コラム

2021年11月23日更新 text by 寺田辰朗

第2回JP日本郵政グループが創業150年目の節目に史上4チーム目の3連勝に挑戦
勝負を決する鈴木&廣中の東京五輪代表コンビの走り+選手層の厚さ

内容

JP日本郵政グループが史上4チーム目の3連勝に挑戦する。
クイーンズ駅伝で2連勝以上したチームは以下の通り。
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<4連勝>
・ワコール(1989〜92年)

<3連勝>
・三井住友海上(2003〜05年)
・デンソー(2013〜15年)

<2連勝>
・京セラ(1984〜85年)
・京セラ(1987〜88年)
・リクルート(1993〜94年)
・沖電気宮崎(1996〜97年)
・三井住友海上(2000〜01年)
・パナソニック(2017〜18年)
・JP日本郵政グループ(2019〜20年)
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2連勝したチームは多いが、3連勝以上を達成しているのは3チームしかない。主要チームに有力選手が分散し、力が拮抗している今日、勝ち続けることは難しくなっている。日本郵政はどうやってそのハードルを越えようとしているのか。3連勝を目指す日本郵政の戦い方を紹介する。

●廣中に今大会ナンバーワン韋駄天走りの期待

駅伝で抜群の強さを見せていた廣中璃梨佳(21)が、東京五輪でさらにブレイクした。5000mは日本新をマークして9位、10000mでは7位に入賞。今季の女子トラック種目ナンバーワンの成績を残した。
駅伝は廣中にとって大の得意種目である。中学以降出場したすべての駅伝で区間賞を取り続けてきた。クイーンズ駅伝では1区の印象(2年連続1区区間賞)が強いが、単独で走る中間区間でも負け無しなのだ。
だが廣中自身は、自身の区間賞継続に興味はまったく示さない。トラックで日本一の実績を残したから負けられない、という考え方も持たない。考えているのはチームで良い結果を出すことだけだ。
徳之島で行われたTBSの取材にも次のように話している。
「個人でこういう成績を残したい、というのはまったくありません。駅伝は1人で走るのではなく、チームで助け合って結果を出す競技。チーム全員で戦った結果、笑顔で終われるような試合になったらいいな、と思います」
その考え方が、集団のことは気にせず、1人でも前へ前へと突き進む走りになる。

ニューイヤー駅伝の佐藤悠基(SGホールディングス)や設楽悠太(Honda)、井上大仁(三菱重工)らも廣中と同じ考え方をしている。クイーンズ駅伝でも昨年の新谷仁美(積水化学・33)や、過去の優勝チームのエース区間を担った高島由香(デンソー。現資生堂・33)と堀優花(パナソニック・25)らも同じ走り方をしてきた。
駅伝のこの走りを頭では理解していても、実行に移すことは難しい。6人の名前を挙げさせてもらったが、現実的には少数しかいない。後半で失速する可能性もあるからで、前半から飛ばしても失速しない選手は、メンタルだけでなくペース感覚にも優れている、と言えるのではないか。
廣中は間違いなく、今年もその走りをする。それが3年連続1区になるのか、初めて3区で見せることになるのか。日本郵政のチーム状況と、ライバルチームの選手起用を、どう読むかによって変わってくる。
仮に1区なら、距離が7.6kmに伸びて2回目だが、前回の23分21秒以上のタイムが期待できる。問題はタイム自体よりも2位とのタイム差で、できれば前回の31秒以上の貯金を作りたい。
仮に3区なら、新谷が前回作った33分20秒の区間記録は相当に高いレベルだが、更新が不可能とは言い切れない。ここでも重要なのは2位を走行中のチームや、区間2位選手とのタイム差だ。新谷は区間2位の鍋島莉奈(JP日本郵政グループ・27)に1分5秒差をつけた。萩谷楓(エディオン・21)や高島、一山麻緒(ワコール・24)らを相手に同じタイム差は難しいかもしれないが、30秒以上は引き離したいところ。
1区か3区で、今大会ナンバーワンの韋駄天走りをすることが廣中には期待できる。それがチームへの一番の貢献となる。

●鈴木は昨年同様前半から突っ込むのか、得意の後半ペースアップか?

