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撮影レポート 福士誠治 篇

2018.03.15

2018年3/17(土)にいよいよ幕が開く、劇団☆新感線『修羅天魔〜髑髏城の七人Season極』。昨年からロングラン公演が続いている、東京・豊洲のIHIステージアラウンド東京での『髑髏城〜』シリーズの最終章となる今作で、この物語には欠かせないお馴染みのキャラクターである<兵庫>を演じるのは、劇団☆新感線にはこれが初参加となる福士誠治さんです。

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すっかり衣裳とヘアメイクが整った状態で現れた途端、高さのある下駄姿だったせいか「なんだか、でっかいなー!」と声がかかると、すかさず「器と態度は小さいので!」と即反応する福士さん。登場そうそうにひと笑い起き、スタジオ内は早くも活気づいてきました。小道具担当の高橋岳蔵さんが「イキッてる田舎者感が良く出てる」とその姿を評すると、福士さん本人も「僕らの中学時代の、ステレオタイプのヤンキーみたいなイメージですよね」とニヤリ。そういえば髪型もなんとなく茶髪のリーゼント風に見えます。

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衣裳や大刀にはベルトの飾りがついているのがポイントになっていますが、このベルト、着脱自由、長さも調節可能になっていて全体のバランスを見ながら高橋さんがこの場で一本ずつつけていきます。この間の高橋さんと福士さんとの掛け合いが絶妙で、「似合うわー」「あの頃を、思い出しますねえ」「後輩からも誠治って呼び捨てにされてそうやね」「そのたびに先輩やぞー!って言うんでしょ」などなど、漏れ聞こえるやりとりに周囲も思わずゲラゲラ笑ってしまっています。

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するとアートディレクターの河野さんが、メイク担当の内田百合香さんに鼻と左頬にもう少し傷を足すように注文。内田さんはさらに、福士さんの手にも何本も傷メイクを施していきます。そのリアルな傷の様子を見ながら「これ、確実に獣にもやられいてそうですよね。背中にもきっと、いろいろ逃げ傷とかいっぱいあるんだろうなー」と呟く福士さん。

衣裳スタッフに聞くと、まるでライダースジャケットのようにアレンジされた“陣羽織”は革ではなく木綿製で、いかにもニッカボッカのようにも見えるのは“裁っ着け袴(たっつけばかま)”なのだそう。今回、“関八州荒武者隊”の面々の衣裳には、それぞれのキャラクターやセリフに合わせた文字があしらわれているとのことで、福士さん演じる<兵庫>の胸には“魂”の文字が。この衣裳は撮影用なので、果たして本番ではどんなデザインになっているかも含めて、“極髑髏”バージョンの荒武者隊の衣裳にもぜひ注目してみてください。

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河野さんが「よし、腕を組んでふんぞり返ろうか。表情はオーバーめで!」、カメラマンの野波浩さんが「グッと眉間に皺を寄せて!」と声をかけると、撮影がスタート。「おぉー、カッコイイ!」「こんなに傷だらけなのに、イケメン兵庫だね!」「赤がすごく似合う!」とのスタッフの言葉には「ありがとうございます、みなさんのおかげです!!」と、福士さん。

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撮影の途中で「ここから風を入れよう」ということになると早速、絶妙な風を起こすのが得意な“風係”としてヘアメイク担当の宮内宏明さんがフロアに登場。ヘアスタイル的には下手から風を当てたいということで、そちらからブロワーを構える姿には「なんだか、宮内さんから命を狙われているようにも見えるね……」と周囲スタッフはクスクス。

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また、モニターを見ながら河野さんたちスタッフが「どっち向きの顔がいい?」と相談していると、カランコロンと下駄を鳴らしながら様子を見に来た福士さんが「みなさんで決めてください、みなさんが好きなほうが僕も好きです!」と高らかに宣言。するとそこに高橋さんが現れ「バームクーヘンかなんか、誠治、買ってこい」と茶々を入れると、またもや「先輩やぞ!」と叫ぶ福士さん。このやりとりがかなり気に入ったらしいお二人、この日は何度もこのセリフが叫ばれることに。

