作品紹介

プロローグ

展覧会の導入部として、1911年にローセルの岩陰で発掘された名高い《角を持つヴィーナス(ローセルのヴィーナス)》を中心に、アキテーヌ地方で発見された旧石器時代から新石器時代までの人類文化の揺籃期の遺物を紹介します。彩色や彫刻の材料・道具、さらには作り手の技量や素材に対する鋭敏な意識の芽生えも感じさせる石器類も併せて展示し、太古の造形の世界に光をあてます。

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角を持つヴィーナス(ローセルのヴィーナス)

25,000年前頃
石灰岩 縦54cm 横36cm 厚さ15cm
アキテーヌ博物館
©Musée d’Aquitaine − Mairie de Bordeaux. Cliché L. Gauthier

旧石器時代の数々のヴィーナス像の中でもその造形性によって名高いこのレリーフ(浅浮彫り)は、20世紀初頭にローセルの岩陰で発掘されました。この女性像が意味するところは謎のままですが、その豊満な体つきや手にした角は、豊穣や多産と関係するとも考えられます。日本で初めて紹介されるアキテーヌ博物館の至宝です。

第1章 古代のボルドー介

都市ボルドーの歴史は、紀元前1世紀初頭にガリア人がガロンヌ河畔に建てた商都「ブルディガラ」に始まり、古代ローマの属州アクィタニアの中心地として発展しました。ワインの生産もこの時代にさかのぼります。ここでは、古代の市民生活をしのばせる墓碑や装身具からエジプト由来の神々の小像まで、現在のボルドー市内の各所で発掘された貴重な古代遺物の数々をご紹介します。

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《少女の墓碑》

1世紀末
石灰岩 高さ86cm 幅43cm 厚さ21cm
アキテーヌ博物館
©Musée d’Aquitaine − Mairie de Bordeaux. Cliché Jean Gilson

夭折した少女のために父親が建てた墓碑で、彼女が生前可愛がっていた動物たちを連れています。幼くして亡くなった子供への家族の深い愛情を見ることができます。

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《ボルドー・ワイン用のアンフォラ》

1世紀半ば
テラコッタ 高さ41 cm 幅34 cm
アキテーヌ博物館
©Musée d’Aquitaine − Mairie de Bordeaux. Cliché L. Gauthier

当初はイタリアやスペインのワインの交易に従事したブルディガラの人々は、自らもワイン生産を始め、1世紀末には早くもこの地域は銘醸地として知られるようになります。

第2章 中世から近世のボルドー

中世のボルドーは、12世紀から15世紀まで約300年にわたるイギリス領時代を経験しつつ、ワイン産業の確立、そしてスペインの名高い聖地サンティアゴ・デ・コンポステーラへの巡礼路の街としての発展を見ました。また16世紀に入ると、宗教戦争のただ中で寛容の精神を説いたフランス・ルネサンス最大の思想家モンテーニュを輩出しています。ここでは、教会建築等の断片から、バロックの彫刻までの展示を通して、中世から近世初期にかけてのボルドーの歴史をご紹介します。

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《ボルドー市の紋章》

14世紀末−15世紀初頭
石灰岩 高さ80cm 幅60cm 厚さ17cm
アキテーヌ博物館
©Musée d’Aquitaine − Mairie de Bordeaux. Cliché J. M. Arnaud

波間に月が浮かぶガロンヌの河岸に立つ市庁舎の上に英王室の紋章である3頭のライオンを戴く、イギリス領時代のボルドー市の紋章です。市庁舎などの公共建築を飾ったものと考えられます。

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ジャン・ロレンツォ・ベルニーニ
《フランソワ・ド・スルディス枢機卿の胸像》

1620年頃
大理石 高さ75 cm 幅61 cm 厚さ25 cm
サン=ブリュノ小教区(アキテーヌ博物館へ寄託)
©Musée d’Aquitaine − Mairie de Bordeaux.Cliché B. Fontanel

ローマ・バロック最大の彫刻家ベルニーニが胸像を手がけた枢機卿スルディスは、対抗宗教改革の旗手としてボルドーの教会にバロック芸術を花開かせました。

第3章 18世紀、月の港ボルドー

18世紀、ボルドーは交易とワイン産業を通じて黄金期を迎え、「月の港」はフランス第一の港となります。パリに100年先立って都市整備が進められ、ヨーロッパで最も美しい街のひとつと讃えられる都市景観が生まれました。ここでは、18世紀ヨーロッパの海洋貿易の光と闇にも目を配りつつ、ボルドーの眺めをはじめ、その繁栄を支えたワイン商や法服貴族の在りし日の暮らしぶりを伝える絵画や装飾芸術品、そして時代を語るシャルダンから新古典主義までの画家たちの作品の数々を展観します。

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ジャック・ユスタン陶器製作所(ボルドー)
《銘々用のワイングラス・クーラー(「カルトジオ会修道院」セット)》

1745−50年頃
錫釉陶器 高さ11.5cm 直径10.5cm 
ボルドー装飾芸術・デザイン美術館
Collection du musée des Arts décoratifs et du Design.
©Mairie de Bordeaux. Photo Lysiane Gauthier

いかにもボルドーらしいこのワイングラスクーラーは、ボルドーのカルトジオ会修道院のために作られたセットのひとつで、装飾モティーフには、修道院の設立者、ブレーズ・ド・ガスクとスルディス枢機卿の紋章が組み合わされています。

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ピエール・ナルシス・ゲラン
《フェードルとイポリット》

1815年
油彩、カンヴァス 130×174 cm
ボルドー美術館
©Musée des Beaux-Arts − Mairie de Bordeaux. Cliché F. Deval.

