コラム

2018年11月16日更新 text by 寺田辰朗

第1回パナソニックは区間賞トリオが今年も強力
女王チームが目指す“ボンバイエ駅伝”とは?

内容

パナソニックの前回優勝は、1〜3区の3連続区間賞が原動力になった。
1区(7km)が森田香織、2区(3.9km)が渡邊菜々美、3区(10.9km)が堀優花。
3人はこの1年間、苦しみながらも成長を遂げて宮城に戻ってくる。
前回との違いは5区(10km)を区間4位と好走した森田詩織(香織の双子の妹)が、夏に故障でブランクが生じ調子が上がっていないこと。
2区だった渡邊が主要区間に回り、区間賞トリオで1・3・5区を走ることになりそうだ。
前回は予選会のプリンセス駅伝2位からの出場だった。クイーンズエイト(8位入賞)を目標に“のびのび駅伝”で走った結果、頂点に立つことができた。
今年は会社の100周年でもあり優勝を狙っていく。安養寺俊隆監督は“ボンバイエ駅伝”で2連勝に挑戦するという。

チームを勢いづけた3連続区間賞

1区の森田香が残り0.4kmからスパートしたのは、プリンセス駅伝の反省からだった。
「2秒差で区間賞が取れず、悔しい思いをしました。そのときラスト400mでスパートされたので、今日は自分が400mで行こうと決めていました」
今年の全日本実業団陸上5000m日本人トップの木村友香(ユニバーサルエンターテインメント)に3秒差をつけての区間1位。
鈴木亜由子(JP日本郵政グループ)、吉本ひかり(ダイハツ)の五輪&世界陸上代表経験者や、前年区間賞の一山麻緒(ワコール)ら、そうそうたるメンバーを抑えた。

2区の渡邊は中継場所に出る直前に、森田香が先頭集団にいるのをテレビ画面で確認した。
だが中継場所で他チームはコールされても、パナソニックはコールされない。「おかしいな」と感じながら待っていると、突然森田香がトップで現れた。
「1番だ、行かなきゃ、と思ってタスキを受け取りました。緊張するヒマがなかったことが、逆に良かったのかもしれません。気持ちは高ぶっていましたが、監督から『(前半は)スーッと入って、(中盤で)ビュッと行って、(最後は)ガッと上がれ』と言われていました。最初は『スー』だからリラックスを意識しました」

高校を卒業して8カ月の渡邊が、西脇舞(天満屋)や渋谷璃沙(ヤマダ電機)ら、1500mに強い選手たちを抑えて区間賞を獲得。2位の資生堂に22秒差とした。
3区の堀は走り出す前に、タスキを渡した直後の森田香と、映像付き電話で話をしていた。
「2区の付き添いの子から3区の付き添いの子に電話が来て、香織さんと話すことができました。『区間賞おめでとうございます』『頑張って』という簡単なやりとりでしたが、プレッシャーが軽くなりました」
堀はアップをしていて、周囲が日本代表経験選手ばかりで圧倒されていたという。
堀自身も昨年のアジア選手権代表だったが、高島由香(資生堂)、鍋島莉奈(日本郵政)、松田瑞生(ダイハツ)、上原美幸(第一生命グループ)らは格上だった。
「そのメンバーに追われる状況でしたが、香織さんと話したことによるプラスが勝りました」
堀が得意とする独走状態で、後続集団が牽制し合ったことも幸いした。
区間2位の鍋島に12秒差をつける区間賞で、2位の資生堂に42秒差とした。3連続区間賞は23年ぶりの快挙だった。
だが駅伝で勝つために、区間賞が絶対に必要かといえば、そうとは言えない。区間賞なしで優勝したケースもある。勝負のアヤが複雑に絡み合うのが駅伝の醍醐味だ。

だが、昨年のパナソニックは間違いなく、1〜3区の連続区間賞がチームを勢いづけた。
アンカーの6区(6.795km)でタスキを待っていた内藤早紀子は、最終アップに行くまでテレビで見ていた。
「香織も決して絶好調ではありませんでしたから、画面を見て、本当に自分のチームなのか、と思いました。私もレース前日は気持ちが悪くなるくらい緊張していましたが、3人の走りで吹っ切れました。クイーンズ駅伝は4年連続で出場しましたが、一番楽しく走ることができました」
内藤も区間2位の走りで、2位のダイハツ、3位の日本郵政を引き離してフィニッシュ。
創部30年目の節目にパナソニックが、記念すべき初優勝を飾った。

区間賞トリオの成長

今年の10月上旬。
トラックシーズン最後の全国大会だった福井国体成年5000mで、区間賞トリオがそろって入賞した。
国体は都道府県対抗戦。静岡代表の渡邊が4位、神奈川の森田香が6位、岐阜の堀が8位に入り、パナソニックは今年も強い、と駅伝シーズンを前に印象づけた。
特に渡邊の成長が大きい。前年は“高卒1年目にしては”強かったが、今季は日本のトップレベルに仲間入りした。国体では1000m通過が遅いと判断すると先頭に出て、4000m過ぎまでトップを走り続けた。

