報道の魂
ホウタマ日記
2007年07月18日 「著作権“70年”論争」 放送後記 (秋山浩之)
著作権“70年”論争〜文化は誰のものか〜
TBS報道局編集部 秋山浩之

あなた論争好きですね?…そう指摘されることがあります。確かに振り返ってみると私が『報道の魂』で制作してきたものは、すべて論争を描いたものです。

「実名報道」の是非、「少年法」の是非、そして今回は「著作権延長」の是非…。伯仲する議論の先にしばしば将来の社会の形が見えてくることがあります。だからこそ私は論争を描いてきました。しかも敢えて「メジャーではない」論争を取り上げて来ました。「憲法改正」「靖国参拝」などのメジャーな論争は、どの報道番組でも取り上げられます。けれども社会には遥かに多様な論争が至るところで起きています。しかもそのディテールに迫ると大変に知的で奥深い議論に遭遇します。そうした多様な議論をくみ上げて番組を作って来ました。

ありがたいのは『報道の魂』が30分間ワンテーマで制作できることです。論争の中身を描くにはそれなりの時間が必要です。普段のニュースからこぼれ落ちる多様な議論をすくい上げてじっくり伝えること…。これが私なりの『報道の魂』論でもあります。

さて、今回のテーマ「著作権」です。

森進一「おふくろさん」騒動、中国の偽ディズニーランドなど、著作権をめぐるニュースが注目を浴びる昨今ですが、著作権保護期間の延長をめぐってホットな論争が起きていることはあまり知られていません。かくなる私も福井健策弁護士とお会いするまで延長問題についてよく知りませんでした。

ものは試しにとカメラマンを連れて最初の取材に伺ったのが、3月に慶応大学で開かれた公開トークでした。延長賛成派、反対派、双方の論客による議論が白熱するなか「これは奥深いテーマだ」と引き込まれて行きました。延長反対派の佐野眞一さんや林紘一郎さんの意見を聞いてはうなずき、延長賛成派の瀬尾太一さんや三田誠広さんの話を聞いても納得してしまう自分がいました。正論と正論とがぶつかり合う極めて刺激的なトークイベントでした。取材を終えた私は、この議論を素直に両論併記して番組にしようと思いました。

番組タイトルもすぐに思い浮かびました。『文化は誰のもの?』…小説であれ音楽であれ、あらゆる文化は創作者「個人のもの」であると同時に、受け手となる「社会のもの」でもあります。著作権とは両者の利害を調整して文化の発展に寄与するためのルールです。権利が強すぎるあまり文化が廃れては著作権の意味がありません。つまるところ著作権問題で問われているのは「文化は誰のものか?」という命題であり「文化をどう守る?」「文化をどう育てる?」という課題なのです。

漫画化の松本零士さん、青空文庫の富田倫生さんを取材してみて思ったのは、延長に賛成するひとたちも反対する人たちも、文化に対する“熱い思い”は一緒だということでした。
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