コラム

2021年11月25日更新 text by 寺田辰朗

第4回ダイハツはエース松田が故障明けで、ルーキー加世田の走りがカギに
ピンチをチャンスに変える駅伝を

内容

優勝こそないものの、ダイハツは宮城県開催となった11年以降で3位以内に4回も入っている上位常連チームだ。
だが今季は、ピンチと言える状況に追い込まれている。エースの松田瑞生(26)は左大腿肉離れでプリンセス駅伝を欠場し、(負荷の大きい)ポイント練習を再開できたのは11月に入ってから。他にも故障や病気で苦しむシーズンを送った選手や、プリンセス駅伝で失敗した選手が多い。
しかし明るい材料もある。その一番は、主要区間で上位が期待できる加世田梨花(22)が加入したこと。大学女子駅伝で大活躍し、日本代表に成長する期待を持てる選手である。加世田だけでなく、新たなチャンスを与えられる選手もいるし、復調のきっかけをつかみそうな選手もいる。
起爆剤となる走りをする選手が現れれば、快走が続く可能性を持つチームだ。

●故障明けの松田は冷静な走りで区間上位を

本来ならクイーンズ駅伝が、再起に向けて狼煙を上げるレースとなるはずだった。だが10月に入って左太もも肉離れを発症してしまい、約2週間練習ができなかった。プリンセス駅伝を欠場してクイーンズ駅伝に合わせてきたが、万全のところまで立て直せていない。
松田は東京五輪マラソン補欠選手として、最後の最後まで本番を走るつもりで練習を進めていた。補欠が解除されたのは、レース(8月7日)数日前だったという。
東京五輪女子マラソンの日は大阪の実家にいた。「レースは見ない」とベッドに入ったが、色々な思いが脳裏に浮かんでは消え、朝まで眠れなかった。結局、6時スタートの女子マラソンをテレビで見た。涙が止まらなかったという。
レースを走らなくても、ぎりぎりまで走るつもりで調整をするとダメージは残る。「代表選手と同じ気持ちで外国勢と戦う」という緊張感を、東京五輪の1年延期で1年半も持ち続けた。山中美和子監督はメンタル面も考慮して、8月いっぱいは休養させたという。

9月にチームの練習に合流し体を作り直し始めたが、何かのバランスが崩れていたのかもしれない。10月に肉離れを発症してしまった。
松田の話しぶりからすると、クイーンズ駅伝は3区ではなく、昨年走った1区か5区が有力のようだ。スピード練習がしっかりできれば1区、そうでなければ自身初の5区になる。
「5区は走ったことのない区間なので、楽しみでもあるんです。いっぱい選手を抜きたい」
準備不足は否めないようで、区間賞など高い目標は口にしない。マラソンで来年の世界陸上オレゴンの代表に入ることが当面の目標で、「5月のハーフマラソンからレースを走っていないので、レース勘を養いたいですね。マラソンにつながる走りができれば」と冷静に話す。
5戦3勝のマラソンはもちろん、10000mも日本選手権で2連勝するなど個人種目では実績を残している松田だが、意外なことにクイーンズ駅伝の個人成績はいまひとつである(3区では区間6位が最高)。直前に小さな故障をしたこともあるが、意気込みすぎて空回りすることが多かった。それに対して今年はそこまで入れ込んでいない。肩の力が抜けた走りをすることで、駅伝で初めて区間賞争いをする可能性はある。

●大物ルーキーの加世田が五輪代表たちに挑戦

対照的に加世田は、高い壁に挑んでいく高揚感のようなものを感じている。
学生時代は女子長距離ナンバーワンと言える実績を残してきた。大学3、4年と全日本大学女子駅伝エース区間の区間賞を2年連続でとり、在学中は名城大4連勝に貢献した。個人でも大学2年、4年時に日本インカレ10000mに優勝した。
しかし、区間賞争いも期待されたプリンセス駅伝3区では、7人抜きの走りだったが区間5位にとどまった。14位と想定より悪い順位でタスキを受け取った影響もあったのかもしれない。
「最低でも区間3位以内では走りたかったです。前半の起伏でペースをつかめず、差がなかなかつまらなかったので焦りが出てしまいました。クイーンズ駅伝ではその反省を生かし、前半からしっかり身体を動かしていきます」
プリンセス駅伝の前半は、学生ナンバーワンだった選手として失敗できない、という心理が働いたのかもしれない。だがクイーンズ駅伝では、挑戦者の立場で思い切りぶつかっていくことができる。
「クイーンズは大学までとは違うと思っています。周りが強くて当然で、五輪ランナーの方たちとも一緒に走ると思いますが、壁を作らずに挑戦したい。山中監督からも、失敗してもいいから勝負しなさい、と言われています。相手の力を借りて自分の100%を出せたらいいですね。手が届かないレベルの選手たちに挑んでいくのは久しぶりの経験。こんなにワクワクする駅伝は大学1年生以来です」