義理の息子に道ならぬ恋をしたフェードルの悲劇を描いたこの歴史画は、新古典主義の画家ゲランによるもので、アイルランド出身の裕福なワイン商ウォルター・ジョンストンの屋敷を飾るために制作されました。

第4章 フランス革命からロマン主義へ

19世紀、ボルドーは海運業の衰退によって昔日の勢いを失っていきますが、ナポレオン率いる統領政府の時代、1801年にボルドー美術館が設立されたことは、街の美術活動に新たな展開を促します。ここでは、ドラクロワ晩年の大作《ライオン狩り》を中心に、ボルドーで最期の日々を過ごしたゴヤの版画や、美術館草創期の重要コレクションも交えつつ、革命やブルボン王家に関連する品々から、ロマン主義を中心とするボルドーゆかりの画家たちの作品までをご紹介します。

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《ボルドー市の鍵(対)》

1815年
ブロンズ、金メッキ 長さ32cm
ボルドー装飾芸術・デザイン美術館
Collection du musée des Arts décoratifs et du Design.
©Mairie de Bordeaux. Photo Lysiane Gauthier

ボルドー市のなりわいである海洋貿易とワイン生産を表わす装飾が施された儀礼用の「都市の鍵」です。1815年、のちのシャルル10世の長男アングレーム公爵の来訪に際してボルドー市長から手渡されたものとされ、王政復古期のブルボン家とボルドー市のつながりを語っています。

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ウジェーヌ・ドラクロワ
《ライオン狩り》

1854−55年
油彩、カンヴァス 175×360 cm
ボルドー美術館
©Musée des Beaux-Arts - Mairie de Bordeaux. Cliché L. Gauthier.

ドラクロワは父親がジロンド県知事を務めた関係でボルドーで幼年期を過ごし、街には今も父と兄の墓が残ります。この作品は1855年のパリ万博のために政府の注文で制作され、展覧会終了後、ボルドー美術館へ送られました。不運にも1870年の美術館の火災で大きな損傷を受け、画面の一部を失いましたが、その迫力は決して損なわれていません。人と猛獣の戦いを通じ、ほとばしる自然の生命力に対する畏怖や憧れが画家独自の雄渾な筆遣いで描き出された本作品は、ドラクロワの画業の集大成にふさわしい傑作です。

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オディロン・ルドン
《ライオン狩り》(ドラクロワ作品に基づく模写)

1860−70年
油彩、カンヴァス 46×55.6cm
オルセー美術館(ボルドー美術館へ寄託)
©Musée des Beaux-Arts - Mairie de Bordeaux. Cliché F. Deval.

パリとボルドーを行き来していた画学生時代のルドンがボルドー美術館のドラクロワの《ライオン狩り》を模写した作品です。火災に遭う前のドラクロワ作品の完全な構図を伝える貴重な記録であるとともに、ふたりの関係を示す興味深い一枚でもあります。

第5章 ボルドーの肖像―都市、芸術家、ワイン

19世紀末から20世紀初頭にかけてボルドーが輩出した芸術家たちの作品を中心に、市民の肖像や、「月の港」の眺め、そしてワインに関連する作品や資料などの展示を通じて、世紀転換期の都市ボルドーの肖像を描き出します。さらに、富裕な美術愛好家ガブリエル・フリゾーが形成した知的サークルにも目を配りつつ、ジャン・デュパやルネ・ビュトーらの作品とともに、20世紀初頭のボルドーで花開いたアール・デコ芸術を紹介します。

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レオン・ボナ
《ダニエル・ゲスティエ氏の肖像》

1908年
油彩、カンヴァス 144×112cm 
ボルドー美術館
©Musée des Beaux-Arts - Mairie de Bordeaux. Cliché F. Deval.

ゲスティエ家は長くボルドーの政財界の中枢を占めてきた名家であり、1802年に像主と同名のダニエル・ゲスティエがアイルランド系のバルトン家とともに設立したバルトン&ゲスティエ社は現在まで続く由緒あるワインメーカーとして知られます。

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ゴーロン印刷所
《ワインのエチケット「メドック、サン・ジュリアン」》

1866年
印刷 8.9×11.1cm
ジェローム・ヴェッテルヴァルド・コレクション(アキテーヌ博物館へ寄託)
©Musée d’Aquitaine − Mairie de Bordeaux. Cliché L. Gauthier

ボルドーにおけるゴヤの支援者であった石版画家ゴーロンは、ワイン・ボトルのエチケット(ラベル)の初期の製作者のひとりとしても知られます。ゴーロンの印刷所を引き継いだヴェッテルヴェルト社からアキテーヌ博物館に寄託されている貴重なエチケット・コレクションの一部を紹介します。

エピローグ―今日のボルドー

19世紀初頭には植民地から運ばれた商品の保管場所であったレネ倉庫(シャルトロン街)は、1973年から現代造形芸術センター(CAPC)が置かれてきましたが、新たな改修を経て、1984年にCAPCボルドー現代美術館へと生まれ変わりました。エピローグとして、この時改修中のレネ倉庫でジョルジュ・ルースが制作した一連の写真をご紹介します。ルースは阪神淡路大震災や東日本大震災の被災地での制作活動で日本でも知られるアーティストで、数々の廃墟に絵を描き加え、これを写真に仕上げることで、空間の記憶を甦らせてきました。長い歴史を通じて連綿と受け継がれる都市の再生の力を眼のあたりにさせてくれるこれらの作品を通じて、発展を続ける今日のボルドーを想起させつつ、本展は締めくくられます。

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