コラム

2018年11月18日更新 text by 寺田辰朗

第2回日本郵政、V奪回への戦略と選手たちの意気込み
勝敗を左右するエース2人(アユリナ)の走り

内容

JP日本郵政グループは、鈴木亜由子(27)、関根花観(22)、鍋島莉奈(24)の代表経験トリオがチームを支えてきた。
創部3年目の一昨年は、故障明けの鈴木は2区に回ったが、3区の関根がエース区間で好走し、5区の鍋島が逆転して初優勝を飾った。
昨年は鈴木1区、鍋島3区、関根5区と3本柱が主要3区間に入り、2連覇濃厚と思われたが3位に終わった。
駅伝で勝つことの難しさが表れていた。V奪回を狙う今回、日本郵政はどんな戦略で戦おうとしているのか。

3年ぶりにケガの影響なく駅伝に臨む鈴木

鈴木が今年は、大会前のケガなくクイーンズ駅伝に臨むことができそうだ。
日本郵政の区間編成を考える上で、一番の核がしっかりしてきた。ただ、関根の状態が上がらず、主要区間を外れるかもしれない。
3強ではダイハツが前田彩里(27)の欠場を表明している。パナソニックも森田詩織(23)が主要区間を外れる可能性が高い。
3チームとも万全でない状態での戦いになるが、そのなかではパナソニックが森田香織(23)、堀優花(22)、渡邊菜々美(19)の3本柱が主要区間に入る。
日本郵政がそれに対抗するには、3区・5区を分担する“アユリナ”こと鈴木と鍋島の2人が、ライバルチームに差をつける走りが必要になる。

鈴木は自身の役割を明確に意識している。
「エース区間を走る準備をしてほしいと監督から言われています。そこで役割をしっかり果たし、チームに勢いをつけたい。精神的にもチームに安心感を与えられたらと思っています」
今季は8月の北海道マラソンに優勝し、狙い通りにMGC出場資格も得た。
個人種目で夏に一度ピークを持っていくのは、トラックで3年連続国際大会に出ていた昨年までと変わらない。その鈴木が年頭に立てた目標が「MGC出場権獲得と駅伝の優勝」だった。

創部以来、ずっとキャプテンを務めている。
昨年は言葉を吟味して、チームの意識を高めるために発してきた。だが今年は「原点回帰です」と、自身の背中でチームを牽引する姿勢を強くしている。
「駅伝にも真摯に取り組むことで覚悟を伝えないと、若い子たちの本当のモチベーションにならないのかな、と思いました。会社は私たちの活動支援を実業団としてまっとうしてくれています。会社にも、応援してくださる社員の皆さんにも、私たちの気持ちをきちんと伝えたい。そのためには一番上を目指す気持ちで取り組まないと。やっている私たちも、その方が楽しいし気持ちが充実します」
鈴木が故障の影響なく駅伝を走ったのは、15年のプリンセス駅伝3区くらい。
福士加代子(ワコール)や鷲見梓沙(ユニバーサルエンターテインメント)、松崎璃子(積水化学)ら日本代表実績のある選手たちが揃うなかで区間賞を獲得し、15人抜きを演じて見せた。
気持ちが充実している今回、3区か5区に登場する鈴木はそのときに匹敵する快走を見せるだろう。

駅伝V2を逃した反省を生かして日本選手権に2連勝した鍋島

鍋島のトラックシーズンは、大きな成長を感じさせるものだった。
5000mで日本選手権に優勝したのは昨年も同じだが、今年は「駅伝で2連勝できなかった反省を生かして2連勝したい」と、有言実行の日本選手権2連覇をやってのけた。
昨年の世界陸上ロンドンに続き、今季もユージーン・ダイヤモンドリーグで自己記録を更新。海外でも活躍した。

鍋島が駅伝のV逸で“反省”したのは、勝つための準備をチームとしてしっかりと行うことだった。
その反省を個人に当てはめ前年と同じパターンの結果を残したが、そのなかでも新たなパターンに挑戦していた。
5月には米国、日本、日本、米国と24日間で4連戦。
ハードなスケジュールの中で1500m、3000m、5000mの自己新をマークした。
高橋昌彦監督は「鍋島が一回り大きくなるために」と、あえて強行スケジュールを課し、7月にもダイヤモンドリーグを2連戦。

