実動隊員わずか5名のNPS、もちろん射撃訓練も受けているがスナイパーの補充は急務でもあった。多くのスナイパーを抱えるSATから出向してきたのは「天才的スナイパー」の呼び声も高い蘇我伊織巡査。よもやこういう人事が行われるとは本人はもちろんのこと、周囲も驚いたことだろう。NPSの香椎隊長、SATの中丸隊長の間でどのような話し合いが行われたのかは定かではない。蘇我巡査がNPSを認めていないことは周知の事実であり、それをあえて出向させたことに、隊長たちのどのような思惑があるのだろうか。
横川主任救出の際、「M」の銃弾に嵐警部補が倒れたため、NPS・神御蔵巡査とSAT・蘇我巡査が二人で脱出への道を切り開かなければならなかった。このときに取られた作戦は「ミッドナイトエントリー」、「暗闇(ミッドナイト)エントリー」とは、スナイパーが照明器具を打ち抜き、暗闇を作ったそのすきにターゲットに向かっていくというものである。
失敗すればそれは人質だけではなく、自分の命もないに等しい。一発勝負のこの作戦はタイミングが何より重要、二人の呼吸をあわせ、また突然訪れる暗闇に対応するために突入班は事前に目を閉じて、スナイパーの呼吸だけに意識を集中させなければならない。SATの隊員同士ならば常より訓練を行っているこのエントリーだが、バディ訓練をしていない神御蔵巡査とぶっつけ本番で行くことに蘇我巡査が不安を感じるのも致し方なかろう。しかし、上司である嵐警部補はこれこそが唯一の方法だと判断した。「M」の逮捕こそ出来なかったものの、重傷者二人を救出し脱出出来たことは成功だったと言っていい。NPS発足時からわだかまりを感じている蘇我巡査だが、これで共同戦線が張れるということを皮肉にも自ら証明した形となった。警察官である以上、組織の人事異動に異を唱えられるはずもないが、この先NPSで蘇我巡査がどのような活躍を見せてくれるのか期待したい。
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