藤井賢一さんは茨城県つくば市の産業技術総合研究所(産総研)で、「質量」の基準となっている「キログラム原器」を管理している方です。
日本で使われるオモリやハカリはすべて、産総研にあるキログラム原器を基準にして作られています。
そして、そのキログラム原器のおおもとになっているのが、フランスのパリにある「国際キログラム原器」。
日本の原器はパリの原器と寸分の狂いもないように、1889年以来、120年以上にわたって厳重に管理されています。
ところが実は、国際キログラム原器は廃止されることが決まっています。当然、各国の原器も廃止されます。
というのは、パリの国際キログラム原器と各国のキログラム原器の質量を比べたら、ほんの少しだけズレがあったんです。キログラム原器という「モノ」(人工物)を基準にしているとわずかでも質量が変化することは避けられません。事実、この100年の間にわずかですが(指紋10個分!)原器の質量が変化したそうです。ごく微量の変化ですが、ナノテクノロジーが飛躍的に発展している今となっては決して無視できない「大きなズレ」。
そこで、この宇宙の中で不変といわれる物理定数(アボガドロ定数やプランク定数)を使って、誤差が小数点以下8ケタという精密さで新たに「1キログラム」を定義しなおす研究が進められているんです。
実現すれば、ナノテクノロジーや新薬の開発など、超ミクロの世界を扱う分野で大きな技術発展が期待されるそうです。
120年以上も質量の世界標準であり続けた国際キログラム原器の廃止と、それに代わる新しい「1キログラム」の定義は、2018年に開かれる国際度量衡委員会の総会で決まる予定。
日本のキログラム原器の役目もそこで終わりを迎えます。
そして藤井さんが、日本キログラム原器の最後の管理責任者ということになります。
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