コラム

第1回

2019.9.5 0:00

大迫傑
優勝候補筆頭の大迫はマラソンと5000mの日本記録保持者
スピードが武器だが耐暑能力も高い選手

2時間05分50秒のマラソン日本記録保持者、大迫傑(ナイキオレゴンプロジェクト)をMGCの優勝候補に推す声は多い。
5000mの日本記録を持ちリオ五輪までトラックでも代表の常連だった。
17年にマラソン進出。距離を延ばしても対応する力を見せてきた。
“スピードに裏打ちされた強さ”をMGCでも発揮する。

■大迫傑(マラソン全成績)
回数|年月日|大会|順位(日本人) 記録
1|2017.4.17|ボストン|3位(1) 2.10.28.
2|2017.12.3|福岡国際|3位(1) 2.07.19.
3|2018.10.7|シカゴ|3位(1) 2.05.50.
4|2019.3.3|東京|DNF(-) 30km手前
*DNF=途中棄権

マラソンとトラックを短い期間内に両立

大迫は7月22日のホクレンDistance Challenge網走大会10000mに出場し、27分57秒41で3位(日本人2位)に入った。MGC2カ月前を切ったタイミングでトラックを走った。
同じレースには設楽悠太(Honda)、佐藤悠基(日清食品グループ)、河合代二(トーエネック)ら、MGCに出場する他の有力候補も出ていたので、大迫だけの特徴ではない。しかし大迫の早大時代の恩師である渡辺康幸住友電工監督は、「僕らの頃には考えられなかったこと。2カ月前は走り込む時期」と、ひと昔前との違いを指摘した。
レース後の大迫に、「今日(網走)の走りはマラソン用の動きなのか?」と質問した。
「動き…というか、2カ月前ですからマラソン練習をしていないといけない時期ですよね。なので、ご想像の通りです。しっかりマラソン練習をする中でどこまで走れるかにチャレンジしましたが、練習としてしっかり走れたので良かったと思います」

おそらく大迫は、マラソンでも動きが大きく変わらない(某ライバル選手の指導者もそう話していた)。だからマラソン練習の真っ最中でも10000mを27分台で走ることができる。
とはいえ、マラソンは1km3分前後のペースなのに対し、トラックなら2分45秒前後。違いは大きい。マラソンの前半で「足が詰まる(小さなストライドになって窮屈に感じること)」と感じ、いらいらしてしまうスピードランナーもいる。
17年福岡国際マラソンで2時間07分19秒の3位(日本人トップ)と好走した後の取材で、その点を確認したことがあった。
「スピードは抑えた練習もしていたので3分ペースが、特に速いとか遅いとか感じることはありませんでした」
リズムが合わなくても焦らないなど、メンタル面が影響することかもしれないが、大迫はマラソンのリズムとトラックのリズムを、一定期間マラソン用の練習をすれば両立させられる選手なのだ。

ペース変化への大迫の実績

MGCのペースがどうなるのかは予測できないが、冬場のマラソンよりも遅くなるのは確かである。だが必ず、誰かがどこかでスパートする。上りの走りに自信のある選手は37kmからの上りで勝負を仕掛けられるが、坂の手前でスパートして引き離そうとする選手が現れる可能性も高い。上りに苦手意識のある選手や、早めのスパートで勝負に出ようとする選手たちだ。
いずれにせよ、これだけのメンバーが揃ったからには、短いスパートで勝負が決するとは思えない。スパートを何kmも持続させるか、2段構え、3段構えで何度もスパートすることが必要になるだろう。

その点でも大迫は実績がある。
日本記録を出した18年シカゴでは、25km以降の5km毎を14分27秒、14分31秒、14分43秒で駆け抜けた。他の2時間6分台の選手はイーブンペースか、前半の貯金で2時間6分台を出している。レース後半で、ここまで速く走った日本選手は他にいない。
大迫は駅伝でも、集団から思い切って飛び出す展開を何度も実行してきた。高校3年時の全国高校駅伝1区、大学1・2年時の箱根駅伝1区、実業団時代(日清食品グループに1シーズン所属)のニューイヤー駅伝1区と、すべて自ら仕掛けて区間賞を取り続けた。

少し細かく振り返ってみよう。
高校駅伝1区は10kmだが、大迫は残り2.5kmでスパート。「7kmからの下りで勝負と思っていた」と、当時の取材に答えている。箱根駅伝1区(21.4km)は、2回とも12km手前で独走に持ち込んだ。スタートして1kmで前に出始めた1年時には「タイムは考えず、自分の感覚で押して行った」と話した。
MGCはラスト1kmで上りが終わり、僅かながら下りになる。大迫が唯一出場した2015年のニューイヤー駅伝1区(12.3km)は、残り1kmでスパートして区間2位に5秒差をつけた。「残り1kmから仕掛けると決めていました。予定通りの展開」と、TBSの現場インタビューに答えている。
MGCでは、フィニッシュ前100〜200mの勝負に持ち込みたい選手はいないだろう。リスクが大きすぎる。いるとすれば、トラックの日本選手権をラスト勝負で何度も勝ってきた佐藤悠基くらいだろうか。大迫もトラック日本選手権では佐藤に負け続けた。
だが、佐藤がマラソンに軸脚を移し日本選手権を回避するようになると、10000mでは大迫が16年、17年と2連勝した。
MGCは2位に入れば東京五輪代表に内定する。最初から2位狙いの走りをすることはないが、レース中の判断で大迫が残り100〜200mの勝負に持ち込む選択肢はある。

暑さに強い実績も本人はメンタル面を強調

MGCの勝敗に影響する大きな要素として耐暑能力が挙げられる。大迫は夏のマラソンこそ経験していないが、トラックでは暑さの中でも実績を残してきた。
2011年には8月の深圳ユニバーシアード10000mで金メダルを獲得。16年8月のリオ五輪10000mでも27分51秒94と、近年の国際大会では唯一の27分台で走った。極めつけは17年7月の網走だ。気温25度、湿度76%の条件下で27分46秒64をマーク。日本人2番手の中村匠吾(富士通)に約30秒差をつけた。

これも17年の福岡国際のあとの取材で、同年の網走の例を出し「暑さは得意なのではないか」と話を振った。
それに対して大迫は次のように答えていた。
「得意意識もないですし、苦手意識もありません。自分が考えているのは、どんな環境でも走れることなんです。そういう心をつくりたいと思っています。そういうところは、メンタルだと思っています」
暑さへの対応は精神力にも左右される。それが大迫の持論なのだろう。

大迫は今年も網走を走った後、8月10日にダラス(米国テキサス州)でハーフマラソンを走り、1時間02分23秒で優勝した。2位とは大差だったので、ほとんど独走だったと推定できる。当日のダラスは気象サイトの情報では、最高気温が32℃、最低気温が28℃だった(湿度は59%)。
スピードが一番の武器である大迫が、暑さのためスローペースとなったMGCで、耐暑能力を発揮して勝つ可能性も十二分にある。

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