日本には島国という地理的条件から、独自の進化をしてきた日本固有の動植物がたくさんいます。しかし近年、産業構造の変革や外来種の移入など、目まぐるしい環境の変化によって日本固有の種が危機に追いやられています。失われつつある日本の希少動植物の保存を目的として全国から様々な情報を収集し、発信していきます。
contents

第6回
耳の短い不思議なウサギ
耳の短い不思議なウサギ
アマミノクロウサギの特徴
なぜ奄美大島と徳之島に棲んでいるのか
ハブがいたからクロウサギが残った?!
タイムカプセルの島
アマミノクロウサギの一日
アマミノクロウサギの発見と保護の歴史
タイムカプセルの未来
取材協力者・参考文献

バックナンバー

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■アマミノクロウサギの一日

  アマミノクロウサギは夜行性で、大きな群れも作らず、ひっそりと暮らしている生き物なので、なかなかその生活ぶりがわかりませんでした。特に子育ての様子については、地元の古老にわずかに伝えられた話があるだけで、ほとんど何も知られていませんでした。

 ところが、1990年代になって、奄美大島在住の写真家である浜田太氏により、世界で初めてアマミノクロウサギの子育ての様子が撮影されました。以下、主に浜田氏によって得られた知見を基に、アマミノクロウサギのある一日を再現してみましょう。

奄美大島の森のどこかに、アマミノクロウサギの巣穴があります。巣穴には土に掘った穴と岩穴と樹洞がある中で、この巣穴は土の穴です。アマミノクロウサギがその強大な爪のある足を使って掘ったのでしょう。通 常、巣穴の出入り口は一箇所ですが、まれに出入り口が二箇所ある巣穴もあり、この巣穴もそうでした。昼の間、アマミノクロウサギはずっと巣穴の中で休んでいて、ほとんど姿を見せることはありません。昼間に活動するアカヒゲやルリカケスといった鳥たちが、興味深そうに巣穴の二つある出入り口を覗いてゆきました。

夕方、南国の強烈な太陽が西に沈むと、森で活動する生き物たちの顔ぶれが変わり始めます。暑さを避けて休息していたハブがとぐろをほどいて森を徘徊し、アマミヤマシギが長い嘴で餌を探しながらアマミノクロウサギの巣穴の前を通 り過ぎた後、オットンガエルが眠そうな眼で巣穴を覗きこみました。主であるアマミノクロウサギが巣穴から姿を現わしたのは、18時過ぎのことでした。

 普通のウサギがよくやるように鼻をひくつかせ、周囲の様子をうかがって異常がないことを確かめると、アマミノクロウサギは森の中へと踏み出してゆきます。森の中には複数のアマミノクロウサギが利用する公道のような「ウサギ道」があって、この夜もそんなウサギ道の一つをアマミノクロウサギは駆けてゆきました。

普通 のウサギよりも脚は短いものの、アマミノクロウサギはそれほど動きがのろい訳ではありません。爪跡がくっきりと残る絶壁のウサギ道を駆け下りて、アマミノクロウサギは人間が作った林道に出てきました。
 かつて、アマミノクロウサギは深い原生林でしか行動しないと思われていました。しかし、最近になって、川原や車通 りが少ない林道などの比較的開けた場所も利用していることがわかってきました。こういう場所にはアマミノクロウサギの好きなススキが多く生えていて、採食場所や糞をする場所として利用されています。

 林道にやってきたアマミノクロウサギは、周囲を警戒しながらススキを食べ始めました。このような開けた場所にいる時には、昔は島にいなかったノイヌ(野犬)やノネコ(野猫)やマングースに襲われる危険性が高いのです。
 食事の合間に、アマミノクロウサギは林道のあちこちに糞をしました。アマミノクロウサギの糞も、普通 のウサギと同じように小さく丸まった黒っぽい糞です。アマミノクロウサギは数日間に渡って、このような糞をまとめて同じ所にします。これを溜め糞といい、おそらく縄張りを示すものだろうと言われています。

一通 り食事を終えると、アマミノクロウサギはまた森の中へ入って行きました。ひどく神経質な様子で、何度も立ち止まっては辺りの様子をうかがい、時折「ピュイー」という独特の鳴き声をあげています。ある場所で足を止めたアマミノクロウサギは点検するかのように地面 を嗅ぎ回っていたかと思うと、口と前脚を使ってそこを掘り始めました。5分か10分も掘ると、そこに開いた穴の中から、小さな子供のアマミノクロウサギがぴょこんと顔を出しました。 やってきたのは子育てをしている最中の母ウサギだったのです。

母ウサギは優しく子ウサギの顔を口で愛撫し、後ろ脚で立ち上がっておなかを突き出すようにして、子ウサギにお乳を飲ませ始めました。母ウサギが子ウサギに授乳に来るのは、最近の観察によると二日に一回だということです。およそ48時間に一回しか会えないというのに、幸せな授乳の時間は5分くらいで終わってしまいます。

母ウサギが前脚を下ろして授乳を打ち切ると、子ウサギはおとなしく穴の中に戻りました。その後、母ウサギは、今度は20分か30分ほどもかけて子ウサギの巣穴を塞ぎました。子ウサギは自分の脚で逃げられるようになるまでは巣穴に隠れて暮らすしかありませんから、母ウサギは誰にも見つからないよう、念入りに穴を塞ぎます。そしてまた母ウサギは奄美の森の中へ消えて行き、夜じゅう活動した母ウサギが自分の巣穴に戻ったのは、オオトラツグミが盛んに鳴き始める夜明けの5時過ぎでした。

 もうしばらくすれば、この子ウサギは母親の鳴き声を聞いて自分から巣穴を出るようになるでしょう。その様子を見て、母ウサギは子育て用の巣穴から子ウサギを連れ出し、親子で同じ巣穴に暮らすようになります。子ウサギは母ウサギと一緒に行動しながら森の暮らしを学び、やがて母親と同じような一人前のアマミノクロウサギとなって、原始の森に巣立ってゆくのです。

奄美大島在住の写真家である浜田太氏はアマミノクロウサギの生態について、長年に渡る観察、撮影の成果 を写真集「時を超えて生きるアマミノクロウサギ」(小学館)で発表しました。初めて撮影に成功したアマミノクロウサギの授乳シーンを含む多くの貴重な写 真が収められています。
(関連URL http://www.synapse.ne.jp/f-hamada/)

アマミノクロウサギの発見と保護の歴史


絶滅の危機にある動植物たち生物図鑑
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