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撮影レポート 川原正嗣 篇

2018.04.08

東京・豊洲のIHIステージアラウンド東京で1年3か月のロングラン公演を続けている劇団☆新感線『髑髏城の七人』。その“花・鳥・風・月”各シーズンすべてのアクション監督を務めてきたのが、川原正嗣さんです。今シリーズのラストを飾る『修羅天魔〜髑髏城の七人 Season極』では、その川原さんが満を持して出演者として登場! 川原さんが演じる<清十郎>は、過去の『髑髏城〜』には存在しない新しいキャラクターとなります。

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“Season花・鳥・風・月”の際には、ヴィジュアル撮影時にもアクションを指導する裏方としてたびたび現場に参加していた川原さんが、ビシッと藍色の着物に身を包み、カツラをつけてスタジオに現れると、「おぉ〜!」と、大きなどよめきが。スタッフ一同の「待ってました!」という想いと共に、赤バックのバストショットから本日の撮影がスタート! 「かっこいいやん!」「やっぱり似合う〜、素敵です!」「安定のスタイルですねー」という声が飛び交うと、川原さん本人も「まあ、私としてはありがちな格好ですよねえ」と笑っています。「太秦感、ハンパないね」「『必殺』シリーズのどこかに出ていそうだ……」との意見には、周りの人々も頷くばかり。

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<清十郎>のオリジナルの武器になるのか、それとも単なる撮影用小道具として持っているだけなのかはまだ謎ですが、川原さんの手元には赤い折り鶴が。ツヤありと、ツヤなしの紙で作られたものが両方用意されたのですが、アートディレクターの河野真一さんがテスト撮影したものをモニターでチェックし、ここはツヤなしでいくことに決定。まるで“棒手裏剣”を持つかのように折り鶴を構えてみる川原さん。カメラマンの野波浩さんは「鶴の頭が見えなくなっちゃうと、折り鶴を持っていることがわからなくなるな」と言い、鶴の頭部分の向きや位置など、どう持つかを試行錯誤。<清十郎>が、より強く見えるポーズをいろいろ考えながら、試しつつ撮っていきます。

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髪はポニーテールのように高い位置で結ったスタイルで、この後ろ髪の部分をいかにドラマティックに風に揺らすことができるか、ということでも再び試行錯誤が続きます。ヘアメイク担当の宮内宏明さん、メイク担当の内田百合香さんらがブロワーを駆使し、真剣な表情で絶妙な風を送り続けます。

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セットチェンジし全身写真の撮影に移ると、今度は低い姿勢で片膝を立ててビシッと決めポーズ。「カッコイイ! 川原ファン、悶絶!!」などの声が、再びあちこちから漏れ聞こえます。すると、このタイミングでちょうど撮影スタジオに現れたのが天海祐希さん。川原さんの姿を目にして「超かっこいいー、さすがですー!」と声をかけられ、「なんだか、スイマセン……」と恐縮しきりの川原さん。

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折り鶴を手にし、動きながらの撮影では「鶴はなるべく顔の近くで構えて」「左手はいろいろ動かしてみて」「眉間に皺を入れて苦みばしった表情で」「左目だけ細くして睨みをきかせて」といった細々とした注文にも着々と応えていく川原さん。河野さんが「完璧です、まったく何の文句もないですよ!」と称賛すると、「よかった〜、ポーズがイマイチだなーと言われたらどうしようかと思った!」とホッとした様子の川原さんを、スタッフたちもみなニコニコと見守っています。

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無事に撮影が終了後、せっかくの機会なので“Season極”の出演者としてだけでなく“花・鳥・風・月”のアクション監督としてという視点も含め、川原さんにたっぷりとお話を伺ってみました。


——“花・鳥・風・月”と通しで関わってこられた川原さんが“Season極”でいよいよ表舞台にも登場、ということで。大勢の方が待たれていたと思いますが、ご自身としてはいかがですか。
出られるとしたらシリーズ最後だろうという話ではあったのですが、まさかヴィジュアル撮影までするような、こういう形で吊し上げられるとは思っていませんでした(笑)。(中島)かずきさんは「これも愛だよ」とおっしゃっていましたが……ものすごいプレッシャーを感じています。アクション監督の時とは、また違う種類のプレッシャーですね。1年以上、新感線の舞台には出ていなかったので、かなりのブランクを経て舞台に立つわけで。ちょっとリハビリが必要だと思うんですが……、そのわりにはハードな役どころになるみたいですしね。出させていただくのはもちろんありがたいのですが、どうしても罰ゲーム感もあります(笑)。

——「これは、ご褒美だよ」とも言われていましたが。
うーん、でもご褒美だと言われても、「ありがとうございます」と素直に言えない自分がいますね。だって出演していなければ、アクションのこととか偉そうに指導できますけど、自分も出ていたら「じゃ、お前はどうなんだよ、できてるのかよ」ってことになるじゃないですか。それを踏まえての指導ということになると「こんな風に動いたほうがいいんじゃないかな〜?」みたいな柔らかい言い方になりそうな気がします(笑)。