3区出場が有力だが、現状では新谷仁美(積水化学・33)、廣中璃梨佳(JP日本郵政グループ・21)、萩谷楓(エディオン・21)ら東京五輪代表選手たちと、個人種目の実績では差がある。しかしその差を一気に縮めることも不可能ではない。
学生時代の加世田は世代ナンバーワンの存在ではあったが、5000mの記録など毎年少しずつしか更新していない。その間に蓄積されたものがあり、格上の選手たちと走ることで潜在能力が引き出されることもありそうだ。
「廣中さんや萩谷さんたちは下の学年ですが、目標として近づきたい存在です。インターハイなどで一緒に戦ってきた子が世界で活躍するなら、私も行けるはず。彼女たちを超えていけば、自分にもチャンスがあると思っています」
予選会であるプリンセス駅伝のように、落選したらどうしよう、という怖さはクイーンズ駅伝にはない。相手が格上というプレッシャーは感じるかもしれないが、思い切りぶつかっていきやすい大会である。加世田が快走してチームを上位に浮上させれば、間違いなくダイハツ全体に勢いがつく。

●後半区間は上位の流れをキープできるメンバー

今季や最近の走りはいまひとつでも、実績を持つ選手が力を発揮すれば、ダイハツは3位に迫る力がある。
武田千捺(21)は昨年のクイーンズ駅伝2区に入社2年目で初出場し、憧れの松田からタスキを受け取った。3秒先にスタートした積水化学の卜部蘭(26)を目標に走り、区間2位と予想以上の結果を残した。
しかし、その後「半年間くらいケガ」(武田)をしてブランクが生じた。
「精神的にもつらかったのですが、ここを耐えたらまた去年みたいな走りができる。『今は耐えろ、耐えろ』と思って頑張ってきました。スタッフの励ましもあって続けることができたので、感謝の気持ちも強くなりました。駅伝に間に合って良かった」

9月には3000mで9分14秒35と自己記録を大幅に更新。プリンセス駅伝は2区で区間新の区間4位。武田が再び快走を見せる準備が整ってきているようだ。
下田平渚(23)はプリンセス駅伝1区で区間21位のブレーキをしてしまった。「練習ができていないわけではないのに、中間点くらいから身体が動かず、ずっとしんどかったです。申し訳ない気持ちでいっぱいで、その悔しさを忘れずに合宿で頑張ってきました」
山中監督から「これが下田平の実力じゃないから、クイーンズ駅伝に向けて頑張っていこう」と声をかけられたことも、気持ちを切り換えるきっかけになった。
クイーンズ駅伝では2年連続で走っている4区を希望している。19年は11分18秒で区間7位(日本人1位)、前回は11分31秒で区間9位(同2位)だった。
「11分20秒切りで日本人トップが目標です。自分は身長が高いので、外国人選手が近くにいた方が動きを合わせやすい。一昨年はそれができたんですが、昨年は単独走になってしまって。今年は外国人選手が近くにいてほしいですね」
プリンセス駅伝では失敗したが、9月には3000mで自己新をマークし、5000mでも自己記録に迫った。3区の加世田が上位を確保すれば、下田平もその位置をキープして5区の松田か上田雪菜(23)にタスキをつなぐだろう。
その上田が、入社2年目でクイーンズ駅伝に初出場する。出場区間はプリンセス駅伝と同じ5区か、「昨年一番下見をした」という6区か。場合によっては1区の可能性もある。

筑波大3年時には日本インカレ5000mで2位、10000mで3位になった学生トップランナーだった。だが実業団で活躍するには力不足で、1年目はチーム内のメンバー争いを勝ち抜けなかった。今年のプリンセス駅伝5区は区間7位。実業団初駅伝の緊張が前半の走りに出てしまった。「追いつかれて並走して、やっとリズムをつかめた」という。
スピードというより持久型で「一定のリズムで淡々と走る」ことを得意とする。大学4年時にはハーフマラソンを1時間10分49秒で走り、将来的には「マラソンで活躍したい」という。
適性があるのはやはり、5区と6区ということになる。
「(5区なら)距離が長いのは私にとって良いことです。前半良いペースにはまれば、そこからは押していく走りができると思います。強い選手が周りにいても流されることなく走り切りたい。(6区なら)コースがやや下り傾向なので、突っ込んでどこまで持つかの勝負だと思う。前だけを見て走り続けることが求められます」
4区候補の下田平、5・6区候補の上田と、レースの流れを変えることはできないかもしれないが、流れをキープする走りはできる。
ダイハツには20年の全日本実業団ハーフマラソンに優勝した竹山楓菜(26)もいる。もともとは中距離選手だったので、短い距離の2・4区にも、スタミナ型の選手向きの5・6区にも起用できる。
松田が故障明けのため、レースの流れを作る役割は3区候補の加世田に期待することになる。あるいは1区で好位置に付けたとき、2区候補の武田もその走りができる。前半で上位の流れに乗れば、今年もダイハツは3位以内に食い込んでくるのではないか。

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寺田辰朗(てらだ たつお)プロフィール

陸上競技専門のフリーライター。
陸上競技マガジン編集部に12年4カ月勤務後に独立。
専門誌出身の特徴を生かし、陸上競技の詳しい情報を紹介することをライフワークとする。一見、数字の羅列に見えるデータから、その中に潜む人間ドラマを見つけだすことは当代随一。
地道な資料整理など、泥臭い仕事が自身のバックボーンだと言う。選手、指導者たちからの信頼も厚い。
AJPS (日本スポーツプレス協会) 会員。