄く冷笑したり、鋭い目線をレンズに送ったり、唇の端だけでニヤリとしたり、右肩についている骨を手に巻き付けてみたりと、表情、ポーズを次々に変化させていきます。

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セットチェンジで休憩をとろうとしても、甲冑を着込んだままではあまり動けず「これでは介助が必要だ……」と苦笑する早乙女さん。そんな中でも「みんなは、寒いよね」と、自分をうちわであおいでくれている周囲のスタッフにも気配りを忘れません。結局わずかなブレイクのみで、「はぁ〜!」と深く呼吸を入れ、軽く伸びをすると、撮影再開です。

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正面からサーキュレーターで風を入れると、ふわーっとマントが広がります。片足を台の上に載せた姿勢になると、また関節ごとに甲冑の曲がり具合をチェックし、痛くならないように調整。そのまま前傾姿勢をとったりもするので、身体には相当負荷がかかりそうです。肩から下がった長い骨を指にからませて腕を上げると「太一、その腕、どこまで上がる?」と河野さんに聞かれ、その声に反応してすぐさま、さらにグッと上へ腕を伸ばす早乙女さん。骨の先のほうはクネクネと曲がるので、時には蛇の鎌首のようにも見えます。こうして厳寒のスタジオ内にいるにもかかわらず、凝りまくった撮影はアツく、まだまだ続くのでした……。

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撮影終了後、早乙女さんに“Season月”のことはもちろん、“Season鳥”のことなども含めて話を伺いました。

——まずは本日の撮影の感想から伺えますか。早乙女さんならもう慣れっこだと思いますが、また今日の撮影も特別長かったですね。
やっぱり、天魔王をやるのは大変なんですねえ。

——天魔王役に挑戦するのは、今回が初めてなんですものね。
はい。まず、自分がどうというよりも、衣裳を着るところから大変で、ずっとバタバタでした。今日なんて、スタッフさん8人がかりで着させていただきましたからね。

——ひとつひとつ、パーツをつけていくだけで時間がかかりますし。身体への負担は大丈夫でしたか。
まるで全身コルセット状態でした(笑)。でも、まだ役に入れたというわけではないものの、この時期に撮影ができて良かった気がします。『髑髏城の七人』に出していただくのはこれで3回目になるんですが、天魔王は初役なので、どこか自分の中にないものを出してみたいんですよね。蘭兵衛の時はわりとすぐにスッと入れて、キャラ的にも馴染んだ役でしたが、今回は本当に初めての感覚で。今までの新感線の舞台ではやったことのない新しいタイプの役をやらせてもらえそうなので、とてもうれしいです。だから今日、とりあえず形だけでもここで天魔王になれたのは良かったのかもしれないなと思いました。

——天魔王としての第一歩目、みたいな。
ええ、そうですね。

——実際に、“Season鳥”でIHIステージアラウンド東京版の『髑髏城〜』を経験してみて、手応えはいかがでしたか。
途中からはだいぶ落ち着いてきました。僕もそうだし、みんなも大きなケガをすることもなく、誰も欠けることなくできて。舞台裏はもちろん予想以上に大変でしたけど、やっぱりあのメンバーでやれていたことが日々、本当に楽しかったです。

——“Season鳥”で蘭兵衛役を再び演じてみて、新たな発見があったりしましたか。
なにしろ2011年にやった時は僕自身が人に対してシャッターを下ろしていて、ほとんど誰とも口をきいていなかったので。(森山)未來さんとも全然しゃべっていなかったくらい。

——本番中は、あんなにからんでいたのに。
でも、それがそのまま役になっていたというか。激情型で、常にヒリヒリしているような、細い線だけで繋がっていて、いつでも切れてしまいそうな感じがあった。それが“Season鳥”では僕も新感線に参加するのが4回目でゆとりができ、人とも普通に話せるようになって。そういう自分自身の変化も重ねられたりしたので、蘭兵衛役自体も前よりは振り幅を出して、もっといろいろなことをやってみたいなと思いながら演じていました。

——“Season鳥”を観に来たお客様の反応で心に残っていることは。
知り合いはだいたいみんな面白いと言ってくれます。あまりあてにはしてないですけど(笑)、みんなとても喜んでくれていたように思います。それは僕がどうこうではなくて、ものすごく新感線らしいものを観れたから、じゃないかな。だって、いろいろ歌があって踊りがあって楽しいし、新感線の要素がふんだんに混ぜられていたので。いのうえ歌舞伎、音モノ、ネタものとそれぞれジャンルに分かれていたのがまとまって観られた感覚だったんじゃないでしょうか。

——その“Season鳥”での経験を踏まえて、“Season月”に臨まれるわけですが。また今度はダブルチームという、新感線としても初めての試みに挑むことになります。
いや、もう、それについては覚悟するしかないですよね。短い稽古期間の中で2チーム分作り上げなければならないのに、新感線初参加の人たちばかりですから。でもこれまで僕もさんざんお世話になってきた側なので、今回は自分の役をただ演じるだけではなくて、チームの一員として何かやっていければいいなと思っています。

——演出のいのうえひでのりさんも、そこにすごく期待している様子でした。両方のチームを早乙女さんが引っ張ってくれるんじゃないか、と。
そこまで、できればいいんですけどね。一応この間、いのうえさんには僕のほうからも「劇団員になったつもりでがんばってやります!」って言わせていただきました(笑)。

——現時点で、天魔王をどうやりたいと思われていますか。
あまり言葉では言いたくないんですよね。まだ、今の時点ではそれができるのかどうかもわからないですし。とりあえず稽古場で、どんどん自分からも意見を出していって、それをまとめてもらえたらいいなと思っているところです。

——今回、一番心配なのはどういうことですか。
これは僕も気をつけなければいけないことなんですが、本当にキャストがみんな若いので。ついがむしゃらにやり過ぎてしまったり、勢いで押すことが大事な時もあるんだけど、そういう時こそ勢いがつき過ぎてしまいそうで。体力も元気も余るほどあるだろうけど、なんとか心のバランスと身体のバランスとをうまくとっていかなければいけない。とりあえず、全員で最後まで生き抜くぞ!と(笑)、思っているところなんですけどね。

——この新感線の座組でみんなを引っ張る立場になるということについては。
いや、それは特に気にしてはいないです。もう、自分で言うのもあれですけど、劇団員のみなさんにはさんざんお世話になってきて、僕自身のいいところも悪いところもすべて知っていただいているので、もう改めて探ることもないですしね。自分で好きなようにやっていけば、きっとダメなところはちゃんとダメって言ってもらえることがわかっていますから安心です。

——では、お客様へ向けてお誘いメッセージをいただけますか。
このプロジェクト自体がものすごいチャレンジなんですけど、その中でも最も“Season月”が特別大きなチャレンジになります。今まで描かれなかった部分の物語も入ってきますし、とにかく一番若いですし。“Season鳥”のほうはホント、おじさんたちばっかりでしたからね(笑)。

——年齢的には、両極端のチームに参加することになりましたね(笑)。
ハハハ、本当ですね。そういう意味でも今回は、おじさんたちにはまず出せないエネルギーみたいなものをぜひ感じてもらえたらと思います。