——天海祐希さんと共演することに関してはいかがでしょうか。
うちの“アクションクラブ”のメンバーって、いわゆる斬られ役専門というよりは、できれば自分も役者を目指してやっていきたいという人間が多いんですが、彼らとお芝居の話をする時、天海さんの話をよくするんです。以前、ご一緒させていただいた時に酒場のシーンで客席に背中を向けたまま連行されるみたいな場面があって、周りのみんなに向けて「大丈夫だからね」って語りかけて、ウインクしたりするんですよ。お客さんにはまったく見えないところなのに、共演者のために天海ねえさんはそういう芝居をしているんです。そんなこともあって「この人のために何かしよう」と、みんなが思える女優さんなんですよね。今回のカンパニーもきっと、古田(新太)さんが笑わせながら飲みに連れて行き、舞台上ではきっちりシメてくれる中、それを天海さんが大きく包み込んでくれる感じになるんじゃないかと思います。この二人が揃うのは、私も本当に楽しみです。

——古田さんは久しぶりの<天魔王>役です。
“花”の時とはまたえらく違いが出てきそうな役ですよね。もともと、私が初めて『髑髏城〜』に関わったのが97年版の時の<天魔王>役だったので。

——あ、そうでしたね。古田さんの一人二役だったので、川原さんが<天魔王>の“中の人”をやられていた。
はい、信長の影武者の役の“影武者”をやっていたわけです(笑)。主役どころでおバカなことをやったりカッコよく決めたりする古田さんももちろん素敵なんですけど、私は悪に徹してワルのボスを演じている古田さんがものすごく好きなんです。単純にファンですね。

——そして今回の“Season極”は完全新作ということなんですが。
これまでの『髑髏城〜』で何度も聞いたセリフがたくさん出てくるんですが、何か違うんですよね。“花・鳥・風・月”で『髑髏城〜』のいろいろな部分を再認識した上で、まったく違う新しい『髑髏城〜』に挑戦する“ドクロイヤー”を迎えられるというのは、私自身もすごく楽しみだし、そこにすべて関われて出演までさせていただけるなんて、本当にうれしく思います。

——改めて、今回の“花・鳥・風・月”にずっと関わって来られて、この企画に関してはどんな想いがありますか。
正直に言えば最初は「面倒くさいなー」って、そりゃ思いました(笑)。もちろん大変なことになるだろうという予想も容易にできましたから。初めての、未知の劇場には不安ももちろんありましたし。お客様にお見せしたものを失敗とは言えませんが、だけど本番を迎えた後にもどうしても課題がどんどん見つかってしまうんですよ。ああ、そうか、こうやるとこう見えてしまうのかとか、逆にこういう効果が出るのかって初めて気づくこともあったり。“花・鳥・風・月”を経験することでスタッフもみんな徐々に成長していった感じでした。そしてだんだん慣れていくがゆえに、こうも使える!って新たな発見もしてしまい、自分の首を絞めていくというパターンでしたね。

——それでさらに高いハードルを越えるハメに。
そうです(笑)。よし、いいものを作ったぞと思っても、すぐ次でそれを越えていかなければならないのが、この世界の常ですからね。予想通りにしんどい毎日でしたけれども、同時に本当に楽しい日々でもありました。って、まだ終わってないですけど(笑)。だって、いろいろな役者さんが次々に同じ役を、ゼロから作り上げていく過程をすぐ近くで全部見られたんですから。それぞれの解釈だったり、表現の仕方だったり。

——同じ役でも、みなさん違いますからね。
そうなんです。当然、役者さん同士もプライドがあるし、意識し合っていて。でもそれは、負けてたまるかっていうギクシャクしたものではなくて、単に「俺にしか出せないものはなんだろう」という想いで。そういったことを、ふだんよりも強く考えている気がしましたね。

——川原さんにとって、『髑髏城〜』という作品自体の魅力とは。
アクションを生業にして、立ち回り要員として劇団☆新感線さんに呼んでいただけるようになって、ほぼ2作目の作品が『髑髏城〜』だったんです。その当時から、ある意味“物量”がすごかったというか、アクションはたっぷりある上に、カタルシスもすごくある劇団でした。普通は物語の最後にひとつスカッとするものがあるところを、新感線さんの場合は、間、間にスカッとする部分がいっぱいあるんです。アクションをやっている人間たちにとっては理想というか、憧れる舞台ですよ。実際にうちのメンバーたちにも『髑髏城〜』を観て、アクションをやりたいと思って始めたやつらが何人もいますから。そんな作品の初期の時代から関わらせていただけたわけで、自分の転機になった作品でもありますし、やっぱり思い入れはとても強くある作品です。実際、その後もいろいろな転機を迎えるたびに、必ず『髑髏城〜』があったように思います。

——では最後に、川原さんからお客さまへメッセージをいただけますか。
はい。心待ちにしてくださっていた川原ファンのみなさま……って、嘘、嘘です、ゴメンナサイ。今回は、出させていただきます(笑)。でもブランクがあるので、優しい目で観ていただければありがたいです。そして『修羅天魔』はおそらく、これまで観たこともない『髑髏城〜』であり、でも間違いなく『髑髏城〜』だと思える作品になることと思います。私個人としては、立ち回りをこうしてずっとやってきましたので、これが集大成になるような『髑髏城〜』にしたいですね。とにかく久しぶりの出演なので、ケガだけはしないようにリハビリをしつつ、がんばります!