コラム

第4回

2019.9.11 0:00

服部勇馬
東洋大時代に30kmの新記録からマラソン挑戦
「距離走はジョグ」と言い切るスタミナでラスト5kmの勝負を挑む

日本男子マラソンの充実を印象づけたのが、服部勇馬(トヨタ自動車)の昨年12月の福岡国際マラソン優勝だった。レース後に陸連幹部が「4強になった」とコメントしたことで大迫傑(ナイキオレゴンプロジェクト)、設楽悠太(Honda)、井上大仁(MHPS)に肩を並べた。4強の中では最年少。
2時間07分27秒の自己記録も4番目だが、外国勢が勝ち続けてきた福岡国際で14年ぶりに勝った点は高く評価された。
10000mでは27分台を持っていないが、ただひとり学生時代からマラソンに出場してきた。
レース終盤での失速という課題に早い段階で向き合い、それを克服することでMGCでも武器となる終盤の強さを手に入れた。

■服部勇馬(マラソン全成績)
回数|年月日|大会|順位(日本人) 記録
1|2016.2.28|東京|12位(4) 2.11.46.
2|2017.2.26|東京|13位(4) 2.09.46.
3|2018.5.6|プラハ|5位(1) 2.10.26.
4|2018.12.2|福岡国際|1位(1) 2.07.27.

記者会見で静かな闘志

MGCに出場するトヨタ自動車勢4人(藤本拓、宮脇千博、服部、堀尾謙介)が8月上旬、合宿先の北海道士別市で会見した。服部はいつもの静かな口調だったが、「持ちタイムが上の方々」と言った後に、次のように補足した。
「海外で優勝した方、海外で日本記録を出された方、暑い中でも優勝した方。強い方たちに自分も見合う選手になれるよう、やれることをしっかりやって、代表権に挑戦したい」

海外で優勝したのは、今年7月のゴールドコースト・マラソンに2時間07分50秒で優勝した設楽のことだ。海外で日本新を出したのは、昨年のシカゴで2時間05分50秒の日本新を出した大迫。暑い中で優勝したのは、昨年8月のアジア大会で日本人32年ぶりの金メダルを獲得した井上のこと。
2時間5〜6分台の記録を持つ先輩3人に勝つと、名指しに近い形でコメントしたのである。
4強の中で最年少の服部だが、初マラソンは最も早い。東洋大4年時の16年2月に東京マラソンに出場した。東洋大の酒井俊幸監督が、服部がマラソンで世界を狙える素材だと評価していたからだ。東京五輪を狙うなら、リオ五輪を本気で狙うことが経験になると考えた。

服部は距離が長くなるほど適性があると感じさせる選手だった。
大学2年時に熊日30kmで1時間28分52秒の学生新をマーク。
前年に東洋大の先輩である設楽啓太(現日立物流)が、学生として初めて1時間30分を切る1時間29分55秒で走ったが、それを1分以上も更新する驚異的なタイムだった。
箱根駅伝2区でも3年、4年と連続区間賞を獲得。
エース区間の2年連続区間賞は、日本選手では渡辺康幸(当時早大)以来20年ぶりのことだった。

だが初マラソンでは洗礼を浴びた。日本人の集団から30km過ぎで抜け出し、35kmまでを14分54秒にペースアップ。35km過ぎで先行していた村山謙太(旭化成)を抜いて日本人トップに立ち、そのまま押し切るかと思われた。だが、37km付近からペースダウンし、40kmまでの5kmは15分56秒も要してしまった。40km過ぎに高宮祐樹(ヤクルト)に日本人トップを譲ると、フィニッシュでは12位(日本人4位。2時間11分46秒)まで後退した。
「リオ五輪の選考レースでは悔しい思いをしましたが、自分が成長できたのはたくさんの試合で負けたからです。失敗を糧としてやってきたので、MGCではここまでやってきたことを発揮したい」
服部の静かな闘志が伝わってきた。

