コラム

2020年12月27日更新 text by 寺田辰朗

第5回五輪代表&日本新の相澤晃と日本新の伊藤達彦
ルーキー対決が実現すれば区間新決着必至

内容

ニューイヤー駅伝史上最高レベルの同学年選手2人が上州路に登場する。12月4日の日本選手権10000mに27分18秒75の日本新で優勝した相澤晃(23・旭化成。東洋大卒)と、同じレースで27分25秒73の日本新(歴代2位)で2位に入った伊藤達彦(22・Honda。東京国際大卒)。2人とも五輪参加標準記録の27分28秒00を突破し、優勝した相澤は東京五輪代表に内定した。お互いを意識することで成長してきた2人は、ニューイヤー駅伝でどんな戦いを見せてくれるだろうか。

●日本選手権のデッドヒート

ワンツー・フィニッシュまでは予想できなかったが、12月4日の日本選手権のレース展開には2人の強さがしっかりと現れていた。
5000m通過は13分41秒で、標準記録を狙えるハイスペースだった。後半でペースダウンする懸念もあるくらいに速かった。
6000mを過ぎるとベナード・コエチ(21・九電工)が5〜7mのリードを奪ったが、そこでコエチとの差を詰めて6900mで追いついたのが伊藤達彦だった。7100mで田村和希(25・住友電工)と相澤晃も追いついたが、7400mではコエチと伊藤がリードする。相澤も粘って7500mで追いつき3人の先頭集団に。
7900mではコエチが再度5m以上リードを奪った。8000m過ぎで伊藤は2位の相澤からも5m後れたが、8200mでは首を振りながら相澤に追いつき、と同時に2人はコエチにも追いついた。伊藤の粘り強さが発揮されたシーンだ。

しかしそれも8400mまで。伊藤が2人から後れ始めると、そこから後は相澤とコエチの一騎打ちに。相澤が残り350m付近でスパートして27分18秒75の日本記録で優勝した。2位の伊藤も気持ちを切らさず走り抜き、27分25秒73の日本新でフィニッシュ。五輪参加標準記録も突破した。
レース後に相澤と伊藤はガッチリ握手。相澤は場内インタビューで「終始引っ張ってくれたコエチ選手と、ラスト競り合ってくれた伊藤君に感謝したい」とコメントした。
レース後の会見では、1年前の箱根駅伝2区と同じ競り合いだった点を質問され、相澤はこう答えている。
「同学年のライバルということで、箱根駅伝の競り合いを世間からは色々な表現で言われていましたが、今回もそういった競り合いができたらいいな、と思っていました」
“ランニングデート”という表現もネット上には見られた。コロナ禍による試合中止期間もあり、2人の並走は11カ月ぶりだったが、多くのファンが既視感を抱いた。
「7000m以降みんな余裕がなく、自分もすごくキツかったのですが、伊藤だけ前に出てくれた。ここで離されたら優勝できないと思い、箱根駅伝と同じように多少離されてもすぐに追いついて、集中力を切らさないように走りました」
ルーキー2人が日本記録を破る快挙の裏には、相澤と伊藤の強烈なライバル意識があった。

●ライバルの存在を糧に成長している伊藤

「また相澤か、っていう感じがありました」
伊藤の日本選手権の感想である。目標は27分28秒00の標準記録を破ることだった。「突破したら優勝できると思っていましたから」。そう考えるのが普通だろう、標準記録は日本記録(27分29秒69=村山紘太・旭化成・15年)より高い設定なのだ。だが勝てなかった。相澤が7秒前にいたのである。

2人の大学3年以降の直接対決は以下の通り。
▼2020年
12月 日本選手権10000m 相澤・優勝 伊藤・2位
1月 全国男子駅伝7区 相澤・区間1位 伊藤・区間5位
1月 箱根駅伝2区 相澤・区間1位 伊藤・区間2位
▼2019年
7月 ユニバーシアード
ハーフマラソン 相澤・金メダル 伊藤・銅メダル
4月 関東私学六大学3000m 相澤・1位 伊藤・2位
3月 日本学生ハーフマラソン 相澤・優勝 伊藤・3位
▼2018年
4月 関東私学六大学5000m 相澤・2位 伊藤・1位

伊藤は一度だけ、大学3年になったばかりの関東私学六大学5000mで相澤に勝っている。伊藤が14分11秒53で1位、相澤が14分11秒54の2位。タイム的には速くないので、ラスト勝負だけのレースだったのだろう。高校までまったくの無名選手だった伊藤は、そのときはまだ競技者としての意識も低かった。相澤に勝っても、それを成長のステップにできたわけではない。
ターニングポイントは、大学3年の最後に走った日本学生ハーフマラソンだったという。3位だったが優勝した相澤に7秒差と、頑張り次第で手が届く範囲にいた。そこからトレーニングだけでなく、食事など日常生活の過ごし方も含め意識が変わった。
4年時7月のユニバーシアードで銅メダル、10月の箱根駅伝予選会は日本人トップの5位。そして箱根駅伝2区では相澤とデッドヒートを展開し、敗れたものの、前年に塩尻和也(順大。現富士通)がマークした区間日本人最高記録を上回った。2人の並走はお互いの力を堂堂とぶつけ合う清々しさが感じられた。

●伊藤が粘り強い走りができる理由は?

