障害者雇用を目指すネット古書店がお店をオープンしたということで
澤田大樹記者が取材しました。
JR武蔵境駅近くにオープンした「浩仁堂」の店舗
外だけではなく、店内にも本が並べられている
今回、取材に行ったのは東京・武蔵野市にある古本屋「浩仁堂(こうじんどう)」です。
この古本屋は「人権トゥデイ」でおととしにも取り上げたんですが、その時はアパートの一室を借りて、店主が仕入れてきた古本を精神障害者の施設から派遣された障害を持った人がパソコンで入力して、インターネットの通販サイトに出品していました。
その浩仁堂が武蔵野市に2010年12月、店をオープンしました。どうしてインターネット古書店が店をオープンしたのかと伺うと、店主の直志浩仁さんは、
「やっぱりインターネットの世界だけだと知る人ぞ知る世界というか、障害者がちゃんと力になってるよというのが、もっと地域にPRしないといけませんし、そのいいインターフェースとしてお店、店舗があると思います」と語ります。
「障害者が働いている」ということを広く知ってもらおうという事なんですね。
この「浩仁堂」では店のオープンに向けて、会社を営業部門と福祉部門の2つに分けました。営業部門が古本の買い付けをし、福祉部門が販売を担当します。
さらに、福祉施設を作って直接福祉サービスを提供する形にしました。
具体的には、福祉部門では障害者自立支援法に基づく就労支援事業として、福祉施設の利用者は古本をクリーニングしたり、注文があった商品をパッキングして発送する作業をしています。
つまり、福祉施設で行われる作業が古本屋の営業を支えているということです。
浩仁堂では現在、障害がある人たち10人が福祉サービス利用していて、さらにスタッフやアルバイトとして6名の障害者が雇用されています。
「浩仁堂」で働いている方に話を伺ってみました。
脳内出血で倒れて高次脳機能障害と診断された50代男性は、「以前はコンピューターのシステムの開発をやっていました。今は古本を製品になるように再生するっていうクリーニングしたり本を修復することを中心にやっています。皆さんと話したりする中で昔の自分を取り戻せるというような感じで。働かせてもらってるというよりリハビリをやってるというようなところが強いんです」と語ります。
また、発達障害と診断された20代男性は、「ここのアルバイトとして店員をやってるわけですけど、接客業が初めてなので、接客業だと目の前に人がいるからちょっとお待ちくださいって言って言葉を選んでるわけには行かないから、なれないんで大変ですけど、がんばってやっていきたいです」と話していました。
接客など店舗ならではの苦労もありながらも、皆さん楽しそうだったのが印象的でした。
「アパートの中でちまちまやっていたことと比べれば本当に多くのことを利用している方、障害者の方に提供できているなと言う実感もありますし、目の前で本が売れていくこと、実際にどれだけ反響がきて売り上げが伸びているかを実感できるわけです。そうすると自分達の働きがこういう風に跳ね返ってきているなと言うのを目の前で見ることができて、それを感じながらお仕事をしていく。お店を持ったことは自分が思っていた以上のものを働いている人たちに返してくれているっていう風に思います」と店主の直志さんは店をオープンしたメリットについて話します。働いた成果が目に見えるとやる気につながっているようです。
浩仁堂で働く人の中には、精神障害の人や発達障害の人に混じって、高次脳機能障害になった方がいらっしゃいます。
この高次脳機能障害とは脳出血などで引き起こされ、記憶障害になったり、物事を順序だてて行うことができにくくなったりします。
この高次脳機能障害の人と精神障害の人、発達障害の人が一緒になったことで新たなかかわりも生まれたそうです。
福祉施設に通う高次脳機能障害の人は50代が中心なのですが、障害になる前は仕事をバリバリこなして社会経験が豊富な方が多いんです。一方、発達障害や精神障害で通所している人の中には若い人が多く、社会経験が少ない。その2つのグループがお店で一緒に働くことで、若い利用者を高次脳機能障害の方が注意したり、逆に励ましたりして、きちんと組織が出来上がりました。
ちょっとした会社みたいになっていて、若い人にはいい経験になっているそうです。高次脳機能障害の方にとっても、若い人とかかわりを持ちながらリハビリしていけて、社会とかかわりを持ち続けられるメリットもあります。
浩仁堂の今後の展開について、直志さんは、
「最初にあげた目標として5つのこういった店舗を展開したいなと。そこで直接雇用する障害者の方々が5名から10名いらっしゃるって、いずれは障害者の皆さんがチームで持って経営していけるといいなと思います。チームでもってきちっと回っていくという風な形にできたら浩仁堂のまず第一段階の夢は達成ということです」と話していました。
店は先月オープンしたばかりでこれからどう利益を上げていくかという課題はありますが、直志さんは「会社を大きくして浩仁堂で雇えるようにするだけでなく、他の会社でも働けるようになっていって欲しい」とも話していました。
浩仁堂のお店はJR武蔵境駅歩いて5分のところにあります。
そちらにも是非足を運んでいただければと思います。
また、浩仁堂では古本の買取をしているとのことです。他のお店より高価買取を心がけているとのことなので、障害者の雇用を生み出すためにもご協力いただければと思います。
興味のある方はホームページか、メールアドレスinfo@kojindo.jp、電話番号0422-55-1533まで。
なお、営業時間は午前10時〜午後7時までです。