ジョグのタイムを距離走に近づけ、ジョグの動きでスピードを出す

福岡国際で優勝した後に服部を取材していて驚かされたのが、「距離走はジョグの部類に含まれます」という言葉だった。30km走や40km走は、負荷の大きいポイント練習と位置づけられるのが普通である。距離走をやったら翌日に、リカバリー(回復)のために負荷の小さいジョグを行う。
服部も厳密には、「40km以上の距離走とロングジョグの2つ」に分類している。トヨタ自動車に入社して距離走のペースを速くしたことで、ロングジョグとのタイム差が大きくなった。「動きが定まらなくなってしまった」と、マイナス面を感じたので、ロングジョグのタイムを距離走に近づけ、どちらもジョグと位置づけた。
文字にすると簡単なことのように思えるが、本来負荷をかけないジョグのペースを上げることは、勇気が要る。

服部は17年東京で2時間09分46秒と自己記録は更新したが、初マラソンと同様、終盤で失速した。その後は故障もあって1年以上マラソンに出られなかったが、距離走をジョグと位置づけて走ることで、スタミナは確実についていた。18年5月に出場したプラハマラソンは2時間10分26秒だったが、レース後半で「ジョグの動きでも1km毎を3分2〜3秒までスピードを上げられる」と手応えを得た。
18年の福岡に向けては、終盤の課題を克服するために、月間1000km以上を走り込んだ。典型的なスタミナ型のランナーだが、スピードをおろそかにしてきたわけではない。
「練習の距離を増やしたからといって、400mや1000mのスピードが落ちてはいません。動きを統一したことで、リズムを変えるだけで(ストライドを大きくしなくても)スピードを変えられるようになりました」
福岡では35kmまでの5kmは15分17秒だったが、40kmまでを14分40秒にペースアップしてアフリカ勢を振り切った。
2位のイエマネ・ツェガエ(エチオピア)は2時間04分48秒の自己記録を持つ強豪だが、35km以降で1分27秒もの差をつけた。10000m27分台の記録を4強のなかでは唯ひとり持っていないが、ペースチェンジの能力は高い。

ちなみに福岡は、スタート時の気温が20.2℃。
12月開催の福岡としては過去最高気温の中で行われていた。服部は大学の研究室と提携して自身の汗の成分を分析し、給水も2種類用意するなど対策を講じていた。夏のマラソンでも耐暑能力の高さを期待できる。

「マラソンはラスト5kmで勝負がつく」

MGCは季節が違うので、福岡前とは練習のタイム設定が異なるし練習場所も違う。
45km走は福岡前も行ったがMGCに向けては初めて、高地の米国ユタ州パークシティで行った。それでも“練習のベース”は、福岡と同じだと服部は話す。
「福岡で走れたといっても、マラソン終盤の怖さを払拭できたわけではありません。ただ、こうしたらマラソンを走り通せると、少しずつ見えてきました。福岡の前と練習のベースは変わっていませんから、(最後まで)走って行ける手応えは持てています」

MGCは終盤に上りがあるが、難しいコースという感覚はない。「試走をしてもそこまで上っているとは感じませんでした」
以前の取材にも「最後に上って終わるところは箱根の2区と似ています。相手もレベルも違うので比較はできませんが、経験したことのあるキツさになる」と答えている。
箱根駅伝2区を経験した選手では、堀尾も「2区の最後の坂を超えるコースはなかなかない」と話していた。
レース展開について服部は、士別の会見で以下のように展望した。
「上りの前までにレースは動くんじゃないかと思っています。そういったところで絞られていって、最後には力のある選手が残る。自分が勝つとしたら、冷静に走って余裕がある状態で終盤まで行く展開でしょう。マラソンはラスト5kmで勝負がつくと思っていて、そこのために練習しています」

距離走とジョグを同じ練習カテゴリーに分類し、ジョグの動きでマラソンのレースペースにも対応する感覚を持てるまでになった。
福岡と同じように「リズムを変えるだけ」と残り5kmでスイッチを入れられたとき、4強最年少の服部が勝機をたぐり寄せる。

BACK TO PAGETOP