
 |
■アマミノクロウサギの発見と保護の歴史
 |
| ●クロウサギのひそむ森 |
このような独自の進化をたどったアマミノクロウサギがアメリカ人W.H.ファーネス(1868-1920)に発見されて,100年あまりが過ぎました。ファーネスはアメリカ合衆国ペンシルバニア州フィラデルフィアの名門一族の出身で,医者でかつ探検家で,奄美大島には1896(明治29)年2月22日から3月11日の19日間滞在し,クロウサギ2頭を2月26日に採集しました。このクロウサギ標本にもとづいて,動物学者W.
ストーンは1900年に新種として発表し,その後,ウサギ研究者のM. W.リオンは1904年に再分類し,クロウサギを新属新種に昇格させました。この分類が今日も使用されています。
クロウサギがわが国の文献上初めて登場するのは,1855年から5年間奄美大島に滞在した薩摩藩士の名越左源太の「南島雑和」です。その後では,ドイツ人動物学者で東大教授を務めたL.
H. P.ドウーダラインの1880年現地踏査記録の「琉球諸島の奄美大島(1881年発行)」です。さらに,1909年の渡瀬正三郎と波江元吉の採集記録「動物学雑誌252号」があります.
一方,「史跡天然記念物保存法」の成立した1919年の翌年実施された内田清之助の1920年の天然記念物指定調査が当時のクロウサギの分布,生態や生息状況などを最も詳しく記述した最初の報告書となりました。彼はクロウサギの天然物指定の必要性として,ストーンの新種記載としての意義,奄美大島と徳之島に限定した分布,生息数が少なく絶滅のおそれのあることをあげ,捕獲禁止措置による保護政策をとりました。なお,クロウサギは1963年に世界的にまた国家的に価値がとくに高いとして「特別天然記念物」に昇格されました。しかし,これ以外の積極的な保護策は実際には今日までとられることはありませんでした。
このような状況で,IUCNの種保存委員会のウサギ類専門家グループは1990年にアマミノクロウサギを含めた絶滅に瀕するウサギの保全行動計画を発表しました。それまで,アマミノクロウサギは厚いベールに包まれた存在でしたが,奄美大島でのゴルフ場開発問題をきっかけに,アマミノクロウサギの保護問題が急速に世界的に有名になりました。この勧告に対して,ウサギ研究者は,1992年以降,アマミノクロウサギの保全生物学的研究,とくに生息域と個体数推定,ラジオテレメトリー研究,及び本種の生存を脅かす移入種問題(とくに移入マングース)などに重点をおいた研究が開始されました。
|