日本郵政もう1人の東京五輪代表が、マラソンで19位だった鈴木亜由子(30)である。前回は自身6度目のクイーンズ駅伝で初めて後半区間の5区に出場し、これも自身初めての区間賞を獲得。先行する積水化学を追い抜き、逆転優勝の立役者となった。
11月の徳之島取材中に、前回区間賞の話題と一緒に意気込みを質問されると、「とにかくチームに貢献する走りをしたいと思います」と答えた。鈴木が1区なら、3区の廣中でトップに立つために区間賞か、区間賞と数秒差で2区にタスキを渡す役割が求められる。3区ならトップでタスキを受け取る可能性が高いが、後続とのタイム差で走り方が変わってくる。
数秒差で中継したなら追いつかれることも想定し、後半で勝負をする。15秒以上のリードで中継したら、最初からハイペースで飛ばし早い段階でセーフティリードを確保する。どちらの走り方も鈴木は経験してきた。

得意としてきたのは後半勝負の走り方だ。全国都道府県対抗女子駅伝の19年大会アンカー(9区10km)では、前半5kmを15分56秒で通過し、後半5kmを15分12秒までペースアップした。31分08秒で区間2位ではあったが、鈴木の愛知県は一山麻緒(ワコール・24)の京都府を逆転して優勝した。
区間賞は新谷仁美(岡山県。現積水化学・33)で31分06秒。前後半の5km毎は15分32秒+15分34秒だった。鈴木は前半、一山と並走していたため抑えざるを得なかったが、後半は新谷より22秒も速かった。
前半から速いスピードで入るのは、昨年のクイーンズ駅伝5区が初めてだったかもしれない。前との差の詰め方でこれまでの駅伝と違いはあったか?という質問に対し、鈴木は次のように答えている。
「監督から口酸っぱく、『オマエの駅伝は前半が遅いから』と言われていたので、怖さもありましたが、チームの優勝のために行かなければ、という気持ちで飛ばしました」
具体的な走り方はレース状況によって変わってくるが、“チームの優勝のため”という思いが鈴木のピッチを上げる。

●創部当時から掲げてきた「駅伝の優勝」と「世界で戦うこと」

その鈴木は、チームで唯ひとり現役を続けている創部メンバーだ。
14年に1期生が活動を始めたJP日本郵政グループは、郵便事業と親和性の高い駅伝を重視し、会社の創立150周年の今年に優勝することを大目標とした。ところがクイーンズ駅伝は創部3年目、参加2年目の16年大会に優勝し、5年も前倒しして目標を達成してしまった。それができたのは当初から駅伝とともに、「世界で戦うこと」を高橋昌彦監督が目標として掲げ続け、鈴木という人材を得たことで可能になった。
駅伝だけに集中しても優勝できたかもしれないが、日本郵政は能力の高い選手は世界と戦うことを優先させた。そうすることで駅伝は、その選手の100%の力が発揮できなくても主要区間の区間賞争いができる。

鈴木のクイーンズ駅伝成績は以下の通りである。
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15年:3区区間5位(チーム12位)
16年:2区区間5位(チーム優勝)
17年:1区区間3位(チーム3位)
18年:3区区間2位(チーム7位)
19年:3区区間2位(チーム優勝)
20年:5区区間賞(チーム優勝)
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15年は世界陸上北京5000mで9位と、入賞にあと一歩と迫った。16年はリオ五輪5000mに出場(10000mも代表入りしたが故障をしてしまい、日程が後ろの5000mに絞った)。17年は世界陸上ロンドン10000mで10位と、再度入賞に迫った。18年は北海道マラソン、19年はMGCと、夏にマラソンを走っている。
夏の大試合のダメージが残ったり、寒さが苦手で駅伝直前の時期にケガをしたりすることが多かった。それでも鈴木は、区間上位で走ることができた。それだけ信頼できる選手がいると、チームはオーダーの組み方が多くなる。
16年の日本郵政初優勝時の鈴木は、主要区間を外れて2区を走っていた。鈴木と同じ1期生の関根花観が3区に、入社2年目の鍋島莉奈(26)が5区に起用された。関根は高卒入社だったがリオ五輪10000m代表に育ち、オリンピックの3カ月後にエース区間を区間2位で走った。鍋島は翌17年から3年連続トラックの日本代表となる選手で、5区区間賞の走りでチームを3位からトップに浮上させた。代表レベル3選手全員が駅伝にピークを合わせなくとも、個人の強化の流れに上手く駅伝を組み入れることで優勝を果たした。

