世界陸上ドーハ

寺田的 世陸別視点 text by 寺田辰朗


末續慎吾さんが見た最速男コールマンと、
日本人9秒台トリオの準決勝敗退
「勝敗の線引きがされるのは、その場所に立ったときのメンタル」
2019年9月29日(日) 17:00
第11回
大会2日目は日本の有望選手が次々に登場。外国勢も含め最も注目されたのは、最速男を決める男子100mだった。
準決勝には日本勢3人が出場したが、3人とも準決勝を通過することができなかった。1932年ロス五輪の吉岡隆徳以来87年ぶりの決勝進出が期待されたが、世界の壁は厚かった。
決勝はC・コールマン(米国)が9秒76(+0.6)で、2位のJ・ガトリン(米国)に0.13秒差をつけ快勝した。
日付がまたいで行われた男子50km競歩では、鈴木雄介(富士通)が4時間04分20秒で優勝。日本の競歩史上初の金メダルを日本にもたらした。
また、男子走幅跳では橋岡優輝(日大)が7m97(-0.2)で8位。この種目世界陸上初の入賞を成し遂げた。
9秒台トリオの準決勝後のコメント
準決勝1組に出場したサニブラウン(フロリダ大)は、スタートで明らかに出遅れた。中盤から後半は悪い走りではなかったが、10秒15(-0.3)の5位で決勝進出を逃した。
準決勝は3組あって各組の上位2着と、3着以下のタイムで上位2人が決勝に進むことができる。2位のA・ブラウンとは0.03秒差だっただけに、スタートの失敗が惜しまれる。
サニブラウンはその失敗を「ピストルの音が聞こえなかった」と説明した。
「ずっと雑音が聞こえていて、『セット』の声までは聞こえたのですが、その後は何が起きているのかわからなかった。(技術的にやりたかったことは)最近横に振れて走ることが多いので、直線的に一歩一歩踏んでいきたいと思っていました。そこは少しできたので、中盤から後半にかけて追い上げることができたのだと思います。スタートの差がもったいなかった」
2組の小池祐貴(住友電工)は10秒28(-0.1)で7位。「人の腕がプルっと見えて、失敗スタート(フライング)だと思ってしまった」と話している。自分もつられて出そうになったところを我慢した、という意味だろう。そこでリズムを崩し、まったく上位争いに絡めずに終わった。
3組の桐生祥秀(住友電工)は10秒16(+0.8)で6位。中盤まではトップを争い見せ場を作った。プラスの2番目で決勝に進んだ選手に0.05秒まで迫った。
「やりたい走りができた部分もあった。強がりに聞こえるかもしれませんが、ファイナルは遠く感じませんでした」
三者三様の準決勝ではあったが、桐生が決勝進出に迫り、サニブラウンも今後が期待できた。
「決勝を戦えなかったら準決勝を突破できない」と末續さん
決勝では前回銀メダリストのC・コールマンが9秒76(+0.6)の今季世界最高で優勝した。この記録はガトリンが9秒74で走った15年5月以降の世界最高記録。五輪&世界陸上では、2年前の世界陸上を最後に引退したU・ボルト(ジャマイカ)が、9秒79で優勝した15年北京世界陸上以来の9秒7台だった。
アスリートゲストとしてTBSの世界陸上放映に参加している末續慎吾さん(03年世界陸上パリ男子200m銅メダリスト)は、コールマンの強さを「下馬評通りの力を発揮したこと」と話した。
「本番で特別スゴいことをしたというよりも、予選、準決勝、決勝とすべて1位で(順当に)走りきった。ぶっちぎりで勝てる確証のない世界ですが、決勝で自己記録を出す集中力の高さに目を見張るものがあります。スタートで飛び出し、そこからの2次加速もよくて、中盤の走りにつなげています。筋力の強さがあるから等速スピードを維持できる。あそこまで飛び出しても後半で減速しないのは、練習をしっかりしているからだと思います」
9秒台トリオが決勝に進めなかった。その点についてどうだったのかは、決勝の内容から話すべきだと末續さんは言う。
「3人が今日の決勝に出場したとしても、太刀打ちできないレベルでした。そして決勝を走った選手たちは予選、準決勝、決勝とタイムを上げています。決勝で戦える実力を持っていないと、準決勝を通過するのは厳しいのかな、と感じましたね」
末續さんが世界陸上の決勝に進んだのは2003年パリ大会だけだが、その1回の決勝で銅メダルを獲得した。
「僕は決勝でいかに勝つかを考えていました。挑戦することではなく、戦うことを前提にトレーニングをしていた。今日の3人が『決勝に残りたい』だったら、前提を変えないといけないと思います」
サニブラウンからは「決勝でコールマンと戦う」という言葉が予選終了時に出ていた。今の日本選手もそのレベルの考えに近づいているのは確かだが、東京五輪に向けてはさらに徹底していく必要がある。
末續さんが注目するのは選手のメンタルが現れる部分
初めてメディアの一員としてスタンドから戦況を観察した末續さんは、「勝つ選手と勝てない選手、そこに何があるのかを客観的に見ることができた」と言う。
「1位と2位の違い、8位(入賞)と9位の違い、ファイナルに行く選手と行かない選手の違い。勝負の線引きがされるところはタイムではなく、その場所に立ったときのメンタル、精神性だと思いました」
末續さんが例に挙げてくれたのが、男子100mで銅メダル(9秒秒90の自己新)を取ったA・ドグラス(カナダ)だった。200mではリオ五輪でU・ボルト(ジャマイカ)に次いで銀メダル、100mでもボルト、ガトリンの両雄に続いて銅メダルを取っている実績を持つが、その後は故障の影響で低迷した期間もあった。
「予選から準決勝で、タイムも含めて一番変わったのがドグラスでした。自分の走りをしっかり出せる雰囲気が出ていましたね。決勝は6レーン。強い選手たちに囲まれていましたが、4レーンのコールマンとは隣り合っていなかった。集中しながらも、体を揺さぶってリラックスしていました」
末續さんは200mで20秒03と今も残る日本記録を出した選手だが、「こだわっていたのは勝負の方」だった。「準決勝でこの結果なら、こういう心境で決勝に来ているからこうなる」と想像しながら観戦していた。顔色や目つきなど、精神面が現れやすい部分に注目したし、レーンの配置も勝敗に影響すると考えながら見ていた。
末續さんは短距離とか陸上競技という言葉よりも、「駆けっこ」という言葉を好んで使っている。競走することは人間の行う最も単純な争い方で、「その瞬間の機微(きび)」が体の動きや表情の変化に現れるという。
「そこを感じ取りながら世界陸上を見ています」
まだまだ続くドーハ大会。末續さんの考え方、着目点を理解した上でコメントを聞くと、陸上競技をさらに面白く観戦できる。
寺田(てらだ) 辰朗(たつお) プロフィール】
陸上競技専門のフリーライター。
陸上競技マガジン編集部に12年4カ月勤務後に独立。
専門誌出身の特徴を生かし、陸上競技の詳しい情報を紹介することをライフワークとする。
一見、数字の羅列に見えるデータから、その中に潜む人間ドラマを見つけだすことは当代随一。
地道な資料整理など、泥臭い仕事が自身のバックボーンだと言う。
選手、指導者たちからの信頼も厚い。AJPS(日本スポーツプレス協会)会員。

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 写真:フォート・キシモト