今回の大がかりな二つのテロ事件の首謀者である国際テロリスト正木圭吾。これまで海外紛争地域などでたびたび「M」というコードネームが上がっていたが、まさか日本人であったとは警察も驚かされた。横川警視拉致事件以来、重要手配犯となっていたが、その正体は依然として不明のままであった。
東京中央フォーラム爆弾テロ事件の標的はNPSであったが、直接「仕事」に乗り出した正木に、どんな意図があったのかは不明のままだ。「警察官が正義のためにためらいなく引き金を引けるように」起こした事件と思われるが、テロリストである正木自身はこのことをどう受け止めていたのだろうか。今回の事件ではNPSを一網打尽にするはずであったのだろう。しかし、いち早くその意図を見抜いた香椎隊長、SATの中丸隊長の機転で正木の目論見通りにことは運ばなかった。中でも、奥多摩の最前線に居たはずの蘇我巡査がやってきたことは計算外のことだったろう。かねてより氏名と顔を一般に出していた神御蔵巡査を標的にしていたが、対立組織であり「SATこそ日本最後の砦」と世間に認知させようとしていたSAT自体からの横槍、制圧こそ犯罪抑制と言い切る蘇我巡査が「確保」という言葉を口にしたことは驚き以外の何ものでもなかった。手にした銃を使うことがなかった神御蔵巡査、言葉にせずとも通じた意思でその銃を蘇我巡査の手に渡したことで、正木は神御蔵巡査に止めを刺すことはかなわなかった。一度ならず二度までも同じチームに返り討ちにあった正木圭吾、生きていればいずれまた神御蔵巡査に接触してくる可能性もある。
事前に作戦を共有することが出来ずとも、暗黙のうちに実行することが出来た神御蔵巡査と蘇我巡査。同じチームとして行動した期間は短かったが、同じ特殊部隊員としてこの先も作戦を共にすることもあるだろう。それぞれの信条は変わらないかも知れないが、お互いの理念は尊重していくものと変化したようにも思える。理念でも信条でもなく、目の前で大切な人、仲間が殺されてしまうことは絶対に防ぎたい、林巡査の「一矢でも報いて」という気持ちもわからなくはないが、神御蔵巡査は「全員で生きて帰る」と力強く言っていた。
香椎隊長の言う「命のハードル」は、とてつもなく高くて当たり前なのだ。それを実行できてこその「S」だということを神御蔵巡査は証明したのだと思う。
暴力行為をする人間は、暴力がもたらすものを一番わかっているはずだ。自分が確保されるのか制圧されるのか、正木自身がどう思っていたのかは誰にも分からないが、二度とこのような事件が起こらないよう、日本警察の力を見せつけて欲しいと記者は願う。
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