
出水:御家元のプロフィールを拝見しますと、なんと4歳で初舞台。当時のことというのは、どれくらい覚えているのでしょうか。
観世:いや、あの、ご褒美につられてですよね。
出水:ご褒美・・?
観世:それはそうです。4歳の舞台の、多少の記憶というのはございますけど、やはりお稽古をして舞台にあがるというのは、ご褒美です。ご褒美をあげるからお稽古しましょう。それから、舞台が終わったらご褒美をあげましょうと。
JK:どんなご褒美ですか。
観世:当時、私が4歳の頃、50何年前はミニカーですね。1台1台、子方と言いまして子役でございますね。その子方を務めさせていただくたびに1台1台増えていきまして
JK:お稽古って、たいへん、苦痛ですか?
観世:もちろん、楽ということはございません。
JK:座ることから
観世:そうです。まったく理屈の世界ではないんですけども、じゃあ今日は10分座ってみようって言って、身じろぎ一つせずに10分まず座らせるんですよね、だんだん5分ずつ増やしていって・・・
JK:直接お父様から?
観世:はい。
JK:身内って、緊張感がないから難しいですよね。
観世:あのね。やはり我が家の家訓では、まず稽古場に入りまして、御扇子を前に行きまして、そして「よろしくお願いいたします」。それから「ありがとうございました」。こういう最低限のマナーが出来ない子には、一切稽古は付けてはならないという。
出水:そうですか!
JK:御扇子は仕切りですよね。
観世:そうです。
JK:師匠と弟子の仕切りをきちっとつけるという。
観世:作法です。
JK:基本的に小さい頃からお行儀がよくないと。お能の世界は。
観世:兎に角「うごくなー!」と言われるわけです。動くなと言われたら動かないということです。これは親たる、師匠たる、言いつけを守る。という。でも先生、同じ格好で長時間動かないということは、かなり内側のエネルギーを抑制していきませんとね。
JK:だから、そういう受けるという覚悟も少々無いと。
観世:おっしゃる通り。

JK:外国にお持ちになるでしょ。日本でもちょっとわからない面も沢山あるんですけど、そういうときはどうするんですか?
観世:一度ね、舞台のいわゆる、天井部分にデジタルで母国語で、いま何やっています、というのをやったことがございます。でもそれは賛否両論です。
JK:眼が集中しませんね。
観世:おっしゃる通り。
JK:わかってもわからなくても抽象的に、漠然と、それが能なんだということから入って、その方がいいかもしれないし。ストーリーを追っかけて見ながらではなくて、確かに気が散りますよね。
出水:海外での公演は、フランス、インド、タイ、中国、アメリカ、ドイツ、リトアニア、沢山の国があがっていますけど、印象に残っている国は。
観世:リトアニアの文化大臣の方が、大変歓迎したと。故郷の教会のミサをやっているように感じたと。それは具体的にどういうことですか?と。様式美の美しさ、ということを盛んにおっしゃっていただいた。まことに一矢乱れず、コーラス、歌っている姿。それから先ほど先生がおっしゃったシンプルな動きといいますか、それに非常に感銘を受けて、故郷の宗教儀礼を見ているようだったっておっしゃってくださったんですね。

JK:シンプルというか、省略美ですよね。すべてをそぎ落として、残った綺麗なものを見せていくという。日本の原点もいいところで、だんだんなくなってきているんですよね。でも(御家元は)普段の生活も、省略美なんですか?
観世:いえいえ、普段の生活も、家に帰れば家族がいますし、愛犬もいます。ミニチュアダックスですが。ごくごく普通の。
出水:御家元ご自身がお散歩に行かれたり?
観世:ええ、参ります。家内に言わせますとキッドと申しますが、キッドちゃんにはあんなに優しい言葉をかけていて、って、大ヒンシュクを買っています。
JK:ご家族の支えというのは、大切ですよね。
観世:もちろんです。もちろんです。家内をはじめ、家族が私の大応援団でございますので、家庭は本陣。合戦の本陣だと私は思っております。楽屋っていうのは戦場ですから。本陣を守ってくれている家族というのは、大事ですね。
JK:大きな貢献ですよね。家族があって、気持ちの余裕があって、集中できるという。
観世:ですからお人によっては、楽屋に入った瞬間に人が変わる方もいらしゃいますが、私は遅いんです。面を頂いた瞬間にスイッチが入ります。
=オンエア楽曲=
M1. Love You To / The Beatles
M2. Don't Take Your Time / Roger Nichols & The Small Circle Of Friends