世界陸上ドーハ

寺田的 世陸別視点 text by 寺田辰朗


世界陸上初。
日本人2選手が男子走幅跳予選を突破
男子100mの9秒台トリオは2日目の準決勝で切り換えられるか
2019年9月28日(土) 13:00
第10回
ドーハ大会初日の9月27日は男子走幅跳にとって、日本新が2度も更新された「8・17(Athlete Night Games in FUKUI)」に続いて歴史的な一日となった。橋岡優輝(日大)が8m07で予選全体で3位通過、城山正太郎(ゼンリン)も7m94で8位通過した。2人が決勝に進んだのは世界陸上史上初めてのことだった。
男子100mもサニブラウン(フロリダ大)、桐生祥秀(日本生命)小池祐貴(住友電工)の9秒台トリオ全員が予選を突破。3人全員が準決勝に進んだのは、17年ロンドン大会に続き史上2回目だ。
男子400m障害では安部孝駿(ヤマダ電機)が予選3組2位、全体でも2番目の好タイム(49秒25)で準決勝進出を果たした。
唯一の決勝種目だった女子マラソンは気温30℃,湿度92%の中で“史上最も熱い戦い”が展開された。優勝したR・チェプンゲティッチ(ケニア)は2時間32分43秒だった。日本勢は谷本観月(天満屋)が後半順位を上げて、2時間39分09秒の7位。今大会の日本人入賞第1号になった。
向かい風に対応した橋岡が予選3位で決勝進出
新記録・好記録が量産された「8・17(Athlete Night Games in FUKUI)」は気象条件に恵まれたことも確か。8m40の日本新を出した城山自身「8m20くらいに考える」と話していたほどだ。
記録は出ても、そう簡単には世界と戦えない。そういった声も多く聞かれたが、その評判をひっくり返したドーハでの2人そろっての決勝進出だった。
橋岡は1回目が7m64(-1.1)と記録が伸びずに心配されたが、2回目で8m07(-0.7)。予選通過記録の8m15は超えられなかったが、その時点で予選(AB組)全体で2位。決勝進出を確実にした。
「1本目は若干、雰囲気というか会場に飲まれてしまった感じはありますが、2本目からいつも通りを心がけて、修正して8m07までもっていけたのはよかった」
1本目は森長正樹コーチから「助走がテンポ走みたいだったぞ」と言われるくらいキレがなかった。
その森長コーチが以前、「橋岡の修正能力はすごい」と話していたが、2本目に43cmも記録を伸ばしたことで、その能力の高さを改めて示した。8m07が向かい風だったことも特筆される。
「(予選3位で通過したが)海外選手は決勝ではどれだけ力を出してくるかわからないので、僕もそれに応えられるように、しっかり全力を出したい」
昨年のU20世界陸上や今年のアジア選手権で優勝した橋岡は、一緒に試合をする選手が強いと、気持ちが高揚して自身への期待値が高くなる。萎縮して力を発揮できないタイプではない。橋岡の真骨頂は大舞台でこそ発揮される。2日目(9月28日)の決勝では、メダルに挑戦することも可能だろう。
城山は1回目に7m94(-0.6)を跳び、予選全体で8番目の記録で通過を果たした。ただ、8m40を跳んだときの感覚は再現できなかったという。
「(跳び出しが)上には行きましたが、前には抜けていなかった。日本記録のときの助走ができたら、しっかり踏み切れると思う。決勝では最低でも(8位)入賞して、1つでも上の順位を目指します」
決勝で日本選手が入賞すれば、世界陸上ではこの種目の史上初。2人が入賞すれば世界陸上のフィールド種目では初の快挙となる。
9秒台トリオは準決勝でランクアップできるかがカギ
9秒台トリオへの期待が高かった男子100mは、予選が行われた。4組の桐生は10秒18(-0.3)で4位、5組の小池も10秒21(-0.3)で4位。ともに着順で通過できず、各組4着以下のタイム上位6人に入っての準決勝進出だった。6組のサニブラウンは10秒09(+0.1)の3位。着順で通過した。
