報道の魂
ホウタマ日記
2015年07月24日 「女仙人が見た東京大空襲とフクシマ」 放送後記 (丸山 拓)
ドキュメンタリーでもドラマでもバラエティでも、テレビ番組には放送時間というものがあって、当たり前のことだが、番組製作者はその「枠」から逃れることはできない。

「報道の魂」の場合もVTRの長さは24分00秒で、それより1秒長くても1秒短くてもいけない。したがって凄くたくさん取材をしてカメラを回しても、どうしても入りきれずに残念ながらカットせざるを得ないエピソードが必ずある。しかも、そこが取材者としてはとても好きなエピソードだったりする。

10万人以上が亡くなったと言われる「東京大空襲」を生きのびた女学生の石崎美恵さんは自宅があった場所に戻ってみたが、形になって残っているものは何もなかった。かろうじて見つけられたのは、仏壇にご飯を供える真鍮製の器くらいだった。近くに水が出る場所があると聞いて、水を汲んでいると、家が焼け残ったという友達に会った。その友達が「これから困るだろうから」と言って石崎さんにくれたのが1本の万年筆だった。

僕はたずねた。

「なぜ、万年筆だったんですかね?」
「手紙を書くのに万年筆が焼けちゃって無いでしょ。私は万年筆を2本持っているから1本あなたにあげるわ、って言って」
「焼け跡で?それは自分に手紙を書いてね、って意味なのかな?」
「そうそう、鉛筆も1本もないしね」

住む家を失った石崎さん一家は弟が疎開していた新潟に向かうことが決まっていた。見渡す限り焼け野原になった東京の片隅で友人から差し出された1本の万年筆。

もし仮に自分が東京大空襲を舞台に小説を書け、と言われたとしても、このシチュエーションは思いつかないだろう。実際に現場で起こることは、いつだって僕ら取材者の陳腐な想像力を超える。

石崎さんは疎開先から、その万年筆で彼女に手紙を書いた。

戦後70年がたつ。その万年筆も、もう残っていない。

丸山 拓
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