日本には島国という地理的条件から、独自の進化をしてきた日本固有の動植物がたくさんいます。しかし近年、産業構造の変革や外来種の移入など、目まぐるしい環境の変化によって日本固有の種が危機に追いやられています。失われつつある日本の希少動植物の保存を目的として全国から様々な情報を収集し、発信していきます。
contents

第6回
耳の短い不思議なウサギ
耳の短い不思議なウサギ
アマミノクロウサギの特徴
なぜ奄美大島と徳之島に棲んでいるのか
ハブがいたからクロウサギが残った?!
タイムカプセルの島
アマミノクロウサギの一日
アマミノクロウサギの発見と保護の歴史
タイムカプセルの未来
取材協力者・参考文献

バックナンバー

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■タイムカプセルの未来

 アマミノクロウサギの分布と個体数推定のために,1992年から1995年にかけて実施された主に糞粒調査の結果,分布面積は奄美大島で370km2(島面積の52%に相当),徳之島で33km2(島面積の13%),個体数は奄美大島で2,600から6,200頭,徳之島で120から300頭と推定されました。1970年代の調査結果と比べて,分布域は縮小化と断片化を進め,両島の個体数は減少しつつあることが明らかになりました。
 アマミノクロウサギの行動圏と生息地利用を明らかにするために,ラジオテレメトリー調査が研究者の間ですすめられています。これは生捕りしたアマミノクロウサギに超小型電波発信機を装着して野外に再度放し,行動や活動を追跡調査するものです。1995年から1998年の間に7頭のウサギが捕獲されました。捕獲個体の平均体重は雄で2,300g,雌で2,500gでした。アマミノクロウサギの体重や頭胴長は系統を異にし,分化の新しいウサギであるニホンノウサギと同じでしたが,耳長や四肢長は半分程度短く,原始的特徴を示しています。行動圏面積は雄で1-2ha,雌で1ha程度と極めて狭く,森林に覆われた谷などに存在する巣穴から夜間100-200m移動し,林縁部で採食と脱糞を行っていることが明らかになりました。
 こんなに貴重な生き物であることがわかっていながら、アマミノクロウサギの生息地を守る具体的な方策は、公式には何も取られていません。

 最も問題とされているのは、アマミノクロウサギが棲む土地の開発です。
 奄美大島でも徳之島でも、既にアマミノクロウサギの生息地域を貫いて林道が作られており、道を走る車にはねられて死んだクロウサギが何頭も目撃されています。アマミノクロウサギだけでなく、森に棲む多くの生物にとって林道は生息地を分断する障害となっており、車にはねられて死ぬ生物が後を絶ちません。
 加えて現在、奄美大島で、アマミノクロウサギが生息する地域の森をつぶしてゴルフ場を作る計画が進められており、それに対する反対運動が起こっています。特別天然記念物の生き物が生息している森なのに、そこを管理すべき立場の地方自治体がゴルフ場の建設許可を出す、という矛盾した事態が起こっており、多くの貴重な生物がすみかを失う危機にさらされています。

●マングース
●夜間自動撮影でとらえたマングース
 開発と同様、アマミノクロウサギの生存をおびやかすものとして、ノイヌ(野犬)・ノネコ(野猫)・マングースの島への侵入が挙げられます。
 ノイヌとノネコは、もともと人間に飼われていたイヌやネコが野生化したもので、人間が島に住むようになる前は、もちろん奄美大島にも徳之島にもいませんでした。人間が無責任にイヌやネコを放し飼いにしたり捨てたりした結果、野生化したイヌやネコが増え、アマミノクロウサギのようなもともと島にいたおとなしい動物を獲って食べるようになったのです。
奄美大島に定着してしまったマングースは、元来は中国南部やマレー半島に分布するジャワマングースだといわれています。
 移入マングースは1979年頃に名瀬市において少数個体が毒蛇ハブ駆除のために放獣されたといわれており,1989年には放獣地点から10km,1997年には20kmとほぼ全島に広がり,アマミノクロウサギの生息地にも進出してきました。1995年から約100頭のマングースの捕獲と糞を回収し食性分析を行ったところ,マングースは雑食性で,昆虫,鳥類を常に採食していることがわかりました。夏季に両生類や爬虫類が多く,冬季に哺乳類(主にクマネズミ)が多く占めていました。このうち,冬季から春季にアマミノクロウサギが7例,絶滅危惧種のケナガネズミとジネズミが各1例発見されました。アマミノクロウサギの産仔数は1産1頭で繁殖期は主に春と秋の2回程度なので,マングースの捕食がクロウサギ個体群に与える影響はかなり大きいと考えられます。
  移入マングース問題はアマミノクロウサギや他の在来種の生存にとって脅威的な存在で,駆除対策が急がれます。
2000年度から奄美大島の大和村にある野生生物保護センターを中心に、マングースの駆除が始められました。駆除のための講習を受けた人に資格が与えられ、現在その資格者は150名います。現在奄美大島には1万頭生息しているといわれています。1匹あたり4000円が支払われ、2001年9月からの3ヶ月間で約1700匹が捕獲されました。

奄美の自然生態系の象徴の一つとされている金作原(きんさくばる)原生林では,マングースの侵入定着後15年以上が経過し,在来種の動物がほとんど見られなくなったと最近いわれています。そんな中、2001年12月に奄美の動物たちをマングースから守るためのNGO活動「奄美マングースプロジェクト」が発足されました。
 生き物は、その生息する環境、生態系がまるごと保存されなければ生きられないことは明白です。しかし、日本には、そういった貴重なものが存在する地域をまるごと保護する法律がありません。このために、特に私有地であれば開発を阻止する術がなく、木材を売るために樹木が伐採されて森がなくなったり、住宅や娯楽施設を作るために山が削られたりしています。
 奄美大島では、島の自然を守ろうと活動している「環境ネットワーク奄美」という自然保護団体が訴訟を起こし、ゴルフ場計画を阻止しようとしています。この訴訟はまだ途中で、果たしてアマミノクロウサギが棲む土地を守れるかどうか、予断を許しません。
 一方、奄美大島より面積が小さい徳之島では、奄美大島以上に土地の開発が進み、このままでは徳之島に棲むアマミノクロウサギの絶滅は時間の問題と言われています。
  日本にしかいない「生きている化石」アマミノクロウサギは、私たち日本人が世界から預かっている大切な預かり物とも言えます。このかけがえのない預かり物を守れるのかどうか、今、私たちの力が問われています。



取材協力者・参考文献


絶滅の危機にある動植物たち生物図鑑
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