解説の朝原宣治さんは、「小池君と桐生君は特に何かを失敗したようには見えなかった。走りも乱れていなかった。準決勝でスイッチが入ることを期待するしかない」と話す。
予選が良くなくて、準決勝でいきなり走りが良くなった例はほとんどない。準決勝が厳しい状況であることは間違いないが、そこを克服できれば世界の壁を乗り越えたことになる。
本人たちはタイムでの通過がわからなかった段階で「チャンスが与えられたら明日は、これ以上に上げられる」(桐生)、「(タイムは)もう少し出ていい。通過したら(準決勝は)ちゃんと走りたい」と話した。手からこぼれかけたチャンスを手にしたことで、心機一転の走りを期待したい。
サニブラウンは信条の“やるべきことをやる”ことができなかった。あるいは、しなかった。
「後半、ちょっと手を抜き過ぎたというのがある」と、レース後のインタビューで認めている。
「60mで横を見て、あー、みたいな感じだった。そこを準決勝でもう一段階刻めれば」
おそらく60m以降は悪いときの走りで、ピッチが緩慢になった。
「明日はそういうところで勝負がつく。しっかり集中していきたい」
“集中”もサニブラウンが力を発揮するための重要な要素だ。
「(3回目の世界陸上で)なんか、何も感じなくなってきました。でも決勝に行けたら緊張すると思う。こういうところ(予選や準決勝)で緊張しないで、ケアレスミスで落ちることはしょうもないこと。しっかり集中して行くのが一番大切かな」
準決勝のサニブラウンは、予選とはまったく違った走りをするはずだ。そこに32年ロス五輪の吉岡隆徳以来、87年ぶりの男子100m決勝進出がかかっている。
谷本が有言実行の7位入賞
女子マラソンは気温32℃、湿度74%のなかでスタートし、フィニッシュ時もまったく同じ気温と湿度だった。68人が出場したが28人が途中棄権。予想通りに過酷なレースになった。
優勝したのはR・チェプンゲティッチ(ケニア)。今年1月のドバイ・マラソンで2時間17分08秒の世界歴代3位をマークしていた選手である。11kmからリードを奪い、一度は集団に追いつかれた。だが、36kmからスパートして、前回優勝者のR・チェリモ(バーレーン)らを突き放した。
2位にチェリモが続き、4位までをアフリカ系選手が占めた。谷本は23km地点では37位まで後退していたが、後半に粘りを発揮して6位まで浮上した。
「最初はバーッと前に行かれて、どうしようかと思いましたが、私は速く走れないので粘るしかありません。暑い中でのレースは自分にとってラッキーな状況でした。チャンスをつかむことができました」と、レース後に笑顔で語った。
このコメントは、谷本が2日前の会見で話したことと重なる。
「ペースメーカーがいないので、前の人たちがバーッと行くかもしれませんが、私は自分のペースを守ってしっかり粘りたい。8位入賞が目標です」
ここまで想定通りの試合ができるケースはかなり少ない。
昨年の北海道マラソンでは中盤で思い切ったスパートを見せ、MGC2位で東京五輪代表になった鈴木亜由子(JP日本郵政グループ)らを終盤までリードした。今年3月の名古屋ウィメンズでは2時間25分28秒と自己記録を大幅に縮めた。本人は「スピードがない」と話したが、昨年のクイーンズ駅伝1区では区間7位。有力チームのスピードランナーたちと遜色のない走りを見せている。
今後も夏のマラソンで力を発揮するのは間違いない。派手さはないが存在感のある選手が、名門・天満屋から新たに誕生した。
寺田(てらだ) 辰朗(たつお) プロフィール】
陸上競技専門のフリーライター。
陸上競技マガジン編集部に12年4カ月勤務後に独立。
専門誌出身の特徴を生かし、陸上競技の詳しい情報を紹介することをライフワークとする。
一見、数字の羅列に見えるデータから、その中に潜む人間ドラマを見つけだすことは当代随一。
地道な資料整理など、泥臭い仕事が自身のバックボーンだと言う。
選手、指導者たちからの信頼も厚い。AJPS(日本スポーツプレス協会)会員。

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