日本には島国という地理的条件から、独自の進化をしてきた日本固有の動植物がたくさんいます。しかし近年、産業構造の変革や外来種の移入など、目まぐるしい環境の変化によって日本固有の種が危機に追いやられています。失われつつある日本の希少動植物の保存を目的として全国から様々な情報を収集し、発信していきます。
contents

第6回
耳の短い不思議なウサギ
耳の短い不思議なウサギ
アマミノクロウサギの特徴
なぜ奄美大島と徳之島に棲んでいるのか
ハブがいたからクロウサギが残った?!
タイムカプセルの島
アマミノクロウサギの一日
アマミノクロウサギの発見と保護の歴史
タイムカプセルの未来
取材協力者・参考文献

バックナンバー

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■ハブがいたからクロウサギが残った?!

ハブは日本の南西諸島に棲む恐ろしい毒蛇として知られています。ハブの祖先は、やはり島が大陸とつながっている時代に、アマミノクロウサギより少し遅れて南西諸島にやってきたと考えられています。まずは、そのハブについて簡単にまとめてみましょう。
 ハブは棲む島によって体の模様や性質が異なり、アマミノクロウサギの棲む徳之島のハブが最も攻撃的だと言われます。夜行性で、直射日光に弱く、気温30℃の直射日光下であれば約10分で死んでしまいます。冬眠をせず、1日100メートル位しか行動できません。体温(熱)を感知するピットという器官があり、高い温度物体に向かって飛びかかる習性があります。農作業中に一服しようか、とライターに火をつけた瞬間に飛びかかってくるというケースもあるわけです。
ネズミが主食で(80%)、その他ヤモリ、トカゲ、カエル、トリ、ウサギなどを食します。ハブがハブを呑み込むケースもあるそうです。


●ハブ

ハブに咬まれる人もいます。奄美大島では年間40名前後、徳之島では100〜120名前後の咬傷者がおり、農作業、草刈り中に咬まれるケースが全体の51%、その他道路14%、庭10%、居宅内9%、山林7%という数字がまとめられています。好物のネズミを追って民家に進入してくるケースもあり、就寝中に咬まれる人が全体の3%もいるそうです。
 さて、アマミノクロウサギとハブの仲について、地元にはこんな昔話があります。
 ある時、村人がハブ退治に出かけたが、1匹も捕まりません。何度行っても捕まらない。「おかしい」ということで、村人が調べてみたら、ウサギが「退治に人が行くぞ」とハブに教えていました。そこで怒った村人がウサギの耳を切り、後ろ足を短くし、炭を塗って真っ黒にして追い払ってしまいました。「だからクロウサギになったのさ」とは、特長をよく捉えたお話です。
 
●ポスター

 ところが、血清をつくるためにハブの毒液を採取している名瀬保健所には、クロウサギを呑み込んだハブの標本がアルコール漬けにされて保管されています。これを見た島の古老が、「なんということ、ハブでさえ人情が薄くなった」、昔クロウサギに助けてもらった恩義を忘れてしまった、というのです。

同じ島に棲む希少動物たちは、ハブにさえ適応できれば生き残りができたわけです。
たとえば、クロウサギと同様に奄美大島に棲む希少種で天然記念物に指定されているトゲネズミの適応については面白い実験結果が得られています。
ハブはネズミを主食としており、当然このトゲネズミも狙われる。過去の実験で、同じ箱にハブとトゲネズミを一緒に入れたところ、ハブが攻撃しようとするとトゲネズミはぴょ〜んと飛びあがってかわしてしまいます。何度やってもハブにはトゲネズミを捕らえることができないそうです。つまり、ハブへの適応の仕方を長い年月をかけて学習してきたといえます。
 クロウサギも急斜面に棲み、糞はハブの苦手な日当たりのいい、見晴らしのいい場所にします。長い年月を経て、共生する場所でのハブへの何らかの適応をしてきたのでしょう。
 ハブの分布地で人間はハブを恐れてやたらに野山に入らない、これらのことが奄美大島と徳之島の自然を守ることになりました。ごくまれに、大型のハブがアマミノクロウサギを食べてしまうこともあるとはいえ、アマミノクロウサギはハブの通常の食べ物ではないようです。一つの巣穴にハブとアマミノクロウサギが同居している例も報告されており、アマミノクロウサギにとってハブは守り神ともいえる存在になっています。
ハブは島に住む人々にとって大きな脅威であることから、1990年から官民一体となって駆除活動が実施されています。1匹5,000円で保健所が買い上げています。2000年度のハブ捕獲数は奄美大島、徳之島あわせて23500匹。買い上げ数は年々向上しています。買い上げられたハブは、120‾130匹をまとめて約1時間かけて炭酸ガスで殺し、それを冷凍して、キロ3400円で専門店に卸されています。それらは健康飲料や、皮製品、あるいは生のままハブセンターにて「リサイクル」されています。

●ハブをよけるトゲネズミのジャンプ
 
●クロウサギを飲み込んだはぶの標本



●トゲネズミ

タイムカプセルの島


絶滅の危機にある動植物たち生物図鑑
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