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次に前傾姿勢で全力疾走しているようなショットでは、風になびかせるためにマント風に背中に装着させた薄手の布を細く裂いていくことになり、衣裳、小道具、メイクのスタッフ陣が総出でスタンバイ中の福士さんの周囲に集まります。いいバランスで布が用意できれば、撮影再開。しかし風の具合ですぐに布が絡まってしまい、そのたびにほどいて……という繰り返し。長時間、ひたすら風に吹かれっぱなしでポーズを決める福士さんの様子を、固唾を飲んで見守るスタッフたち。

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その後も河野さんや野波さんから「オラオラァ、このやろう〜って、メンチ切ってる感じ」「こぶしを握って、やんちゃな感じで」「両方のこぶしを合わせてみて」「歌舞伎の見得を切るように両腕を広げて」などなど、具体的な注文に合わせてポーズする福士さん。「今度は周りに荒武者隊がいると思って」と言われると再び「おまえらなー、俺、先輩やぞ!」を連発、スタジオは爆笑に包まれつつ、撮影は続くのでした。



——いのうえさんの演出を受けるのは『サイケデリック・ペイン』(2012年)以来で、劇団☆新感線には初参加ですね。今回の出演のお話を最初に聞いた時はどう思われましたか。
うれしかったです。いのうえさんの演出は一回受けてはいますけど、やっぱり劇団☆新感線の本公演にも出てみたいという思いもあったので。僕、役者を始めてすぐくらいの頃に『七芒星』(2002年)を観ているんですよ。すごく面白くて、笑って、カッコ良くて、派手で。「いきなり最高峰を観させてもらった!」と思いました。でも、その後はつてもないのでチケットが取れなくて。『サイケデリック・ペイン』以降はいろいろな作品を観させていただいていたので、ここで新感線に出られるというのはやっぱりすごくうれしいです。

——『サイケ〜』が5年前、ということは7年前の前回の『髑髏城〜』はご覧になっていないんですね。
はい、ナマでは観ていないです。このIHIステージアラウンド東京でのシリーズで、最初の“花”を観させていただいた時は、お客さんと一緒にぐるぐる回りながら「いやー、エンターテインメントだなあ!」と思いました。舞台というものの概念を壊される感じもあって、ちょっとアトラクションのようでもあり。一種のショーでもあるし、でもお芝居で、いろいろな要素が含まれていた。まずあの劇場に驚きました。ある意味、これだけ続けてやると専用劇場みたいですものね。ちょっとラスベガス感もあるし。

——日本には、これまでなかったスタイルの劇場ですし。
もちろん、この作品のためだけに作られたわけではないのでしょうが、客席から観ていると「『髑髏城』のために作ったんじゃないか?」と思うくらいでした。いのうえさんの中にはたぶん、まだまだ「もっとこうしたい」とか「ああしたい」とか、相当アイデアがあるんだと思います。底が知れないですよね。作品が変わるとまた使い方も全然違ってくるのでしょうし。とにかく『髑髏城』は新感線の代表作ですからね。今回はメインタイトルは変わりますが、でもこの一連のシーズンのラストに参加できるということも、本当にうれしく思います。

——これまでの兵庫は常に全力で、力を抜くところが一切ない“抜かずの”兵庫という印象もあります。
できれば、抜いてやりたいですね(笑)。でも、いのうえさんと一度ご一緒している経験があるということは、自分の中では大きいかなと。あとは、いのうえさんがおっしゃることを自分がどれだけ具現化できるかというのが勝負というか役者としての仕事で、まず稽古場で試されるところだと思います。果たして僕の中にある引き出しがどれくらい通じるか、ですけど。新しい扉をいっぱい開かせていただけたらいいですね。ケガだけはしないようにがんばります。