だが、これは3人に共通して言えることだが、今季が順風満帆だったわけではない。
渡邊は3月に脛の疲労骨折が判明し、5月後半まで強度の高いポイント練習ができなかった。
それでも6月の日本選手権5000mは6位に入賞している。成長の理由に「チーム内に日本のトップ選手がいて、一緒に練習ができていること」を挙げている。
森田香も「1区区間賞のときのようにスパートできる展開に持ち込めていない」と、自身のトラックシーズンに不満を示す。日本選手権10000mは4位。3位の堀がアジア大会代表に選ばれた。
「日に日に敗れた実感が大きくなりました。チームの練習内容も、合宿場所も違ってきて、堀ちゃんがジャカルタで走っているのをテレビで見たときは、チャンスを逃したことの大きさを痛感しました。代表に入っていたら、プラスになる経験ができたはずです。重要な試合で結果を残すことの大切さを学びました」
だが安養寺監督は、森田香の1年間を評価する。
「クイーンズ駅伝の翌月に10000mで31分台の自己新で走り、ハーフマラソンでは1時間10分10秒とやはり自己新を出しました。持久力がついて安定感が出てきました」
森田香自身は、「もう一度あの場で区間賞を取ることができたら、殻を破れそうな気がします」と、自身に期待している。

堀はアジア大会代表になるなど、完全に日本のトップランナーに成長した。
国体が振るわなかったのは、アジア大会10000m、英国のハーフマラソン、全日本実業団陸上10000m、そして国体5000mと、8月後半から2週間毎に4連戦したからだ。
堀は「レースを重ねることで走れるようにしようと思いましたが、国体は全然動かなかったです」と反省口調だが、安養寺監督は「将来、マラソンを走ることも見据えての連戦です」と想定内だったことを明かす。「英国のハーフはかなりのメンバーでしたが、早い段階でそういうレースを経験させたかった」
堀はアジア大会が、日本選手権1・2位選手の辞退による代表入りだったことや、今季自己記録を更新できていないことに不満顔だが、練習の1000mを3分切りのペースで行うことに抵抗がなくなっている。そこは昨シーズンよりも進歩した点だ。

前回の再現は簡単ではないが…

今年も3人が区間賞を取れると決まったわけではない。ライバルがすごい走りをする可能性はもちろんのこと、3人が昨年ほど力を発揮できない可能性もある。
森田は前述のように、今年のトラックレースではラスト勝負に持ち込む前に、先頭から離れている。
渡邊は前回、「1区と3区に強い先輩がいてくれた」と、プレッシャーを感じずに走ることができた。
堀も昨年は、得意とする独走状態でタスキをもらった。「接戦で来たら、去年みたいに走れないかもしれません」
大会直前になればもう少し強気のメンタルになっているはずだが、取材をしたのは10月下旬で、本番まで1カ月を残す時期だった。自身の力や現状を冷静に分析し、最後の合宿で課題をクリアできるように頑張る。そういう心理状態だったのだろう。

安養寺監督は「去年が出来過ぎ。200点でしたから」と、昨年の再現が簡単ではないことを認めるが、必要以上に深刻にならないようにしている。
「渡邊は初めての日本選手権でもまったく動じませんでした。ラストで置いて行かれましたが、故障明けでも自分のペースで行きました。駅伝ならどんな展開でタスキをもらっても、自分のペースでガンガン行ける。堀も人に合わせるより、自分の感覚で走ることで力を出す選手です。展開は気にせず走りますよ」
区間賞トリオ以外も、今シーズン成長を見せている。キャプテンの内藤が「3人に頼っていてはいけない」と、ことある毎に若手に声をかけている。
「今まで3人に引っ張ってもらっていましたが、今年は練習がバラバラになることも多くて、自分たちが引っ張る意識も現れ始めました」
7月のホクレンDistance Challenge北見大会では、前回4区の戸部千晶を筆頭に森磨皓、川路芽生、金丸清香が5000mの自己記録を更新。チーム力は確実に上がっている。
前回の優勝で会社をはじめ、周囲の期待は高くなっている。
プレッシャーは大きいが「会社の期待には応えたい。優勝を狙っていきます」(内藤)と、選手たちは自分たちの置かれている状況から目をそらしてない。

安養寺監督が「ボンバイエ駅伝」という言葉を持ち出したのは、若いチームの勢いを抑えない方が良い、という判断だ。
ボンバイエは国会議員のアントニオ猪木氏が、プロレスラー時代に使っていたテーマ曲。「やっちまえ」という意味から派生して、元気を出せ、というニュアンスも生じている。
「社長が4月の年度初めの挨拶で、『パナソニック、ボンバイエ』と社員に向かって声をかけてくれたんです。うちの会社は業績も良く、勢いがある。その言葉を駅伝でも使わせてもらいました。のびのび駅伝で元気よく走った去年より、さらに元気を出そう、ということです。優勝を意識して構えすぎるのでなく、去年と同じように元気よく走りたい、という気持ちを込めました」
去年と同じことができるだろうか、あるいは、去年と比較して戦力はどうだろうか、と不安要素を考えるのではなく、去年よりも元気を出して走る。若さを前面に出し、今の力を思い切り発揮する。それが2連覇への最善の道だ。

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寺田辰朗(てらだ たつお)プロフィール

陸上競技専門のフリーライター。
陸上競技マガジン編集部に12年4カ月勤務後に独立。
専門誌出身の特徴を生かし、陸上競技の詳しい情報を紹介することをライフワークとする。一見、数字の羅列に見えるデータから、その中に潜む人間ドラマを見つけだすことは当代随一。
地道な資料整理など、泥臭い仕事が自身のバックボーンだと言う。選手、指導者たちからの信頼も厚い。
AJPS (日本スポーツプレス協会) 会員。

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