そろそろ梅の花が咲き始めました。
きれいだなあと思う人はたくさんいても、今年も大変だなあと梅農家に思いをはせる人はそれほどいないのではないでしょうか。
関東有数の梅の里、埼玉県越生町(おごせまち)で80年続く古い梅農家「山口農園」代表、山口由美さんも21年前に農園に嫁いでくるまではそうでした。
元々は幼稚園の先生で、結婚の直前までご主人の実家が梅農家だとは知らなかたそうです。どうりでよく梅干を持ってきてくれるなあと思っていたとか。
「農業は手伝わなくていいから」と言われていたのに、いざ結婚すると梅の収穫から加工・出荷までしっかり手伝うことに。梅農家というのは一年中とても忙しいんです。
冬は農園にある300本の梅の木の剪定、花が咲いたら体験教室、暖かくなってきたら枝の消毒、実がなり始めたら摘果(てきか)、やがて小梅の収穫が始まり、梅雨に季節は大きな青梅の収穫も。夏を迎えたら梅をしばらく漬け込み、続いて天日干しを秋まで毎日。そしてまた梅の木の剪定…。まとまって休めるのは一年間で数日だそうです。
こうした梅の作業のほかに、山口さんは古い本家の嫁としての仕事や親戚づきあい、さらに3人の子育てもあって、一日24時間では足りないほど忙しかったそうです。自分で自由に使える時間もお金もない毎日。幼い子を連れて農園を逃げだそうとしたことも。
でも10年前に転機が訪れます。農園の2代目である義父・正雄さんが倒れてしまったのです。夫の博正さんは町役場の職員なのでなかなか手伝えない。だったら農園は自分が続けるしかないと決意します。あんなに逃げ出したいと思っていたのに…。
山口農園の梅干しは、塩だけを使った昔ながらの味。新しい梅干しは塩気が強いんですが、5年、10年と寝かせるほどにとがった酸っぱさに丸みが出てきます。
毎年1.5トンの梅干しを出荷するとき、山口さんはひと粒ひと粒、大事な娘をお嫁に出すような気持ちなんだそうです。
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