しかし17年以降は関根が故障がちになり、17年は逆転のチャンスを逃し、18年は1区に起用された選手がブレーキをした。鈴木と関根の2人が万全で臨めないと、ほころびがどこかの区間に現れる。19年からまた勝ち始めたのは、その後代表に成長する廣中が加入し鈴木、鍋島と3本柱が再度できたからである。
13年の創部会見時に高橋監督は、目標を次のように話していた。
「1つめとして、駅伝で頂点を目指すチームを作っていきます。駅伝はタスキに込めた皆の気持ちをより速く、確実に伝えていく競技です。郵政事業との“親和性”も高く、駅伝で頂点を目指すのは意味のあることです。2つめとして、世界と勝負できる選手を育てていきたい。それは駅伝強化にもつながりますし、日本の強化にもなる。さらに、選手自身の夢の実現となります。2020年のオリンピック東京開催が決まりましたが、2021年には創業150周年を迎えます。監督として2年にまたがり大きなイベントがあるわけですが、2つの目標をぜひとも達成したいと思っています」
日本郵政という巨大で、誰もが身近に感じている企業のバックアップも追い風に、高橋監督のチーム作りが実を結んできた。

●今年は6人目の選手にも注目を

今年は残念ながら鍋島が、故障でエントリーすることができなかった。代表選手が100%で駅伝で臨めないこともある。それは計算していても、出場できないのは日本郵政でも痛手である。
しかし今年の日本郵政には、それを補う選手層の厚さがある。これまでも選手層は厚いチームだったが、「6番目の選手が、5番目の選手と力の差があった」と高橋監督。区間でいえば4区が弱点になった。外国人選手を起用できるインターナショナル区間で、距離は3.6km。19年大会までは最短区間だった(昨年と今年は2区が3.3kmに短縮されている)。

今年の5区は大西ひかり(21)が走る可能性が高い。2年前も5区を区間4位で走り、2位を走っていたパナソニックを引き離した。
今年の大西は、5月末に自転車で転倒したためトラックの好記録を出していないが、徳之島合宿では「この合宿のロードやクロカンで走り込みができてきました。調子が上がってきて良い流れになってきています」と、控えめな表現ながらも手応えを感じている様子だった。大西は持久力が武器で、数年後にはマラソンで代表となっているかもしれない選手である。
小坂井智絵(18)と三原梓(18)のルーキー2人が順調なことも心強い。6月のU20日本選手権5000mで小坂井が2位、三原が3位に入っている。「廣中や大西の1年目よりレベルの高い練習をしている」と高橋監督。2年前の優勝時に2区を区間2位で走った菅田雅香(20)が、故障から復帰して間もない。菅田が間に合わなければ、ルーキーが2区、4区、6区のうち2区間を走ることになるかもしれない。

そして4年目の太田琴菜(26)が復調していることが大きい。立命大時代に大活躍した選手だが過去3年間は故障が多く、入社後の駅伝は一度も走っていない。今季は自己記録こそ更新していないが、秋には5000m15分50秒ちょっとの記録を2レース続けた。
「夏合宿で取り組んできた課題を今回の二連戦で結果として出せたことは自分の中で自信となりました」と自社ホームページでコメントしている。
徳之島合宿の取材では、駅伝直前の練習にしっかり参加できていることの重要性を話していた。
「チームの誰よりも駅伝のブランクがあるので、過去のことは考えてなくて、今の持っている力を出せればいいと考えています。駅伝前の合宿に参加できないことがほとんどだったので、直前のチームの雰囲気を知らずに駅伝当日を迎えて優勝して、という感じでした。うれしいけど複雑な気持ちもあって、100%全力で喜べていませんでした。今年は走っても、走ることができなくても、そういう気持ちではないと思います」
出場するとすれば4区か6区だろう。太田が区間賞や区間日本人1位の走りをしたとき、日本郵政の3連勝はこれまでとは違った勝ち方になる。

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寺田辰朗(てらだ たつお)プロフィール

陸上競技専門のフリーライター。
陸上競技マガジン編集部に12年4カ月勤務後に独立。
専門誌出身の特徴を生かし、陸上競技の詳しい情報を紹介することをライフワークとする。一見、数字の羅列に見えるデータから、その中に潜む人間ドラマを見つけだすことは当代随一。
地道な資料整理など、泥臭い仕事が自身のバックボーンだと言う。選手、指導者たちからの信頼も厚い。
AJPS (日本スポーツプレス協会) 会員。