1戦目のラバト(モロッコ)の5000mでは世界トップレベルの選手のスピードに対応できなかったが、2戦目のロンドンの3000mでは進境を示し、8分48秒21の日本歴代2位をマークした。トレーニングも世界的な選手と同じ場所で行うことで「鍋島の練習のペースが無意識に上がった」(高橋監督)という。
鍋島自身は駅伝の走りと個人の走りは、明確に違うと感じている。
「練習の仕方も駅伝前はケガに対して慎重になるところが出てきますし、ペース配分も個人の方が思い切り行けます」
トラックの走りがそのまま、駅伝でできるわけではない。だが今季の鍋島は前年よりもレベルの高い取り組みを行い、そのなかでも出すべき結果はしっかりと出した。
メダルを狙ったアジア大会で4位になるなど完璧ではなかったが、鍋島の地力が向上しているのは疑問の余地がない。

鈴木と鍋島の起用区間を考えるとき、タイプとしては差が大きい相手を追うのは鈴木に実績がある。
鈴木は3年前のプリンセス駅伝でゴボウ抜きを見せたし、今年の北海道マラソンでも一時は50秒以上開いたトップ選手との差を逆転した。
1〜2区でトップ集団から大きく後れない手応えがあれば、日本郵政は鍋島を3区に起用して確実にトップに出るプランを描ける。1〜2区に不安があれば3区に鈴木を起用して、追い上げられる布陣にする。
細かいチーム状況まではわからないので憶測の域を出ないが、そういう考え方ができるように思える。

合宿地を変えた高橋監督の狙い

高橋監督はクイーンズ駅伝直前の合宿場所を、今年はアルバカーキ(米国)に変更した。
昨年は9月中旬から10月中旬にかけて半数がボルダー(米国)で合宿し、10月中旬の記録会を経て、全員が11月に2週間徳之島で合宿を張って本番に臨んだ。
今年は9月中旬から、アジア大会に出た鍋島と北海道マラソンを走った鈴木を除き、東京でそろって練習を行った。
そして両エースも合流して10月下旬から3週間、アルバカーキ合宿を行った。同じ高地でもボルダーより南に位置し、11月でも雪の心配がない。

変更理由を高橋監督は次のように説明する。
「リオ五輪前から陸連合宿などでアルバカーキに行き始めて、土地勘が出てきたというか、どういうコースがとれるかがわかってきて、行くべきタイミングもわかってきました。昨年まではボルダー合宿組と国内組で分かれていたので、チームをまとめる難しさもあった。今年は9月中旬からスタッフも含めて全員が一緒に活動し、鈴木と鍋島は9月いっぱい休みましたが、他の全員を一緒に強化しました」
アルバカーキではパナソニック、ダイハツ、天満屋、資生堂、豊田自動織機、エディオンと7チームが同時期に合宿を行ったが、練習が一緒になることはほとんどなかったという。
「ウチがトラック練習をあまりやらないからかもしれません」と高橋監督。パナソニックの選手に聞いても、他チームの練習内容は気にしないようにしているという。
どこのチームも同様かもしれないが、日本郵政の駅伝前の練習は鈴木や鍋島レベルには合わせない。
「ギリギリを攻めた練習ではない」と高橋監督は説明する。
「足並みを揃えることを優先します。かといって守りに入っているわけではありません」
追い込み過ぎないが、追い込まないわけでもない。現場を預かる指導者にとっては腕の見せどころだろう。

過去2シーズン、クイーンズ駅伝の前に故障があった鈴木が今回はケガをしていない。もちろん鈴木自身の努力が大きいが、高橋監督も練習の組み方を工夫している。
「鈴木も鍋島も故障明けでしたし、(スピード的に)大きな負荷はかけませんでした。無理をして走れなくなってしまうことは絶対に避けないといけません。ただ、距離は踏むようにしました。鈴木の場合は北京世界陸上(5000mで9位の健闘)の前もスピード的な負荷よりも、距離を優先して作りました。去年の鈴木は1人で追い込んでしまっていましたし、鍋島と競り合って質を上げすぎていたところもありましたね。今年はそこまで競り合わせず、2人に全体のペースメーカー役になってもらいました」
北海道マラソンに出るために距離を走り込んだときも、鈴木は練習ではそれほどスピードが落ちなかった。
少ないスピード練習でも、レースになればスピードを出せるのが鈴木の強さだろう。