——ちなみに、今日の撮影の感想はいかがでしたか。
面白かったです。まだ想像できていないところもたくさんあったのですが、それでも今回ヴィジュアル撮影をしたことで、エネルギッシュな兵庫というキャラクターがスタッフみんなに共通してあることがわかって、そこは裏切りたくないなと思えました。撮影してみて、ああこういうことだよなあということがひとつ、自分でも確かに得られたのが良かったです。傾奇者(かぶきもの)のようなイメージで、思いのほかカッコ良く撮っていただきましたしね。もっとオチャラケる感じが多いのかと思ったら、意外と疾走感のある雰囲気もあって。

——カッコ良かったです。
それは僕がというより、衣裳とメイクがカッコ良かったんです(笑)。みなさんの力を借りないと、僕には何もできないので。天海さんや古田さんとはまたちょっと違うカラーが出せたような気もします。“赤い弾丸”、みたいな(笑)。

——確かに、色味的にもお二人とはずいぶん違いました。
真っ赤でしたから。そういう意味ではわかりやすく、いい赤を出せるようにしたいです。でも、本番用の衣裳が赤じゃなかったらビックリしますけどね!

——そんなこともなさそうですけど、どうでしょうね(笑)。今回、天海さんが白で古田さんが黒、兵庫は赤というのがテーマカラーとしてあると衣裳スタッフさんはおっしゃっていました。
そう言われると、そこで赤をもらえたというのはなんだか光栄な感じがします。アカレンジャーじゃないですけど、リーダーとか、熱血とか、元気とか。パブリックイメージとしてみなさんが持っている赤のイメージをそのまま人間に移せたらいいですよね。できれば何事も中途半端にせず、すべて振り切っていきたいなあ。すごく元気、すごく落ち込む、すごく強い、すごく殴られる……。全部に“すごく”をつけるような感じで。すごく話がわかってない、すごくドヤ顔、とか(笑)。兵庫に扮している期間は僕、喜怒哀楽がものすごく激しい人になっているかもしれません。

——演じている役のキャラクターに、引っ張られるタイプなんですか?
多少はありますけど、そうでもないと……。(ここでマネージャーさんが「いつも、わりと引っ張られていますよ」と発言)あ、わりと引っ張られているみたいです。ちょっと、憑依型の役者なものですから。嘘です(笑)。ともかくカンパニーの方と仲良くやりつつ、自分の知らない兵庫がうまく出てきたらいいなあ、とは思います。

——これからの稽古、本番に向けて特に準備をしようと思われていることは。
毎回のことですけど、まずは体力づくり。単純にちょっと今、運動不足なので、しっかり動ける身体にしておかなければ、と思っています。本番に入ると僕、確実に痩せると思うんですよ。あまり舞台の期間中って僕、ご飯を食べないので。食べてから出ると身体が重くなったり、途中腹痛になったらどうしようとか、そういう心配のほうが大きくなっちゃう。だから朝、果物を食べたらあとは本番が終わった後にエネルギー補給するだけになるので、食事はその一回になってしまうことが多いです。

——それじゃ、絶対に痩せちゃいますね。最近『髑髏城』の出演者はみなさん、絶対痩せていくっていうもっぱらの噂ですし。
でもやっぱり兵庫は肉体的にガリガリって印象ではないので、少しは身体を大きくしておきたいとも思っています。とはいえ、これまでの『髑髏城』のイメージみたいなものは、稽古前にいったん全部捨てちゃおうと思って。前の兵庫はこうだったとか、そういったものは持たずに作品に入りたいので。この作品だけストーリーが違うわけですし、できるだけ台本を読んだ時の最初のインスピレーションを大事にしつつ演じていきたいです。

——では最後にお客様へお誘いメッセージをお願いします。
IHIステージアラウンド東京での『髑髏城』もこれがラストです。全シーズン観たお客様もいれば、昔からの『髑髏城』をご存知の方もいると思いますが、特に今回はかなり新しいものができそうな気がしているので、そこをぜひ楽しみにしていただきたい。もちろん『髑髏城』がベースにはなっていますが、ぜひ新作の舞台を観るつもりで来ていただけると、より楽しみが増えるのでは、と思います。