高校で全国大会に出場できなかった伊藤は、卒業後は就職するか専門学校に行くつもりでいた。だが縁あって東京国際大に進学し、徐々に力をつけ始めた。
「やっているうちにライバルが現れてきて、記録も上がってきて、自分に可能性を感じられるようになりました。走るのはキツいですけれども、記録が出たり、駅伝で人を抜いたりできると楽しいですね」
伊藤の成長過程にライバルの存在は不可欠だった。ライバルに勝ちたい気持ちは、「途中であきらめたりしません。離されても着いていけば勝てるかもしれない」と粘り強いレースになって現れる。その対象がいつしか相澤になった。
と同時に、日本選手権がそうだったように、記録を出すことも伊藤の目標でありモチベーションになっている。
「陸上競技は記録が全て。せっかく途中まで頑張ったのに、キツくなったところからずるずる落ちてタイムが出なかったら、そこまで走ったことが無駄になってしまいます。あと3000mくらい頑張ってタイムが出るなら頑張ろうかな、と思えるんです」
ライバルと記録をモチベーションに走り続けてきた伊藤は、相澤との実業団初対決が終われば10000mの日本新を出していた。今後も相澤へライバル意識を持ち続けることで、伊藤も成長していける。

●相澤が「伊藤は特別な存在」とする理由は?

相澤も2つの目標設定の仕方をしていた。
1つは「五輪標準記録を破って日本選手権に優勝して代表になる」ことである。もう1つは「同学年選手には絶対に勝つ」こと。伊藤がモチベーションにしている「負けず嫌い」と「記録」に似た考え方だ。
相澤は福島県の強豪の学法石川高出身で、3年時に5000mで高校トップレベルの13分台(13分54秒75)を出していた。だが個人種目での全国大会出場はなく、13分台も3年時の冬に記録が出やすいレースで出したタイムだった。
同学年にはインターハイや国体の入賞者、全国高校駅伝花の1区(10km)で快走した有望選手が多数いた。同学年の中でトップを取ることは、相澤にとって大きな意味があった。
「大学入ったときも、この世代でトップになろうと決意して、4年生のときに学生トップになることができました」

実業団初戦はシーズン前半に故障があって10月にずれ込んだが、10000mで27分55秒76と自身初の27分台を出した。そのときも同学年の最高記録、阿部弘輝(23・住友電工)が学生時代に出した27分56秒45を越えたことがうれしかった。7月に27分58秒43を出していた伊藤に対しても、「伊藤ならいつでも出せると思っていましたが、先に27分台を出されるとやはり悔しかった」と正直に話していた。

その一方で、「学生時代は学年の違いも成績に影響しますが、実業団になったらそこは関係なくなります」と学年の壁をなくそうと意識していた。日本選手権前には「11年以降の優勝者全員が出場するレース。気持ちで引かないこと」を強く意識したという。
日本選手権優勝は11〜14年が佐藤悠基(34・SGホールディングス)、15年が鎧坂哲哉(30・旭化成)、16〜17年が大迫傑(29・Nike)、18年が大六野秀畝(28・旭化成)、19年が田村和希と、そうそうたるメンバーだ。
「自分より実績も実力も上の人たちばかりで、負けるんじゃないか、という気持ちがありました。それをなくして自分が勝つんだ、東京五輪に内定するんだ、という気持ちをどれだけ持てるか。そこを重視していました」
しかし走り始め、レース後半になったら同学年の伊藤が目の前を走っている。相澤は本能的に、同学年ライバルに負けられない、という気持ちに切り換わったのだろう。
それに伊藤は、相澤にとって「特別な存在」だった。
「伊藤と走ると限界を超えることができます。あの粘りは僕にはできないものです。それを何度も繰り返してくるから本当に手強いのですが、そこについて、その状況でも最後まで余裕をもって走ることができれば、自分のいいところが引き出せる。彼がいると実力以上のものが出せる気がします」
世界を目指す中でも同学年という枠を設けることで、集中力が増すケースを発見した。ニューイヤー駅伝で対戦することになったときも、その気持ちで走る方が結果も出る。
「実業団になっても同世代でトップを取り続けます。その中でも伊藤は、一番負けたくない選手です」
もちろん伊藤も相澤と同じか、それ以上の闘志を持ってニューイヤー駅伝に臨む。
「ずっと負け続けていますからね。そろそろ勝ってやろうと思っています」

伊藤の出場は現時点では4区(22.4km)の可能性が高い。設楽悠太(29・Honda)が復調して4区に入れば、伊藤は3区(13.6km)か5区(15.8km)に回る。相澤の出場区間は予想が難しいが、直接対決が実現したときは間違いなく、区間新決着を期待できる。
ライバルとして高め合ってきた相澤晃と伊藤達彦。ルーキー対決として過去最高レベル、なのではなく、ニューイヤー駅伝史上1・2番目のタイム持つ2人の対決になるのである。

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寺田辰朗(てらだ たつお)プロフィール

陸上競技専門のフリーライター。
陸上競技マガジン編集部に12年4カ月勤務後に独立。
専門誌出身の特徴を生かし、陸上競技の詳しい情報を紹介することをライフワークとする。一見、数字の羅列に見えるデータから、その中に潜む人間ドラマを見つけだすことは当代随一。
地道な資料整理など、泥臭い仕事が自身のバックボーンだと言う。選手、指導者たちからの信頼も厚い。
AJPS (日本スポーツプレス協会) 会員。

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