欠かせないエース2人以外の走り

エース2人の力を生かすには言うまでもなく、他の4人の走りが重要になる。
3区・5区には各チームのエースや代表クラスの選手がそろう。
どんなに強い選手でも1人で30秒差をひっくり返すのは難しい。日本郵政の2年前の優勝時も、1区がトップから11秒差の区間4位と好走した。

3月の名古屋ウィメンズマラソンで日本人1位となった関根はその後、競技的な体調を整えることができず、試合も練習の一環としての走りが続いている。5月の仙台ハーフは1時間12分42秒、9月の日体大長距離競技会3000mは9分39秒84だった。
今回の駅伝では2年前のように、関根にエース区間を上位で走る役割は求められていない。
直前に状態が上がれば1区出場もあるが、2区・4区・6区のどこかに回る予定だ。
「夏よりも上がってきていますが、急激に変えられるものでもありません。本人もそのなかで覚悟を決めて走ると思います」と高橋監督。
この駅伝が競技人生のゴールというわけではない。
高橋監督も無理をさせない方針だが、関根自身は「駅伝があることで気持ち的には全然違う」と言う。
「区間はわかりませんが、良いイメージで終わって今後に自信を持てる走りをしたい。昨年は狙って優勝することの難しさを知りました。今年は優勝を狙って、つかみとる駅伝をしたい。(個人的にも)駅伝をステップにしたいです」
関根が1区・3区・5区の主要区間以外で、切り札的な存在になるかもしれない。

新人の太田琴菜(23)は立命大で大活躍した選手。
特に1、2年時は全日本大学女子駅伝と富士山女子駅伝(全日本大学女子選抜駅伝)でオール区間賞。チームも勝ち続けた。5000mでも15分33秒74を持つ(「タイプとしてはロード型」だと高橋監督)。
だが、大学3年時からケガが続き、卒業するまで以前のような走りができなかった。入社後は焦らずに復調を目指している。
「今、続けられているのも大学で優勝を経験したからです。日本一のチームに入って、日本一になりたいと集まってきた選手たちの中で、刺激をもらって成長できました。日本郵政で半年やってきましたが、さらに強い先輩を見て、自分の足りないところを見つけて、ちょっとでも追いつけるように頑張っています。今は必死ですね」

クイーンズ駅伝でどのレベルまで復調しているかはわからないが、今後に期待ができる選手の1人であることは間違いない。
太田が日本郵政入社を決めたのは、鈴木の存在が大きかったという。
「競技への考え方や日々の取り組みを、近くで見て吸収したかったんです。(実際に同じチームになってみて)ストレッチや補強、体幹や筋力トレーニングなど全て陸上優先で行動されています。キャプテンとしてもチームをまとめようと、みんなのことを見てくれている。本当にすごいです」
鈴木がキャプテンとして真摯に取り組むことで、後輩にも覚悟はしっかりと伝わっているようだ。
日本郵政の選手たちに、代表経験トリオがいるから「勝てるんだ」という気持ちは感じられない。
強い選手がチームにいるから、「優勝に挑戦する。そのために自分の役割を果たす」という気持ちが伝わってくる。

鈴木は言う。
「もう一度、挑戦者としてクイーンズ駅伝に臨みます。ノビノビと走れるんじゃないかと思っているんです」
選手たちの気持ちが、V奪還への最大の戦略かもしれない。

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寺田辰朗(てらだ たつお)プロフィール

陸上競技専門のフリーライター。
陸上競技マガジン編集部に12年4カ月勤務後に独立。
専門誌出身の特徴を生かし、陸上競技の詳しい情報を紹介することをライフワークとする。一見、数字の羅列に見えるデータから、その中に潜む人間ドラマを見つけだすことは当代随一。
地道な資料整理など、泥臭い仕事が自身のバックボーンだと言う。選手、指導者たちからの信頼も厚い。
AJPS (日本スポーツプレス協会) 会員。

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